戦車もヤれるオールマイティ M2ブラッドレー
ブラッドレーは1981年からアメリカ軍で運用されている装甲車です。
装甲車の中でも戦闘力の高い、歩兵戦闘車という分類になります。
ブラッドレーの武装は25mm機関砲と二連装のTOW対戦車ミサイル、機関銃です。
ただし対戦車ミサイルの貫通力は400mm程度で、戦車の正面装甲を貫通することは難しいです。また、車体に積めるのも合わせて7発しか持ち運べません。
防御力は高くなく、正面で30〜50mm程度、側背面は重機関銃に耐える程度と思われます。
機動力も、最大時速64kmとキャタピラ式ということもあってそこまで高くはありませんが、戦車に追随できる程度は確保されています。
歩兵は6名を乗せることができ、後部の大きなハッチドアによって乗り降りはスムーズです。
電子機器は優れていて、場合によりますがソ連系の装甲車などに対しては高い確率で優位を取れます。
水陸両用能力はありましたが、事故多発によりかなり早い段階でオミットされています。無いものとして考えてください。
ブラッドレーは戦車に追随し、補佐を行う事を期待されて作られました。
数度の実戦経験があり、戦車を一方的に屠ったこともあります。
逆に、旧式の装甲車からの攻撃を受けて破壊された事例もあり、防御力は高くありませんでした。
……と書くと、電子機器以外は見るべきところの無い装甲車のように見えると思います。
1981年時点では、そうでした。
2023/1/7、ロシアと戦争になったウクライナに、50両のブラッドレーが到着します。
そのブラッドレーは、初期と比べて圧倒的に強化されたものでした。
M2A2ブラッドレーは25mm機関砲、TOW-2対戦車ミサイル、機関銃で武装しています。
機関砲こそ変わっていない……わけもなく、使える砲弾の種類が増えています。
これにより機関砲の貫通力は30〜50%増加し、真横や背面であればロシアの新しい戦車でも貫通するようになりました。
戦車相手に機関砲はよほど切羽詰まった状況でないと使わないのですが、戦車を貫通するということは装甲車なら確実に貫通するということを表しています。
対戦車ミサイルTOW-2は800mmという凶悪な貫通力を有しています。
ロシアの新しい戦車は1000mmを優に超える装甲厚を持ちますが、これは爆発反応装甲(ERA)という使い捨ての装甲を加味した厚さです。
無しでは半分以下にまで低下します。
なのでERAを突破するためにはどうすれば良いか、各国は頭を悩ませ、いくつかの策を編み出しました。
TOW-2はうち2つを採用し、方法によってA型とB型に分けられました。
TOW-2Aは800mmの貫通力を持つ主弾頭の先に、小さな弾頭(先駆弾頭と言います)を付けたタンデム弾頭方式です。
先駆弾頭がERAを破壊し、フリーになった主装甲へ主弾頭が突撃、本来の能力を存分に発揮するという考えです。
これは簡単かつ確実にERAを排除できますが、主装甲が十分な厚さを持っている戦車や、二重構造のERAには効きません。
なので、確実性とパンチ力に劣るものの、TOW-2Bも並行して配備されています。
TOW-2Bは貫通力が100mm程度と貧弱ですが、戦車の上部で爆発するようになっています。
爆発によって金属板が下向きに射出され、弾丸状になった金属板は上面装甲を貫通、車内を破壊するというものです。
これを自己鍛造弾方式といいます。はやぶさ2でも使われたことで、ちょっと有名になった技術です。
戦車や装甲車の上面装甲は基本薄いため、100mmもあれば十分に貫通します。普通は(本邦の10式は対応している可能性があり、それより新しいT-14に有効かは不明)
M2A2は防御力も向上し、高硬度鋼とERAを追加することでおおよそ倍増していると考えられます。
30mmの機関砲弾と、有名な対戦車兵器であるRPG-7に対応しており(RPGもピンからキリまで色々ありますが)、100mmを超える厚さを持つものと思われます。
これだけ改修すると重量が増して速度が落ちるのは仕方ありませんが、エンジンも換装しており、元々500馬力という強力なものではありましたが600馬力(10年くらい前のフェラーリ相当)にまで向上、最大速度は56km/hを維持しています。
