異質なトレンド アーチャー
アーチャーは、スウェーデンとノルウェーが2009年に共同開発した自走榴弾砲です。
アーチャーはトラックの荷台に榴弾砲を乗せたような、一見貧弱で洗練されていない見た目をしています。
ですが、これこそが次世代の榴弾砲の特徴なのです。
アーチャーはとある悩みを解決するために生まれましたが、このころ他の国々でも同じ悩みを抱えていました。
それは、榴弾砲が重くて遅いため、高速化する戦場についていけないという悩みです。
自走榴弾砲は陸上兵器の中でも射程が長く、火力も高い兵器です。一方で防御力や機動力は疎かにされがちでした。
しかし近年では様々な技術発展によって、敵砲兵から反撃を受けることも多く、車体全体を破片に対応できる程度の装甲で覆うようになっていました。
しかし対砲迫レーダーが登場し、場合によっては数十秒で反撃が飛んでくるようになるとまた状況が変わります。(こうした榴弾砲に対する反撃をカウンターアーティラリーと言います)
全身に装甲をまとった自走榴弾砲ではもろに反撃を受けてしまうようになり、高価なのに損害が大きいという試験結果が増えてきます。
そこで、いっそ装甲を取り払い「避ける」兵器にしてしまおうとなりました。
こうして機動力と展開・撤収速度に特化したトラック車体の自走榴弾砲が、フランスのカエサル自走榴弾砲を皮切りに多数生まれることになりました。
その結果は今も見ている通り。従来の自走砲は傷つき損傷することが多いのに、トラック車体の自走砲はすぐ逃げられて故障も少ないのです。
しかし、アーチャーはこうした悩みから生まれたことを考えると異質だと言えます。なぜなら装甲があり、遅いからです。
アーチャーの最大の特徴は、完全自動装填装置を持つことであり、射程と合わせて非常に火力が高いことが挙げられます。
ですがそれ以外にも多くの珍しい特徴を持ち合わせています。
まず装甲があります。銃撃に耐える程度ですが、その厚さは数十mmにも達します。防弾ガラスに至っては8cmです。
スマホを横から見てください。それを三枚も四枚も重ねた厚さの鉄板で乗員を取り囲むのです。
リモコン操縦ができる銃塔も付いています。車両の中にいながら、機関銃を撃てるのです。
自動装填装置は重量がかさみますが、外に出て作業する必要が無いという点で、間接的に防御力を上げます。
結果としてアーチャーは最大速度が65km/hと遅く、せっかくトラック型にした意味が無いように思えてしまいます。
ですが、従来の自走砲と比べるとどうでしょう。
同じくらいの装甲を持ち、同等以上の火力を発揮し、展開・撤収速度は早い。しかもトラックなので整備がしやすい。なのに安い。
間違いなく、次世代の自走砲の一つなのです。
思うにアーチャーは、後方へ浸透した歩兵への対処を優先的に考えているのではないでしょうか。
スウェーデンとノルウェーは山がちで、経済規模は小さいため軍の規模も小さく、なのに国土は長くて守る場所が多い。ロシアという巨大な空挺軍を有する国家と戦争する危険性がある。
大規模な戦車戦は仕掛けにくいが、制空権は簡単に取れそうな両国に対し、ロシアが採るのは空挺部隊による襲撃だと踏んだのでしょう。
だから、榴弾砲にも対歩兵能力を持たせた。
「銃弾を」防ぐ程度の装甲、他のトラック自走砲にはない完全自動装填、リモート銃塔。全て説明が付きます。
アーチャーは両国の「やりたいこと」と「やるべきこと」を折衷して生まれた、重トラック自走砲であるわけです。
これのおかげかは分かりませんが、未だ(2022/12/19)に一両の損傷も確認されていません。
他の自走榴弾砲は何かしらの損害を受けているのにです。
もちろん運も絡みますし、供与された数が少ないことも考えるべきでしょう。
しかし、装甲と機動性の両立というのは、もしかすると非常に強力なのかもしれません。
ドイツと中国の新型自走榴弾砲や、アーチャーと同時期に開発されたセルビアの自走榴弾砲は軽度に装甲化されています。
もちろん、新しいのに装甲のない自走榴弾砲もあります(日本、イスラエルなど)し、評価の難しいところではあります。
難しいところではありますが、ウクライナの戦場では良い方向に働いているように思います。
ウクライナ軍がその特徴を活かして戦っているのであれば、強力な助っ人になってくれるでしょう。
重いと言ってもそこはトラック型の自走砲です。素早い攻防のテンポについていくことは可能でしょう。
展開してしまえば、高い火力を活かしてロシア軍に砲弾を叩き込んでくれるはずです。
アーチャーはウクライナ軍の防衛を支え、力を温存するために走って撃ってと活躍していることでしょう。
そうして勝利に貢献しているのです。
2023/1/10追記
すみません、アーチャーはこれから供与されます。てっきり供与されているものだと……撃破報告がないのは当たり前ですね
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