「普通」だからこそ役に立てる SVP M-80

M-80は1970年代後半からユーゴスラビアに配備された装甲車です。


詳しい解説に入る前に、まず一つ。戦争に勝つにはどうすればいいでしょう。

もちろんやり方はいろいろあります。でも、必ず占領すると言うステップを踏まなければなりません。


なので戦争に打ち勝つためには、地上を占領する必要があります。

地上を占領できるのは、歩兵だけです。戦車でもヘリでもなく、歩兵だけです。


そこにいる、い続けるという能力は歩兵がずば抜けて優れており、現地住民を威圧するにも懐柔するにも必要です。

そういう意味で、土地を取るという唯一無二の能力を持っています。


戦争は常に速度を増してきました。

行軍の速度、情報伝達の速度、火力投射の速度、補給の速度、戦略・戦術実行の速度、輸送の速度……全て。


当然、歩兵の速度も上げなければ勝てるものも勝てません。

しかし冷戦時代になって核戦争が目の前に迫ると、歩兵の移動が困難になります。


放射性物質で汚染された地域を、どうやって進めばいいでしょうか?(質問がおかしい?そういう時代です)

ソ連は考えました。装甲と空気清浄フィルターを使って汚染地域を突破すればいいと。


こうして、核汚染地域でも問題なく突破し、汚染地域じゃなくても歩兵の速度を上げる「歩兵戦闘車」が生まれました。

現代の歩兵を乗せて戦う装甲車の母である、BMP-1の誕生です。


BMP-1は広く使われ、また各国で改造されました。

その改造、というか参考にして作られたユーゴスラビア産の装甲車が、M-80です。


M-80は3名の乗員と8名の歩兵を乗せて移動することができ、最高速度は65km/hです。

水陸両用のため装甲は薄いですが、そのぶん軽くて機動力に優れます。


装甲は薄いものの酸化アルミニウムやホウ化チタンといった、固めの金属を採用することで元のBMP-1よりも防御力を上げています。

火力は低圧砲から機関砲へと代わり、対歩兵寄りの武装です。

対戦車ミサイルを2発連続して発射することができるため、1発のみだったBMP-1より対装甲能力も上がっています。


1985年には、機関砲と対戦車ミサイルをより強力なものへアップグレードし、戦闘力を高めています。

また銃眼がついており、乗っている歩兵も一応の戦闘が可能です。


M-80には様々な改良型や派生型があり、救急車仕様や対空ミサイル、対戦車ミサイルのみを搭載したもの、対空砲仕様などがあります。

このうちどれがウクライナに供与されたかはよく分かりませんが、今のところ基本型のみが確認されています。


M-80は典型的なソ連系装甲車です。

装甲が薄いものの軽くて機動力が高く、水陸両用で、十分な火力があります。


西側諸国の装甲が100mmにも達するような重装甲車に比べれば見劣りしてしまいますが、代わりに酷い悪路を軽さで乗り越えることができます。

なので善し悪し両面あるのですが、やはり重機関銃や地雷に対して防御しきれない装甲というのは、不安が残ります。


センサー類に関してはどうにも詳細が出てきませんが、古い装甲車でアップグレードも40年近く前なので、良質とは言えないでしょう。

射程は1.5km以上ですが、対戦車ミサイルや戦車には一方的にやられてしまいます。


良くも悪くも、特筆すべきことは無い歩兵戦闘車です。

歩兵を乗せて移動し、歩兵と共に戦う。そういう、歩兵戦闘車としての役割に終始しています。


それはきっと、良い結果をもたらしたでしょう。

M-80が供与された時、ウクライナ軍には装甲車が足りていませんでした。


強い装甲車でもなく、特殊な装甲車でもなく、単純に装甲車が足りていませんでした。

なら、基本をしっかり抑えた、なんでもない装甲車の方が楽で使いやすいはずです。


M-80はその要求に、合致しているように思います。

出し惜しみの必要はなく、使い潰しも効く程度の装甲車は、しっかり仕事をこなしています。


M-80はこれからも単なる装甲車、歩兵戦闘車として戦車に追随し、歩兵を乗せて戦場を駆け回ることでしょう。

ウクライナ軍反撃の一助となることは間違いありません。

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