突貫工事から生まれた「正解」 バイソン

バイソンはカナダ軍が1990年から配備している装甲車、装甲兵員輸送車です。

元々は予備部隊用の装備でしたが、正規部隊のために転換された経緯を持ちます。


装甲兵員輸送車とは、歩兵を装甲で守りながら長距離を素早く移動するための装甲車です。

攻撃力は低く防御力も最低限ですが、歩兵の移動速度を大きく上げられる便利アイテムです。


カナダ軍は装甲兵員輸送車としてM113を使っていました。

M113はキャタピラ式の装甲車で、安いものの設計が古く、防御力に難があります。機動性も高くありません。


これを刷新すべく予算を投じ、まずLAV-25というタイヤ式の装甲偵察車を買いました。

LAV-25は用途が違うので、このままだとカナダ軍の欲しい車両にはなってくれません。


LAV-25であれこれ試験した後、25mm砲を取り払い、後ろ半分を切りとり、装甲兵員輸送車としてふさわしい格好に仕上げました。

これがたったの8日で行われたというのだから驚きです。まるで突貫工事ですが、それには陸軍内の派閥争いが関係しています。


詳細は省きますが、新しい装甲兵員輸送車を買う際、M113のアップグレードバージョンを買おうと言う派閥が存在していました。

こうした老が……慎重派の意見を退けるため、とにかく形だけでも整えて見せつける必要があったのです。


おかげで無事に採用が決まった突貫車両は、それから量産へ向けて車体を大きくし、更にいらない要素を取り除くことで、バイソン装甲車が出来上がります。

大型化と簡素化された一方、足回りや全体の骨格(シャーシ)はLAV-25と変わらないため、装甲兵員輸送車としてはかなり上質な素材を持っています。


このチグハグさは、元が後ろ半分を切って鉄板を組み合わせただけの突貫車両に高い拡張性を持たせることになります。

バイソンは装甲兵員輸送車バージョンだけでなく、指揮車両や砲弾輸送車、救急車、航空機に指示を出す空域調整車、電子戦車両等々の様々な用途に用いられました。


更に装甲兵員輸送型も、新しいエンジンと足回り、追加装甲、エアコン、核や生物兵器と言った特殊武器用の空気フィルターを備えた改良型も作られています。


バイソンは路上を100km/hで移動することができ、水陸両用なので地形走破性能も高いです。

それなりの装甲を持ちつつも水陸両用としたのは、水場の多いカナダ特有の要求でしょう。


武装は機関銃なので、あくまで自衛用です。敵の装甲車両に対しては、何もできません。

武装が無い代わりに、8人の兵士を乗せることができます。装甲兵員輸送車としてもっとも大事な部分です。

簡便で、特に強力な性能を持つわけではありませんが、総合して使いやすい装甲車に仕上がっています。


強力な戦車や、とにかく速いバギーを揃えれば強い軍隊になれるわけではありません。

ひたすら何でもない、でも十分な性能を持つ車両を、十分な数そろえる。それが強い軍隊の第一歩です。

だからこそ、こういうなんでもいいような車両に情熱を注ぐ人たちがいて、政治的な駆け引きが起こり、例え似たような性能でも真剣に選定されます。


紆余曲折あったものの、カナダ軍は正解を選びました。

今ではこうしたタイヤ式の装甲車は広く支持され、狙い通りに活躍しています。


ウクライナ軍に足りないのは砲と機甲戦力です。ロシア軍の砲撃は、ウクライナ軍から見て依然激しく、塹壕は強固で、まだまだ沢山の戦車や装甲車を持っています。

土地を取り返すためには、砲撃と戦車と装甲車が必要です。バイソン装甲車はここに合致しています。


歩兵を素早く、装甲で守りながら移動できる装甲兵員輸送車は、この戦争の中で価値を失うことはないでしょう。

バイソン装甲車はその能力を十分に発揮し、ウクライナ軍の反撃を支えるのです。




前に「スーパーバイソン」と書いたのですが、バイソンの改良型が一部でそう呼ばれているのか、それとも単に見たツイートが「カナダからバイソン装甲車が供与されます!スーパー!」とか言って喜んでいたのを自分が翻訳間違えただけなのか、未だによくわかっておりません。

なので、ここではバイソン装甲車としています。


2023/1/1追記

バイソン装甲車の改良型がスーパーバイソンと呼ばれているみたいですね。ただ、これが正式にそう呼ばれているのかはまだ判然としません。

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