星堕としの異名 SAMP/T
SAMP/Tはイタリアとフランスが合同で開発した、20011年から運用されている中距離の地対空ミサイルです。
フランスではソルエアモイエンヌポルテ/テレストル、またはイタリア軍と合わせてマンバと呼ばれています。
中距離ミサイル、といっても幅が広く、例えばアメリカのNASAMSも中距離対空ミサイルですが25km以上の射程であり、一方SAMP/Tは最大120kmの射程、25kmの射高を持ちます。
射程が長いだけにミサイル本体もシステムも大きく、前線の小部隊に追随するようなことはできません。しかし路上を高速で移動できるトラック架台であり、一日の間に数回、展開場所を変更できます。都市部や司令部といった重要目標、または大部隊に大きな防空の傘を提供することができます。
敵航空機への対応はもちろん、その射程を活かして巡航ミサイルや長距離の対地ミサイル、対レーダーミサイルといった高速・大型・高性能で高価値な対空目標への対応が得意です
非常に限定的ですが弾道ミサイルへの対応も可能で、15km以内に落下してきた弾道ミサイルを破壊できます。
使用するミサイルはアスター30で、最大速度はマッハ4.5。発射されるとブースターに点火し、2.5秒以内に加速を終えて切り離されます。
アスター30は射程と速度に優れるものの、大型ゆえに短距離のミサイルほど機動性は良くない、とされていますがサイドスラスターを装備しており、高い機動力を維持します。
一般に、ミサイルは最大速度付近で機動性が最も高くなり(旋回半径は大きい)、速度が落ちるにつれて反応が鈍っていきます。
ある程度の速度までは旋回半径が小さくなっていきますが、一定以下の速度ではどちらも酷く鈍ります。アスター30はスラスターで、低速でも機動性を確保しています。
アスター30は、発射後しばらくは慣性誘導、つまり最初に指示された地点へ向かって飛翔し、一定以下の距離になると自身のレーダーを起動して敵を捜索、発見したらそちらへ自身を誘導します。
このレーダー(シーカー)はステルス巡航ミサイルに対応できるだけの性能を有しています。
テストでは亜音速のドローン、ジェット機、中距離弾道ミサイル、超音速対艦ミサイル(を模したGQM-163コヨーテ超音速ドローン)を撃墜しています。また、これらには70%の確率で直撃しています。
しかし他の対空ミサイルと同様に、直撃しなくても至近であれば破片をばらまいて破壊するタイプの弾頭であるため、撃墜率は90%を上回ると見てよいでしょう。
SAMP/Tは同時交戦能力にも優れていると思われます。一度に発射できる数は不明ですが、誘導の特性上、理論上は何発でも発射できます。
二両の発射機がいれば、少なくとも二発目までは0.25秒に1発の速度で発射できます。
レーダーは優秀で、これまでのぐるぐる回さなければならなかったレーダーとは違い、AESA(アクティブフェーズドアレイレーダー)と呼ばれる方式のものです。
これは特性の違う小さなレーダーが板にびっしり張り付いており、それぞれのレーダーの出力は小さいながらも組み合わせることで、結果的に超高速、超大出力、ノイズ対抗、多数追跡ができるレーダーになるというものです。
このレーダーにより、360°を警戒しながら最大で10の目標と交戦でき、48発のアスター30を同時に誘導し、100の目標を追跡することができます。
しかも、自動で交戦することもできます。
SAMP/Tシステムは最小4両、最大12両で構成されますが、能力は大きく落ちるものの発射機のみでも運用できます。レーダーや指揮車両が破壊されても動くということで、抗耐性が高いシステムです。
また、発射機はレーダー車両から25kmまで離すことができ、完全な破壊をさらに難しくします。
ただしこれはリンク16という軍用の通信システムに繋がっている場合であり、ウクライナ軍はリンク16を利用できないので、恐らく25kmも離して運用することはできないでしょう。
それでも強力なミサイルですが前述の特徴も鑑みるに、前線に出すことは難しいと思います。
供与されれば、ウクライナ軍で運用されているミサイルの中で最も強力なものになり、大きな助けとなることは間違いありません。
特にイランがロシアへ弾道ミサイルを売る可能性がある今、限定的とはいえ弾道ミサイル防衛が明記されたミサイルは心強いものです。
また、演習ではテストされていないものの、対レーダーミサイルを撃墜することもできるとされています。SAMP/Tの能力から考えるに、十分可能でしょう。
ロシア軍は現在(2022/12/16)空中管制機と、ジャミングポッドを搭載した戦闘機を連携させて防空網制圧(SEAD)を行っていると考えられます。SEADには対レーダーミサイルが用いられるため、これを撃ち落とせるということは防空網を維持することに繋がります。
一方でドローンへの対処には、ミサイルの特性や値段もあって、十分にこなせますが向いているわけではありません。
結局のところ大型のシステムなので、展開や撤収にかかる時間は長く、自爆ドローンに狙われたら大きな被害を出してしまうでしょう。
開発目的の通り、重要拠点に置いて定期的に展開場所を変えながら、他の防空システムと併用して運用することが望ましいです。
そうすれば、近づく戦闘機や巡航ミサイルを片っ端から吹き飛ばしてくれます。120kmの射程と優秀な電子機器の組み合わせは、ロシア軍にとって恐ろしい脅威となるでしょう。
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