コラム:戦車の役割
四章構成で戦車のことを解説します。長いのでさっさと始めましょう
一章:戦車はザコ
2023/1/13、ウクライナが熱望していた戦車がようやく供与されそうです。
しかし、ウクライナはなぜ戦車を求めるのでしょうか。
戦車は一両数億円もする、高価な陸上兵器です。しかし天敵が多い兵器でもあります。
航空機には成すすべがなく、数万円のドローンすら落とすことができません。
攻撃機や対戦ヘリコプターには一方的に撃破されてしまいます。
地雷にも脆弱です。戦車は正面の装甲こそ厚いものの、他の面は薄くなっています。
最近の戦車こそ地雷対策に力を入れていますが、それでも地雷が天敵であることに変わりはありません。
歩兵にも弱いです。歩兵は最も安価な兵でありながら、対戦車兵器を多数揃えて戦車に対抗できます。
対戦車ミサイルや、リスキーですが近距離からの無反動などを有利な地形から撃ってきます。
砲兵も天敵です。砲兵が放つ大口径の榴弾は、直撃すれば戦車を破壊できます。
最近は誘導砲弾が発達し、ドローンと組み合わせて簡単に直撃させてきます。
このように、戦車は決して強くは無い、むしろ弱い部類の兵器であることが分かります。
ですが、ウクライナに限らずどこの軍隊でも歓迎され、主要な戦力と位置づけられ、戦車の数で陸軍力を計ります。
なぜでしょうか?世界の軍人は戦車が最強だった時代に取り残されたままなのでしょうか。
戦車はイギリスで生まれ、第一次世界大戦の塹壕を次々と突破した兵器です。その時代に思いを馳せるあまり、病気のような思考に取り憑かれてしまったのでは。
そう思う方もいらっしゃいます。無理もないことです。戦車の相対的評価は、その性能や価格を考えると低いものですから。
しかし待ってください。まず、戦車が最強だった時代など、ないのです。
戦車は第一次世界大戦の塹壕を突破しましたが、塹壕戦を終わらせたわけではありません。数が少なくて、しかも役たたずだったからです。
当時の戦車はとても遅く、故障が多いものでした。なので、戦場に現れたその瞬間は敵を威圧しましたが、すぐに対策を取られてしまいます。
地雷、砲兵、航空機によって戦車は危機にさらされ、なんとか解決しようとしているうちに第一次世界大戦は終わりました。
戦車がようやくモノになった第二次世界大戦では、航空機、砲兵、対戦車ライフル、対戦車地雷、無反動砲など戦車への対抗手段が増えました。
特に航空機に対して弱いのに、航空機の方が進化のスピードは早く、制空権を取った連合国はドイツ軍戦車を次々に撃破しました。
ドイツ軍は強力な戦車に固執し、どうしようもなく負けていきます。
その後は対戦車ミサイルや対戦車ヘリなども現れ、現代の対戦車兵器群の豊富さに繋がっていきます。
そう、戦車は生まれた瞬間から相対評価は高くなく、どころか今日に至るまで落とし続けてきたのです。
世界の軍人が戦車を評価する理由が、ますます分からなくなってきました。
これは軍事企業が高額な兵器を売りつけるための謀略なのでしょうか。それともディープステートが関与しているのでしょうか。みなさんこれはおそろしいじたいです(棒)
ところで、私はしつこく「相対評価」と言い続けています。
相対評価というのは、何かを何かと比べた時の評価ですね。
では相対的ではない評価とは何でしょうか。別のものと比べなくても、その何かについて確実に言えることになります。
私は、これを絶対評価、絶対的評価と呼んでいます(ちゃんとした専門用語として使えるか調べていないので、使う時は注意してください)
