重たいハリネズミ キルピ機動車

キルピは、2009年から導入の始まったトルコの機動車です。

耐地雷車両(MRAP)としての側面もあり、今どきの機動車らしく高い防御力と快適性、拡張性を備えています。


重量は18t。長さ6mと比較的小柄ながら、かなり重い車両です。

運転手などを含め、13人の兵士を運ぶことができます。後部に乗せられるだけでも、10人です。


防御力は軽機関銃やアサルトライフルの弾を弾く能力があり、タイヤの下で爆発した対戦車地雷にも耐えることができます。

60m上空で爆発した榴弾砲の破片にも対応しており、機動車の中でも比較的高いレベルの装甲を誇ります。


しかも、珍しく「全周」防護であり、あらゆる角度から機関銃弾を弾きます。

敵に頭を向ける必要が無いというのはいい所です。


攻撃力についても文句はないでしょう。上部には銃手が座るタレットが装備され、機関銃を取り付けることができます。

タレットは装甲板で守られ、横方向全周に対して防御力を発揮します。


このタレットはオプションで自動銃塔にすることができ、使い勝手を犠牲により高い安全性を実現することができます。

また、中の兵士は近距離に迫ってきた敵に対して車内から戦うことができます。


普段はカバーにおおわれた銃口(ガンポート)を開き、そこから射撃します。

ガンポートは片側に5つあるので、全員が一度に戦うことができます。


エンジンは375馬力と強力で、EUのガス排出基準に則って作られています。軍用車両だから環境に悪いことをしても良い、とはならないということですね。

こうした地味な配慮は、一部の軍隊や民間軍事会社の採用競走で僅かながら有利に働きます。


タイヤは4×4と中型以上のトラックでよく見られる構成ですが、前輪のみを駆動させるか後輪も動かすかを選ぶことができます。

前輪のみを動かす場合は、燃費が良くなる代わりに不整地の走破性は悪化します。四輪駆動の場合は逆になります。


GPSシステムを標準装備しており、自分がどこにいるのかがすぐに分かります。組織だった機動をする際に、重要になるでしょう。

リアビューカメラが付いているので、下がる時の取り回しはかなり良いはずです。


自動消火システム、ABS(アンチロックブレーキシステム、急停止するときでも操作が効くようにするシステム)など、細やかな装備も装備しています。

油圧ウィンチで簡単にけん引できるのも強みでしょう。


トルコはキルピ機動車が導入されるまで、低防御力の装甲車両を主要な移動車両として使っていました。

そうした車両はただの銃撃で損傷し、高い確率で死傷者を出しました。


キルピ機動車は、銃撃に耐えながらも使いやすい車両という選択を提供し、トルコ軍の死傷者を大きく減らしました。

ウクライナでも、同様に使われるでしょう。多少の攻撃には負けず、歩兵を素早く機動させることができます。


キルピ機動車は、あくまで機動車です。

重機関銃の攻撃に耐えるほどの装甲はなく、敵の装甲車を破壊できるような武装もありません。


MRAPであるブッシュマスターなどと比較して装甲が薄いのはともかく、重量で上回るのはいただけないところです。

重量にエンジン馬力が追いついていないため、鈍重です。最高速度と航続距離で勝るのが救いでしょうか。


これは全周防護の弊害と言えるでしょう。

薄い割に重いというところが、個人的には不安を覚えます。


ガンポートは防御上の弱点です。ガンポートまで同じ装甲があるとは考え辛いです。

どの装甲車でも、採用されては防御力を上げる度に廃止されてきた機構であり、これまた不安な点です。


ただ、今のロシアのような質の低い兵を大量突撃させるやり方に対しては、ガンポートのメリットが上回るかもしれません。

側面に対して銃弾をばらまける、しかも大量の弾幕を張ることができるのは、やはり攻撃と同時に防御上の魅力にもなり得ます。


現在(2023/2/18)、キルピ機動車の損害はMRAPとして数えると、二番目に多い車両となっています。

恐らく損耗率でも上位に来る車両となっており、ロシア軍のような正規軍相手には全周防護が仇となっている感じがします。


一方機動車として見ると、高い防御力を持っていると評価できます。

弱点部が少なく、そもそもの装甲が厚いことが理由のように思われます。


キルピ機動車は、機動車の分類でありながらMRAPの特徴をふんだんに採り入れた車両です。

実際にMRAPとして見る動きの方が強く、見た目もMRAPそのものです。


機動車だと思って使えば、高い防御力と攻撃力で歩兵を一方的に追い払うことができるでしょう。

決してその防御力を過信するようなことはしてなりません。そういう車両です。


キルピ機動車はタイヤが4×4のショートバージョンの他に、6×6にして乗員を2人増やしたロングバージョンも存在します。

高レベルの電子機器と兵器システムが搭載された場合は、歩兵戦闘車として戦うこともできます。


逆に、タレットの機関銃を取り外して、純粋な移動手段として使うこともできます。

救急車バージョン、地雷探知・処理バージョンも存在します。


独特な面も多く、素直に良いと言える兵器ではないかもしれませんが、機甲戦力に劣るウクライナ軍にとっては重要な戦力です。

歩兵を装甲で守りながら機動できる、これは特に攻勢において重要となる能力でしょう。


ロシア軍の戦線を突破するのは戦車の役割ですし、戦車が突破しやすいように戦線を穴だらけにするのは榴弾砲の役割です。

しかし、戦車の後ろに続いて取り返したばかりの土地の防御を固めるのは歩兵の仕事です。


歩兵を迅速に、そして比較的安全に動かす。この役割を果たせるという点において、キルピ機動車もまた優秀な兵器と言えます。

役割を理解して動かせば、十分に貢献してくれるでしょう。

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