近未来への便り ドローンディフェンダー
SFチックな外観のドローンディフェンダーは、2016年からアメリカで使われているアンチドローンライフルです。
アメリカ軍は強大な軍事力を持ち、航空優勢を掌握することで圧倒的な空軍力を敵に叩きつけるという戦い方を長年行ってきました。
その最たるものが、湾岸戦争でしょう。圧倒的な空軍力は、砂嵐に邪魔をされながらも常に空の覇者を決定付け、勝利を揺るがぬものにしました。
これは絶対的航空優勢と呼ばれ、従来の制空権に近い考え方でした。
空を制圧する……アメリカ軍にしかできない戦い方であり、アメリカ軍の強さを感じさせてくれる概念です。
しかし、対テロ戦争では事情が変わってきます。
空軍力は健在でしたが、航空優勢が取れなくなってしまったのです。
もちろん、テロリストにジェット戦闘機を撃ち落とせるわけがありません。
高空の航空優勢は完全にアメリカのものであり、テロリストは戦闘機や攻撃機、ヘリなどに狩られていました。
アメリカ軍が取れなかったのは、上空1000m以下の超低空の航空優勢でした。
テロリストは市販のドローンを使ってアメリカ軍を監視し、上から手榴弾を降らせて攻撃したのです。
もちろんこの程度でアメリカの軍事力が揺らぐはずもありません。
ですが、大切な国民が圧倒的に弱いはずの相手に死んでいく様を見せつけられた世論は、戦争を否定するようになっていきます。
そうしてアメリカは不利な立場に立たされ、最強でも無敵にはなれないこと、枷があるとどうしようもなく足を引っ張られてしまうことを学びました。
ええ、学びました。アメリカ軍はトライ&エラーを繰り返して学ぶことが得意な軍隊です。
テロリストによる斬新な嫌がらせ攻撃……しかし嫌がらせの域を出ない攻撃では、大失態と言わざるを得ません。
アメリカ軍はNATO諸国と連携しながら、小型のドローン対策に力を入れ始めます。
兵器開発というのは時間がかかるのでどうしてもタイムラグは発生しますが、2010年代、20年代にもなると強烈な対ドローン兵器が次々に生まれ始めます。
全周を警戒しつつレーザーで無数のドローンを焼き切る兵器システムや、マイクロ波で薙ぎ払う車両、誘導機関砲弾による物理防御などなど……。
ここ数年の目を見張るような対ドローンシステム群は、テロリストが作ったようなものです。
ドローンディフェンダーはそんな兵器群の一つです。射程の短さを受け入れつつも、小型のドローンを無効化するためにつくられました。
ドローンディフェンダーの特徴は、あくまで無効化することを重視している点です。
破壊することは目的としておらず、一切の被害を出さないように軟着陸させます。
照準は普通の銃と同じです。落としたいドローンを、照準器の先に収め、トリガーを引きます。
するとドローンを「乗っ取る」電波が発射され、ドローンは着陸します。
詳しい仕組みは一切が不明です。本当に乗っ取っているのか、それとも着陸するためだけの電波を叩き込んだ直後に通信を切ってしまうのか、あるいはまったく違う方法なのか。
一つ確実に言えるのは、400m以内にいる小型のドローンなら、簡単に無力化してしまうということです。
着陸させるという無効化の方法は、敵のドローンの鹵獲を容易にします。
さらに、無効化だけではなくGPS信号の送受信も妨害し、砲迫の誘導を妨げることができます。
ドローンディフェンダーは重く、かさばり、銃弾よりも重いバッテリーを消費します。
射程距離は400mなので、それ以上の距離から偵察してくる相手には有効ではありません。
中型のドローンにも有効ではないでしょう。
なぜなら、そうしたドローンは高度400m以下を照準できる速度で飛ぶことは少ないからです。
よって、ドローンディフェンダーが対象とする相手は、手りゅう弾や迫撃砲弾などを直上から落としてくるようなドローンに限られます。
しかも、1つのバッテリーにつき2時間のみです。
とはいえ、アンチドローンライフルはジャンル自体が新しく、まだ手探りの状態にあります。
ドローンディフェンダーが重くて短時間しか稼働できないとしても、そうした欠点はアンチドローンライフルの中ではいたって普通であり、劣っていることを意味しません。
本体の重量は6.8kgです。バッテリーを加味しても、機関銃とその銃弾を持つよりは軽いでしょう。
使い勝手がこれまでの小銃と変わらないのも良いところです。特別な訓練を長時間続けることなく扱えます。
小型ドローンによる脅威は、今後も増し続けるでしょう。
今は民間用ドローンを使って、カンで爆発物を落とすだけですが、将来的にはもっと小型で静穏性の高いドローンが忍び寄ってきて偵察、自爆攻撃を行うこともあり得ます。
操作は人から機械へ。人間が出した簡単な指示に従うプログラミングがしばらくは主流でしょうが、AIによる独立操作がなされてもおかしくはありません。
既に受信側ではAIが使われており、ドローンが送った映像を解析して敵の場所をマップに表示させるといったことができています。
複数のドローンを一括で操作する技術は、今や民間にもありふれたものとなりました。
ドローンの間で情報を受け渡ししつつ、それぞれが考え、一群となって敵を襲うスウォーム戦術も実現が見えています。
そうしたドローンを破壊するためのドローンも登場しており、今でこそどれも手探りですが、今後洗練されていくこと間違いありません。
こうした戦場に対応するために、アンチドローンライフルは不可欠な武器となっていくでしょう。
今はまだ大きくて邪魔くさい代物ですが、ピストル大になったり、普通の銃のアクセサリーとして付けられるようになったりと派生するかもしれません。逆もあり得るでしょう。
その先駆けの一つとして、ドローンディフェンダー誕生し、今ウクライナで実戦を経験しているのです。
因みに、対テロ戦争を経験しすぎたアメリカ軍は、ウクライナ戦争で砲弾備蓄の少なさに発狂しながら2022年の対テロ軍事作戦を一切の死者を出さずに完遂することになりました。化け物はやっぱり化け物でしたね。
あと、例に出した四つの近未来的なドローン(とそのシステム)は各国が開発していますが、それぞれ進んでいるのは順にイスラエル、日本、中国、アメリカです。
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