トラックはものをいっぱい運べます。これが絶対評価です。
トラックはスポーツカーと比べて遅いです。人間と比べたら速いです。これが相対評価です。
戦車に視点を戻しましょう。戦車は相対評価の低い兵器です。
しかし、強い強いと持ち上げられ続けています。そう、戦車はその絶対評価、絶対的価値が青天井に高い兵器です。
だから言われるのです。最強だと。
二章:戦車は強い
陸上の兵器は、非常に大雑把に分けて「歩兵」「砲兵」「機甲」の3タイプに別れます。
本当はもっと複雑に絡み合っていますが、ウクライナでの戦争はこの三すくみに近い状態になっています。
歩兵は、安価で数を揃えやすく、防御に強いです。塹壕を掘り、建物の中にこもり、草木に隠れ、多種多様な兵器を使えるのでジャイアントキリングが得意です。
一方で移動速度は致命的に遅く、何かしらで補わなければ攻撃に使えません。
砲兵は凶悪なまでの火力を持ち、攻防共に使えます。
しかし基本的には歩兵であり、物理的な防御力は低くて機動力も低いです。
機甲は、火力防御力機動力を全て備える兵器です。強いぶん高価なので、防御にも使えますが攻撃の方が得意です。
……ここで、ちょっと違和感を感じた人は挙手。だって砲兵は防御力が低いんだから、攻防どっちにも使えるわけないじゃんね。
そういった違和感を感じた人は正解です。なぜなら、(厳密に言うと)これは兵科の解説であって兵器の解説では無いからです。
ここで書いた攻防は、砲の威力が高いとか厚い装甲があるとかもそうですが、数百キロ以上にもなる戦線から見た攻防です。
この攻防は、細かな数値を見るよりも、人間の殴り合いに例えた方が少しばかり分かりやすくなります。
はい、今から1つの軍隊は、1人の人間です。人間が殴りあっています。そういう話にしてください。
殴り合いは、殴らなきゃ勝てません。まあそれが目潰しでも張り手でも良いですが、とにかく攻撃しないと勝てません。
拳を繰り出します。その拳が、機甲です。相手に防御されるかもしれませんが、とにかくぶん殴れます。
その機甲の中でも、戦車をふんだんに入れた機甲は恐ろしい威力があります。プロボクサーのパンチです。
プロボクサーのパンチはなぜ強いのでしょうか。威力があるからですね。重たくて素早い一撃なので、威力が高いのです。
戦車も同じです。厚い装甲によって生半可な攻撃を弾き、高い攻撃力で敵を粉砕し、泥濘でも強引に進む機動力があります。
だから戦車のパンチは重たいんです。はい、ここで人間に例えるの終わり。
これをもうちょっと難しい言い方にすると「戦場機動力が高い」となります。
単に機動力が高いだけではダメです。戦場は銃弾砲弾その他様々な脅威が飛んできます。そこを突破できる能力が必要です。
戦車は厚い装甲と十分な速度があり、また地形を乗り越える性能の高い履帯(キャタピラ)式なので、戦場機動力が非常に高いと言えます。
脅威があってもバンバン進んでくるので、中々止まってくれません。逆に味方に戦車があると、バンバン進めるわけです。
もうひとつ、「衝撃力」が高いのも特徴です。
衝撃力には、攻撃防御機動の三種類が全て必要です。防御×機動力で敵の防御を突破し、攻撃力で敵を殲滅します。
昔の戦場で言うと、重装騎兵が有名です。三種類全て揃った兵科は、敵の前線を吹き飛ばして穴を作ることができます。
穴を作ることができれば、戦場機動力と衝撃力の高い機甲戦力は相手が穴をふさぐ前に拡張することができます。