改良された足回りと相まって加速性能はわずかながらに向上しており、動きは良くなっています。
乗員数も変化し、歩兵を1人追加することができます。
また消化システムなどを搭載し、生存性も上がっています。
ブラッドレーは無印の頃でもよく活躍し、乗員を保護しましたが、時代に合わせて戦闘能力を倍化させています。
もちろん、戦車と正面から撃ち合うほどの力はありません。
TOW-2は強力なミサイルですが、ロシアの最新戦車は二重構造のレリークトERAを備えており、防がれる可能性が高いです。
なにより戦車砲弾よりもずっと遅く、ジャベリンのような打ちっ放し能力は無いため、反撃されれば先にブラッドレーが破壊されてしまう可能性が高いです。
ブラッドレーの防御力は倍増していますが、戦車砲や対戦車ミサイルには容易に貫通されてしまいます。
どころか戦車砲弾相手には、むしろ被害を増やしてしまう可能性すらあります。
30mm砲弾に耐える装甲というのは「装甲が薄すぎて砲弾がすっぽ抜ける」ことを期待できない厚さです。
こういう状況を元ゲーム用語で過貫通と言います。M2A2ブラッドレーは、過貫通が起きません。
最高速度は下がってしまいましたので、全力で動き回る戦車について行くことは出来ません。
補佐するには歩調を合わせてもらう必要があり、わずかながら迅速な攻撃や防御の足を引っ張ることも有り得ます。
電子機器は今でも通用しますが、M2A2も20年以上前のブラッドレーです。
その後のブラッドレーが電子機器を改良しているところを見ると、まだまだポテンシャルを活かしきれてないと言えます。
ブラッドレーにも使える時と使えない時があり、メリットとデメリットがあります。
では、ウクライナ軍にとってはどのような存在になれるでしょうか。
ブラッドレーは歩兵を載せつつ戦闘できる、しかも攻防に優れた装甲車です。
こうした装甲車を、最近の用語で重IFVと言います。
装甲が厚いことを重で表し、歩兵戦闘車をIFVで表しています。
ウクライナ軍はIFVなら持っていましたが、重IFVを持つのは今回が初です。
IFVは戦車の補佐をしつつ、乗せてきた歩兵と共に塹壕にこもる敵兵を攻撃したり、敵の逆襲に備えたりすることが主な役割です。
重IFVも基本は変わりませんが、機関砲に耐えることで攻撃可能な目標が増え、より大胆に行動できるようになりました。
簡単に言うと、もっとオラオラできるようになったってことです。
オラオラできる相手が増えたので、重IFVを持つ部隊は攻撃速度を早めることができるようになりました。
20mmや30mmの機関砲なんかそこら中にあるものです。
対空車両ですら撃ってきますし、歩兵が据え付けていることもあります。
対戦車ミサイルを渋って使わないIFVでも、機関砲ならばらまいてきます。
近くに落ちてくる榴弾砲の破片なんか、機関砲並みの威力があります。
それに一々ビビってるIFVじゃあ、味方にいても安心できませんよね。
俺を倒すには戦車か対戦車ミサイルでも出してこいと言わんばかりに突撃して蹂躙してくれる、戦車ほどじゃないけど戦車みたいに動けるやつが、欲しいですよね。
そう、戦車じゃないけど、戦車っぽいユニットが重IFVです。
ウクライナに供与する前、アメリカはこう言っていました。
「ブラッドレーは実質的な軽戦車なので、ウクライナ軍の作戦能力を一段引き上げることができる」
軽戦車も、火力はあるけど装甲は普通の戦車に及ばないユニットです。
武装が少し違うのと歩兵を乗せられるかどうかが違いますが、役割がほぼ同じなのです。
軽戦車は第二次世界大戦時に活躍した戦車で、その軽さを活かした機動力と戦車としての攻撃力をかけ合わせた突破力を持っていました。
速度というのは、なにも最高速度だけが指標ではありません。
軽戦車は小さい分、エンジンも非力で、鈍重の代名詞である重戦車に対して最高速度は劣ることがありました。
それでも、補給や修理の手間を考えると、軽戦車の方が数倍速く動けたのです。
重IFVもこれと同じです。火力と防御力は戦車に劣りますが、高い機動力を掛け合わせる事で生半可な相手を蹂躙、突破し戦線を押し上げることが任務です。
