全てを見通す小さな鷲 MQ-27 スキャンイーグル

スキャンイーグルは2004年からアメリカで運用されている、小型の無人偵察機です。


ウクライナの戦争では、様々な無人機が活躍しています。

マルチコプター型の、小回りが利く短距離タイプや、固定翼型(普通の飛行機と同じ形)の小型〜中型タイプ、小型の自爆タイプまで。


映像こそ出ていませんが、イギリスが極小の手乗りドローンを供与していて、至近距離でのにらみ合いや市街地戦などで活躍しているかもしれません。

スキャンイーグルもこうした、種々雑多なドローンのうちの一つです。


スキャンイーグルは小型で固定翼方式のドローンです。

とりあえずカメラで様子が分かればいい、というある意味どうでもいいドローンではなく、数百人や数千人規模の部隊のまとまりの中で使いやすい偵察機として活動します。


偵察部隊の一員でありながら、偵察部隊の役目を肩代わりする存在です。

徒歩や車両を使うよりも自由で早い、空から敵部隊を発見するためのドローンであり、正確で多機能なことが求められています。


人間一人で持ち運べるコンテナに収納され、通常は二人以上で運用します。

小型のカタパルトで射出され、着陸する時はスカイフックと呼ばれるアームとケーブルに主翼をひっかけてぶら下がります。


重量は22kg、最大速度は150km/h近く、燃費よく飛べば滞空時間は22時間を超えます。

実は、元々気象観測や漁業用の民間無人機「シースキャン」を軍事転用したものです。


まあここまでなら、よくある単純な作りの無人偵察機です。

気軽に飛ばして、偵察して、落とされればそれまでの、カメラに翼が付いたようなドローンです。


しかし、スキャンイーグルはその小ささとは裏腹にとんでもない「カメラ」を備えています。

まずは安定化電気光学カメラ……ようはブレ補正付きのカメラです。これ自体はドローンに必須の装備ですね。25倍ズームができます。


次に、赤外線カメラ。毎秒30枚の赤外線画像を生成することができます。

ただ、スキャンイーグルと同クラスのドローンであれば、付いていることが多いです。


スキャンイーグルはこの普通のカメラと赤外線カメラを片方ずつ、または両方選んで搭載することができますが、代わりに全く別のカメラを搭載することもできます。

それが、合成開口レーダー(SAR)です。


SARは従来のレーダーとは違い、レーダー画像を取得することができます。

これは通常、衛星や大型の偵察機、または新しい戦闘機などで使用されるものですが、スキャンイーグルは世界最小のSARを搭載できます。


SARは画像を得るために大量のレーダー照射と、その情報を処理する高性能なコンピューターを必要とします。

スキャンイーグルは高性能な通信機器を備えることで、処理の仕事を地上のコンピューターに投げることができ、SARの搭載を可能にしました。


SARがあれば酷い悪天候でも、それこそスキャンイーグルが飛べないような状況でも、高精細な地上画像を得ることができます。

また、さらなる処理を施すことで、3D画像を得ることも可能です。


レーダー自体は小さくとも、いくつものレーダー情報を組み合わせることで、あたかも超巨大なレーダーで見ているかのような情報を得ることができるのです。


SARを使うためには安定した飛行を行う必要がありますが、機械的な制御ができるドローンはそういう意味で適しています。

ただ、大きさと重量が制限されているため、突風には弱いと思われます。


スキャンイーグルは100km以内の制御コンピューターと通信することができるため、発射場所から100kmが行動範囲になります。

しかし複数の制御コンピューターがあれば、制御を受け渡しできるため、行動範囲を広げることができます。


高度5kmほどで活動することができますが、もちろんもっと低い高度でも偵察することができます。

歩兵が携帯する対空ミサイル、マンパッヅが多い場所では高く、それよりも射程の長い対空システムがある場所では低く飛ぶことで対空ミサイルを避けつつ偵察を続けられます。


内燃機関なので熱は出てしまいますし、レーダーから逃れられるほど小さくもありません。

速度に優れたドローンではありませんし、防御機能もありません。


良いカメラを搭載できますが、しょせんは小型の無人機なので、できることは限られています。

決して高性能なドローンというわけではありませんし、手投げ式ほど気楽に使えるドローンでもありません。


しかし、前線の様子を偵察するのにはちょうどいい大きさのドローンです。

滞空時間が長いため、戦闘中でも連続して観測することが可能です。


敵がスキャンイーグルに気づかなければという前提付きですが、敵の様子を逐次観察してリアルタイムで報告できるというのは、とてつもないアドバンテージになります。

場合によっては、都市や道路を確保できるかという話に繋がってくるでしょう。


気軽で、失っても痛くはなくて、でもあると強い存在。カメラを付け替えれば悪天候でも地上の様子が手に取るように分かる。

素晴らしい目を提供できるのが、スキャンイーグルというドローンなのです。

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