タイヤ戦車の先駆け AMX-10RC

AMX-10RCは1978年からフランスで生産されている偵察・火力支援用の装甲車です。

大きな砲を載せていますが、装輪式自走対戦車砲や装輪戦車、機動砲などと呼ばれる装甲車です。そ・う・こ・う・しゃです。

メディアどもがこぞって戦車戦車と書きやがって無知がよお……え?タイトル?わ、私はちゃんと解説しますし(震え)


AMX-10RCの最も大きな特徴は、なんと言ってもタイヤと大きな主砲の組み合わせです。

105mmという、旧世代の戦車と同レベルの砲を備えており、現代戦車の側背面なら十分に貫通する攻撃力を持ちます。


タイヤは6輪で、路上を高速で走ることができます。

最高速度はなんと85km/hと、通常の戦車よりも15km/h以上速いです。


タイヤなので故障や燃料消費量も少なく、補給への負担という意味でも高速です。

エンジンは280馬力と非力ですが、重量が16t程度と軽量なので何とかなります(良いとは言わない)


車体はキャタピラ式の装甲車であるAMX-10Pと同じであり、足回りもタイヤであること以外は似ています。

そのためタイヤ式でありながら、その場で車体を回転する「超信地旋回」という動きができます。


超信地旋回は今となってはよく導入される技術ですが、ソ連製の一部の戦車や大半のタイヤ式の装甲車は不可能で、当時のことを考えると驚きの能力でした。

その場で回転できるので広い土地が要らず、車輪を傾ける機構も要らないので車体そのものを小さくすることができました。


これは狭い道の多い市街地で有効な技術であり、AMX-10RCは都市部で使う装甲車としても高い能力を持っていることが分かります。

油気圧サスペンションを装備しているため、車体の高さを変えることができます。地上から底面までの高さは、標準は35cmですがこれを21cm〜47cmまで変えられます。


たった10cm程度の差ですが、起伏のある地形ではその差が大きく、場合によっては車体全体を晒すか砲塔だけ晒すかの差に繋がります。

また水陸両用であり、航行時はウォータージェット推進によって進みます。地形走破能力が高いと言えるでしょう。


電子機器は、最高レベルというわけではありませんが主力戦車に次ぐ能力のものを有しており、第一世代の赤外線暗視装置を搭乗員四人のうち三人が同時に使用できます。


AMX-10RCは四種類の砲弾を扱うことができ、選択肢は対戦車榴弾(HEAT・ヒート)、榴弾、徹甲弾(APFSDS)、練習弾となっています。

対戦車用として強力なのはHEATと徹甲弾であり、貫通力はHEATが350mm、徹甲弾は距離によって変わりますが通常の交戦距離では300mm以上を発揮します。


HEATは貫通力が高いものの、ソ連ロシアが得意とする爆発反応装甲(ERA)によってほぼ無力化されてしまいます。

徹甲弾はその点は安定しており、オールマイティに使えます。


またHEATは木や薄い壁、金網などに当たっても爆発してしまう一方、徹甲弾は無視して貫通力を維持するので不安定要素が少ないです。

榴弾は歩兵やトラックに対して強力な打撃力を持ち、ロシア軍の塹壕線を突破するのに役立つでしょう。


最近の戦車はあえて榴弾を搭載しない、対応しないことも増えており、戦車としての能力は高まる一方で塹壕を蹂躙する能力は低くなっていることがあります。

逆に、アメリカやロシアのように対歩兵能力を高める戦車もあるので一概には言えないのですが、何にせよ105mmの榴弾を直に送り込めるという能力は重宝されるでしょう。


AMX-10RCは利点も多い一方で、欠点も多い装甲車となっています。

まず火力ですが、105mm砲の、それも年代の古い砲弾では限界が低くて対戦車戦闘は厳しいものがあります。


側背面を貫通するというのは嘘ではありませんが、装甲の防御力というのは角度によって大きく変わります。

45°の角度をつけた場合、AMX-10RCはロシアの新しめの戦車に対して意味のある攻撃はほとんどできなくなってしまいます。


よって真横にまで移動しなければなりませんが、それでも爆発反応装甲(ERA)によって防がれることもあります。

特に戦車の砲塔は強固で、実質的には背面からのみ有効打を与えられるでしょう。


速度に優れ軽量なAMX-10RCと言えど、見つからずに有効な位置まで移動するのは難しいと思われます。

それでいて、相手の攻撃は通ってしまいます。AMX-10RCは防御力の低い装甲車です。


正面は厚さ40mm程度の、傾斜をつけたアルミニウム装甲で覆われています。

傾斜をつけることによって遠距離からの機関砲には耐える程度の防御力(60mm相当)はありますが、近距離の機関砲や対戦車ミサイル、戦車砲弾には簡単に貫通されてしまいます。