強い相手は戦車に任せるか、一緒に戦います。そういう意味での戦車の補佐です。
オマケで歩兵を乗せられるとか、美味しい機能も付いています。
「ブラッドレーは実質的な軽戦車なので、ウクライナ軍の作戦能力を一段引き上げることができる」
嘘偽りのない、指揮官から見たM2A2ブラッドレーの正しい認識だと思います。
だからこれだけ騒がれて、持ち上げられるわけですね。
ブラッドレーはM2A2だけでなく、より強化された型があります。
M2A2 ODSは電子機器を強化したブラッドレーです。これにより部隊としての戦闘能力と照準速度が向上しました。
操縦手にも赤外線画像装置が追加され、夜間の移動力が向上。
食品を温めるためのヒーターも付いて士気の維持に貢献しています。
M2A3ではデジタル化が進み、一層電子機器が改良されています。
またここでも装甲と生存性が向上しており、重IFVとしての能力に磨きが掛けられました。
特に暗視装置の改良と照準装置の改良により戦闘能力が向上しています。
M2ブラッドレーでは最新のM2A4は、ここまで追加してきた機能により圧迫されたもろもろの不満点、具体的には足回りや冷却能力、スペース、エンジンなどを改良するという(アメリカらしい)改修内容が盛り込まれています。
地雷対策が施され、重量は軽くなり、エンジンが強化されて使える電力が増えます。
他に、M3ブラッドレーもあるのですが、その話をすると長くなるのでウクライナに供与されたらにしましょう。
M2A4……の供与は難しいでしょうが、M2A3が供与されれば、ウクライナはより素早く、楽に戦闘を進めることができると思います。
M2A2が無事に戦場へ到着し、予定通りの性能が発揮されることを
M2A3やM3ブラッドレーが供与されることを
望みます。
2023/1/9
M2A2と同時にM2A2 ODSも供与されています!やったぜ
2023/1/31
ウクライナに供与されるブラッドレーは、M2A2 ODS-SAであることが判明しました。
M2A2 ODS-SAは車長用の独立した外部モニターがない以外はM2A3と同じアップグレードが施された型です。
すなわち、高いレベルの電子機器が付いているということです。
目標との距離、風速、温度、弾薬の種類、目標の移動速度と方向などの情報を加味して、自動で照準が付けられます。複数の目標を次々に撃破することも可能です。
GPSなどの位置情報データを総合的に処理し、自分の位置を正確に割り出し、軍用ネットワークに載せることができます。
装甲も強化されています。正面であればRPG-7に加え、低貫通力の対戦車ミサイルにも対応しています。
対HEAT数百mmという旧世代の戦車並みの装甲、最高クラスの電子機器を手に入れたブラッドレーがM2A2 ODS-SAであり、当初供与されると目されていたM2A2よりも性能が格段に上がっています。
2023/6/15
ブラッドレーが攻勢に投入され、複数の損害が確認できます。
撃破はされているのですが、驚くことに乗員の大半が生存しており、撃破理由も地雷と対戦車ミサイル、複数の砲撃のみです。
すでにいくらか回収され、修理が行われています。そのうち復帰する車両も出てくるのではないでしょうか。
防御力もさることながら、抗堪性が素晴らしいと言えます。ここまで高いとは。
対戦車ミサイルを後ろから食らって動けなくなっても、乗員だけは生きている。
重要部も保護されていて、回収できればまた使える。
対戦車ミサイルに貫通されても、被害を限定する素晴らしい装甲、設計、工夫が盛り込まれているようです。
2024/1/13
ブラッドレー二両とT-90M一両が直接対決となり、なんとT-90Mを撃退しました。
かなりラッキーであったことに間違いありませんが、それでもロシア軍における事実上最新鋭のT-90Mに打ち勝ったのは大金星と言えます。
25mm機関砲を弱点部に撃ち続けた結果、T-90Mは照準器などを損傷、理由不明ですが砲塔が回り続ける状態となり逃走を図りました。
最後は木にぶつかって停止、乗員が脱出したあと、FPVドローンによって動力部も破壊されています。
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