これは歩兵や砲兵ではできません。機動力を上げることはできても、防御力が足りないので戦場機動力が足りませんから、すぐに止められてしまいます。
これが、機甲戦力が必要な理由です。戦線を突破し、傷口を拡張し、土地を取り戻すことができるのは、機甲戦力だけです。
そして戦車は、この能力が数ある機甲戦力の中で最も優れています。だから戦車が欲しいわけです。
そうは言っても、装甲車だってできなくは無いのです。
あれだけ装甲車を供与されて、ウクライナはまだ戦車を欲しがっています(戦争の酷さを考えると「たったあれだけ」なのですが、まあそれは置いておいて)。
それはただ西側諸国に甘えているだけなのでは?そう思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私はそう思いません。もう一度、人の話に例えてみましょう。軍隊は人間です。
戦車はプロボクサーです。装甲車は戦車ほど強くはありません。アマチュアボクサーです。ロシア軍は、運用が拙いとはいえプロボクサーもアマチュアボクサーも沢山雇っています。
ウクライナ軍に多くいるのはアマチュアボクサーです。もしくは、それですらない一般人(歩兵)です
アマチュアがプロに勝つにはどうすれば良いでしょうか。簡単なのは、数倍の数で襲いかかることです。
もしくは拳を捨てて、もっとリーチの長い武器を持つべきかもしれません。
戦争初期のウクライナ軍はそうした手段が取れませんでした。
なので、鎧を着ました(塹壕を掘りました)。自分から攻められませんが、相手の攻撃を耐えることはできます。
西側諸国から色んな兵器が供与され、ロシア軍から大量に鹵獲した後は数の暴力やリーチの長い武器を使えるようになりました。
これで一気に押し込める……!そう思ったのもつかの間、今度はロシア軍が鎧を着始めたのです。
ボクシング大会は、鎧を着た相手を剣や槍で叩き合う中世の戦場と化しました。
双方被害が増えるばかりで、一向に決着がつきません。当然、戦線も動きません。
抜き身になってもアマチュアボクサーでは鎧の防御力を打ち破れず、拳を骨折したりケガしたりと散々な目に会います。
もうどうしようもありません。動きようがありません。ロシア軍にはまだプロボクサーがいますが、損耗を恐れて後ろに引っ込めてしまいました。
しかし、もしここに鎧をぶち抜く存在がいたら?
ノタノタとしか動けない、鎧を着た相手を殴り倒して後方に周りこめるプロボクサーがいたら?
後ろに控えたプロボクサーすら倒せる、強いプロボクサーがいたら?
一気に戦線が動きます。その可能性を見出すことができます。
土地を取り戻すことができます。この戦争を、早く終わらせることができるかもしれない。
だからウクライナは戦車を、それも西側諸国の戦車を欲しがるのです。
装甲車が大量に供与されても、この願いは変わりません。人を失いやすい装甲車をそろえるより、高い防御力を誇る戦車を揃えたいのは当然でしょう。
戦車は損耗の多い兵器ですが、弱いから損耗が多いのではありません。
損耗が多くなる過酷な戦場に耐えうるのは戦車のみで、仕方なく酷使されるから損耗するのです(例外はありますが)。
戦車を多数失うことになっても、戦争が早く終わるなら結果的に安く済みます。
失うことを恐れて延々と戦争していたら、経済そのものに悪影響を与えます。戦車はコスパに劣るようで、実際には非常にコスパの高い兵器です。
ウクライナ軍がしつこく戦車を欲しがる理由は、戦車の役割を知ることで導き出すことができます。
少しでも皆様の理解が深まれば幸いです。
三章:最強の対戦車兵器って?
