ニコイチ=安くて強い!? APKWS

APKWSは2012年からアメリカで使われている誘導ロケット弾です。


Q:ロケット弾は誘導されませんよね?なんでミサイルって言わないんですか?

A:色々複雑なんだよ。予算とか


2010年のアメリカ軍は、精密ですが高価な対地ミサイルと、安価ですが誘導性能の無いロケット弾の組み合わせに難儀していました。

戦う相手の変化によって予算は削減されてミサイルは使い辛くなり、かといってロケット弾を使うと精度が悪すぎて目標以外の人まで殺してしまうからです。


精度を高めよう、もしくは機関砲を使おうと接近しすぎるとヘリに損害が出るし、目標に気づかれて逃げられてしまうかもしれません。

それでは本末転倒です。対テロ戦争は、予算面で厳しい状況に立たされました。


世論は、間違っても一般人を殺してはいけない。どころか関係の無い建物に損傷を与えることすら非難する風潮です。

どうにかして安く、しかも精密で長距離攻撃できる兵器を開発する必要がありました。


安くするには、開発費まで削らなければいけません。

超先進的な技術を用いて高いコストパフォーマンスを達成しても、開発費が高ければ兵器の値段に跳ね返ってきます。


この難題に頭を悩ませたアメリカ軍は、名だたる軍事企業を呼び寄せました。

その数、なんと五社。


イギリスの軍事・航空技術を一手に担うBAEシステムズ

最先端の爆撃機を製造するノースロップグラマン

アメリカ軍の基本を造るジェネラルダイナミクス

世界で最も売れたステルス機を生み出したロッキードマーティン

老練な航空宇宙企業レイセオン


最強クラスのこの五社は頭を捻ります。

そのうち、各々で考えていては埒が明かないと判断したのか、BAEとノースロップグラマン、ジェネラルダイナミクスはチームを組み始めました。


その結果、このチームは画期的な手法で問題を解決することに成功します。

なんとミサイルと……

ロケット弾を……


ニコイチしちゃいました。


アメリカ軍が元々使っていたハイドラ70ロケット弾の翼の先端に、四つの「目」を設置。

もちろんそんなセンサーは小さすぎて低性能なのですが、今のiPhoneがカメラを組み合わせてあたかも一つの高性能なカメラに見せかけているように、センサーを統合しています。


これによって十分な誘導能力を確保、センサー以外はほぼ使い回しなので激安。

しかもお手軽に装着できるので、大量に在庫があるロケット弾を次々にミサイル化できます。


もちろんミサイルほど高性能ではありませんが、テロリストや反政府勢力には当たればいいんです。テストでの誤差は1m以内でしかありません。

元々、装甲車相手なら十分な火力を持つロケット弾です。この威力を落としていないところも、APKWSの強みと言えます。


一方で、その誘導方式は発射する機体に負担をかけます。

誘導用のレーザーが反射している場所に向かって飛んでいくレーザー誘導方式なので、必ず誰かがレーザーを当てなきゃいけません。


レーザーを発射するのは誰でもいいのですが、まあ当然発射する機体に積むのが一番手っ取り早いのでそうなります。

うーん、これだと結局高くつく気がします。政治的な駆け引きや口の上手さで乗り切ったのでしょうか?


そうではありません(全くないともいいませんが)。

APKWSを使うような機体は、どれもレーザー誘導兵器を使うことが想定されており、既に必要な機械を付けているのです。

なので、とにかく安くできるというカラクリです。


おかげでAPKWSはミサイルより安く、ロケット弾より精密という中間の地位を確立することに成功しました。

値段は三分の一から四分の一。激安の殿堂ことド〇キホーテでもそうそうお目にかかれない値引き率です。


ミサイルよりも外れる確率は少し高いですが、対地用でありながらヘリやドローン相手なら撃墜を狙えるレベルです。

射程も長く、ヘリから発射した場合は5kmほど、攻撃機や戦闘機からであれば11kmも飛びます。


ただし、最短射程も長いという欠点があり、近距離の敵には有効ではありません。

ヘリでは1.1km、攻撃機や戦闘機では2kmからが交戦距離です。


細かくは分かりませんが、恐らく安さや手軽さと引き換えにこうしたもろもろの制約はついて回るかと思います。

それでも、基本的には非常に使いやすい誘導兵器に仕上がっていると言えます。


さて、APKWSは航空機から撃つことを前提に開発されましたが、元が簡素なロケット弾であることもあり、アメリカやドイツが地上から発射できるユニットをウクライナに提供しています。

どちらも偵察と火力支援用で射撃できる数は数発ですが、それだけでも同数の通常のロケット砲に匹敵する威力を持つでしょう。

めくら撃ちで広範囲にばらまくよりも、精密に打撃する方が強いことは戦史が証明してきたのです。


ドイツは専用の車両を用意しましたが、アメリカは色んな車に取り付けられるキットとして提供しています。

APKWSの場合は車両は付属品であって、レーザー照射機とロケット弾が本体なので、アメリカの方が合理的ではあります。

もちろん専用の車両は様々な制約を乗り越えてくれるでしょうが、使いまわしができるという利便性の面では敵いません。


アメリカのキットの名前は、ヴァンパイア。

基本車両をトヨタのピックアップトラック、タコマとしつつも他のピックアップトラックにも対応している偵察モジュールです。


取り付けは数時間で完了し、2~3人で動かすことができます。

テストでは、地上車両はもちろんのこと中型偵察ドローンをも難なく撃ち落した対ドローンシステムの最先鋒でもあります。


詳しい射程は不明ですが、3km程度はあるでしょう。

ただの民間車が、ヴァンパイアを搭載するだけで高レベルの偵察車両と対空・対地ミサイル車両の三役を兼ね備えた兵器に早変わりします。


APKWSはすでに改良型が製造されており、射程と機動力が上がっています。

巡航ミサイルを撃ち落とすテストも予定されており、満足できる結果を残せばコストパフォーマンスが抜群に優れるミサイルになります。


安さと性能を両立させたマルチな誘導ロケットは、間違いなく様々な局面で活躍してくれるでしょう。

戦車を破壊できるほどではありませんが、装甲車にも歩兵にも陣地にもドローンにも使えるのです。


ウクライナのヘリや攻撃機から発射できるようになるとさらに強力になることでしょう。

今後の改修に期待です。

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