即背面はそれ以上に薄く、傾斜のない25mm程度のアルミニウム装甲しかありません。

機関銃はともかく、機関砲の攻撃は防げないと見るべきでしょう。


水陸両用のために軽量にしたのは良いのですが、とても戦車を相手に戦える性能ではありません。

弾薬配置も厳しいもので、大半が車体前方の弾薬庫に収められています。


ソ連戦車T-72の「びっくり箱」というあだ名は車体に配置された弾薬が爆発すると砲塔が吹き飛ぶ性質からつけられた蔑称ですが、AMX-10RCも同じことになる可能性をはらんでいます。

T-72ほど固まって置かれているわけではなく、口径も105mmと小さいためあれほど酷くは飛ばないかもしれませんが、最悪の場合は40発近い砲弾が誘爆し消失することになります。


軽量ではあるものの、それゆえに反動制御が難しく、主砲の精度は悪いと言われています。

光学機器に関しても、悪くはありませんがロシアの新しい戦車には負けており、射程外から一方的に破壊される可能性があります。


足回りは強みですが、旋回に関してはかなり強引にやっているためタイヤの消耗が激しく、整備・補給泣かせなところもあります。超信地旋回なんてやろうものならゴリゴリ削れていきます。

このように、正面戦闘ではかなり厳しい性能であり、場合によってはかなり激しい損耗を覚悟するべきでしょう。


なので、上記したように偵察と火力支援に使うべき車両です。


快速を活かして偵察し、時に一発射撃して後退、敵の反応を見ることもできます。(強行偵察)

主力の戦車が正面に敵を引き付けている間に回り込み、攻撃します。敵は混乱し、翻弄されることでしょう。(火力支援)

敵の攻勢にも素早く、かつそれなりの火力をもって対応することで、有効な牽制が可能です。(側面警備)


正面切っての戦闘には使えません。攻撃されれば高い確率で破壊されてしまうでしょう。

であれば、そうしたことに使わなければ良いのです。幸い、ウクライナ軍は主力戦車を持っており、ちゃんと集中・温存させて運用しています。


AMX-10RCがするべき任務は、戦車の補佐です。

戦車がより有効な戦力となるように、駆け回ってあちこちに手を出し、敵を怒らせて戦車から目をそらさせることです。


損耗率が高い仕事ですが、作戦の成功率を高めることが出来ます。

勇敢に戦えば、活路を見出すことができるでしょう。


なにより、現在(2023/1/7)のウクライナ軍にとっては貴重な機甲戦力です。

塹壕にこもる歩兵を吹き飛ばせるだけでも、価値はあるでしょう。


AMX-10RCは装甲が薄くて軽い車両ですが、それはフランス軍も分かっていて、超高硬度鋼の防弾板を追加したり、反動軽減策を講じてみたりと何度か改良が加えられています。

AMX-10RCショブランディでは水上航行能力をオミットした代わりに装甲を強化しました。


続くAMX-10RCエーハノヴィ(AMX-10RCR)では装甲を大幅に強化し、電子部品をアップグレード、赤外線誘導ミサイルに対応するためのフレア、核生物化学兵器対応の能動フィルター、足回りの改良などが追加されています。

重量は22tと重くなり水陸両用ではなくなってしまいましたが、地雷対策もバッチリです。


エーハノヴィの正確な装甲厚は分かりませんが、中口径の機関砲弾に耐えるとされているので、100mm程度になっているものと推測できます。

またエンジンも換装されていると思われ、油気圧式サスペンションによる伸縮は最大60cmまで行えるようになりました。

さらに上下左右に車体を傾けることもでき、地形適応力がアップしています。


中央のタイヤの空気圧を高めることもでき、軟弱な地形での機動力が上昇、最大二つまでならタイヤが吹き飛んでも走行を続けることができます。


AMX-10RC、ショブランディ、エーハノヴィ。

どれが何両供与されるのかは分かりませんが、エーハノヴィであれば(火力はともかく)非常に心強い装甲車両になってくれるでしょう。


でも、やることは変わりません。偵察、支援、警備です。

それは性能の差はあれど、どのAMX-10RCでもできます。


ウクライナ軍は適切な兵器運用と対応力に長けています。

ものすごい種類の兵器を扱う上で、嫌でも適応しなければならなかったからでしょう。


ですから、きっとAMX-10RCを上手く使い、ロシア軍を翻弄すると期待しています。

支援役としてAMX-10RCは活躍し、ウクライナ軍の反撃を支えるでしょう。


どうでもいいんですけど、フランス兵器なだけあって名前はオシャレ感ありますよね。



2023/7/4追記

AMX-10RCの使用と損害が確認され、現場での評価が表に出てきました。

総合すると「正面攻撃には使えないが偵察と火力支援は有用」となっています。まあ、設計通りの性能を発揮していると考えてよいでしょう。


攻撃に使うと装甲が薄いために撃破されやすい、内部の乗員が死傷しやすいという情報が先に出てきたため心配する声が多く挙がっていますが、何のことはありません。

使い方を間違えた、または無理な運用をせざるを得なかった、または正面と気づかず突っ込んでしまった部隊のAMX-10RCが、特に多く損耗したというだけの話です。


なので、AMX-10RCが時代遅れになってしまったとか、そういう話ではありません。

でも、なるべく想定通りの運用をして、もう少しバランスの良い評価が返ってくると嬉しいですね

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