最後に、現代の技術で可能な最強の対戦車兵器を作ってみましょう。
最強の対戦車兵器があれば、戦車など怖くありません。どんなに戦車が攻めてきても、防御できます。
まず、戦車を倒すには火力が必要です。戦車の戦場機動力と衝撃力は、防御力に支えられるところが大きいです。
防御の強さを取り払ってしまえば、その力を大きく弱めることができます。
ということで、ジャベリンのような対戦車ミサイルができました。
しかし、当たり前ですが色んなものが足りません。これでは最強にはほど遠いので、もう少し付け足しましょう。
戦車を破壊できても、迂回されてしまえばどうしようもありません。
戦車においつける足が必要です。素早く動きましょう。
これで、対戦車自走砲が完成します。せっかくなので、キャタピラではなくタイヤ式にして……最近よく見る装輪式自走砲になりました。
これは強いはずです!しかし、エンジンや車体を付けると高額になります。戦車との値段差が縮まってしまい、簡単に撃破されるようではコストパフォーマンスが悪くなります。
撃破されないためには、やはり装甲が必要ですね。戦車砲に耐えられる厚い装甲を付けましょう。
ですが、それだけ厚い装甲を付けると重くなってしまいます。タイヤでは支えられないので、仕方なく装軌(キャタピラ)式に戻しましょう。現代技術の限界ですね。
キャタピラになったので遅くなりました。強力なエンジンが必要です。
キャタピラになるのは悪いことばかりではありません。重量制限が緩和されました。
先手を取れるように良い電子機器を付けて……味方との連携も大切です。良いネットワーク機器も付けましょう。まだ余裕がありますね。
軽いけど制限の多い対戦車ミサイルではもったいないので、大きい砲を積みましょう。戦いやすくなりました。
これぞ最強の対戦車兵器です!紛うことなき、戦車より強い対戦車兵器ができました!みんなこれを装備すれば、戦車を破壊しまくることができます!
最後に名前をつけましょう。この最強の対戦車兵器の名前は……うーん、命名!
「戦車」
四章:まとめ
真面目な話、戦車の攻撃から防御するのに1番いい兵器は戦車です。
対戦車兵器は、基本的に何かを捨てて安くしているのであり、戦車と1vs1でぶつけたら基本負けます。
そのため、対戦車兵器で戦車に勝つには何かしらの策が必要ですが、そんな暇がないときもあります。戦車が戦線を突破してきた時とか。
そういう時に戦車をぶつければ、あとは戦車と現場指揮官の能力次第になります。
とっても楽に敵の戦車を止められるので、強いのです。装甲車では能力が足りぬ。
しかしながら、戦車だ装甲車だなどと、古い戦場の話みたいですよね。
やはりこれからの時代はドローンが活躍します。ただ、戦車を破壊できるドローンというのはどれも高額です。
決して数万円で買えるものではありません。それでも数千万円ほどのものもあり、戦車に対する有効な策になります。
ただ、非常に経戦能力が低いです。経戦能力とは、どれだけ長く戦えるかということです。
戦車を破壊できるドローンで安いものは、大抵使い捨てです。何両も破壊できるドローンは、戦車以上に高額で、飛行場が必要です。
これでは、多くの戦車に一度に攻めてこられると処理が間に合いません。そして戦車は拳なので、集中して運用するものです。
では対戦車ミサイル、となっても結局似たような問題が付きまとい、おまけに人命を損耗します。
誘導砲弾はどうでしょうか。砲兵の経戦能力は高いです。
しかし、必ず誘導用のレーザーを照射する人員かドローンが必要です。戦車の攻勢が成功すると、もれなく人員はひき潰されます。
まあぶっちゃけドローンと誘導砲弾の組み合わせは非常に強いです。
が、そういったドローンはちょうど対空ミサイルのいいおやつになる大きさです。
なにより、これらすべて、戦車の役割を代替できません。
戦車を止めるだけの手段をそろえるより、戦車を止められて攻め込むこともできる兵器を中心にそろえた方が安い場合もあります。
だから、状況次第ではありますが、戦車は安いのです。
最強の対戦車兵器は、戦車なのです。
……まあ、そうはいってもお高いことに変わりはないので、いろんな兵器をまんべんなくそろえて組み合わせることが一番重要です。
全ての兵器に強みがあります。役割が分かれています。それだけは、覚えていてあげてください。
……よし、これでどの戦車が来ても楽に解説できるぜ
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