性能の違いが戦力の決定的差ではない M109パラディン

M109は1963年から運用されてきたアメリカの自走榴弾砲です。


榴弾砲は火力に優れる兵器ですが、防御力と機動力は低レベルです。

なので自走できるように車体をつけたものが自走榴弾砲です。自走榴ともいいます。


M109はベトナム戦争を皮切りに、アメリカ軍のいるところには必ず姿を現す自走榴弾砲となりました。

当時では高い火力、当時ではそこそこいい脚、当時ではそこそこの防御力を備えたM109は、新世代の榴弾砲として活躍することになります(まあ初期型は信頼性がまるでなく、故障しまくったのですが)


性能的に特筆すべき面はありませんが、M109は多数の改良を受け、前線に立ち続けています。

初期のM109は信頼性が無く、射程も短いものでした。


そこで最初の改良型、M109A1は信頼性を改善するとともに射程を伸ばしました。

続くA2型は水陸両用性能と引き換えに信頼性のさらなる改善と弾薬数の増加を果たしました。


A3型はまだ改修されていなかった無印型とA1をA2と同レベルまで引き上げたものです。これのノルウェー仕様がウクライナで活躍していますね。

A4では核兵器や生物兵器と言った特殊兵器への対策とエンジンの改良がされています。今も似たようなものですが、物騒な時代だったわけですね。

A4はベルギー仕様をイギリスが買い取り、改装したうえでウクライナに引き渡しています。


A5では射程をさらに伸ばしました。より高圧力で発射することにより、22kmの射程を実現、更にロケットアシストを入れた砲弾で30kmまで伸ばしました。

エンジンの馬力も上がり、機動力が上がっています。ラトビア仕様がウクライナに供与されています。


A6パラディンでは位置情報を得るためのコンピューターや電子妨害の無効化機能、各種自動化などが盛り込まれました。

展開速度も上がっており、停止から30秒で射撃を開始できます。また、試験ではレールガン用の超高速砲弾を発射し、巡航ミサイルを模した標的を撃墜しました。


最新のM109はA7型で、新しい車体とエンジン、駆動部を備えています。このため機動力が上がり、将来のアップデートにも柔軟に対応できます。

実際、M109の改良計画が今でも進んでおり、射程を70kmまで伸ばすことと、射撃速度を大幅に上げることが考えられています。


M109は改良を重ねられて第一線に立ち続けている榴弾砲ですが、残念ながらあまり強力な兵器とは言えません。

M109A7でも射撃速度は一分間に一発と遅く、火力が低いです。


機動力も、現代のトレンドであるトラック型榴弾砲には大きく劣り、防御力もアルミニウムの装甲であり、20~30mm程度でしょう。

重機関銃は弾けても、至近距離で炸裂した榴弾や機関砲には貫通されてしまいます。それに燃えやすいです。


アメリカのことですので、信頼性やシステム化は進んでいると思いますが、基本性能の低さはいかんともしがたいところです。

特にウクライナに供与されたM109は展開・撤収速度がまだ遅い時代のM109で、射撃まで2.5分、撤収までに7分もかかります。


これにより防御力は非常に低く、対砲迫レーダーやドローンで射撃場所を割り出された場合、反撃から逃げ切ることは難しいと思います。

それでも各国で使われ続け、改修案がいくつも出ているあたり使いやすい自走砲なのだと思います。


ウクライナで、M109は広く使われています。射程が短いため他の榴弾砲よりも前線に近づくからか損害を受けることも多いように見えますが、やはり使いやすいのか好まれているように思えます。

他の自走榴弾砲と比べて性能が悪くとも、ウクライナ軍にとっては貴重で重要な榴弾砲の一つであり、攻防戦に置いて欠かせない存在です。


特筆すべき性能はありませんが、基本はしっかりと抑えた良い自走榴弾砲であり、決して駄作ではないことを忘れてはなりません。

敵にとって十分な脅威になり得ることが、重要なのです。


アメリカ軍は、他にも様々な榴弾砲を選択できました。

口径が大きくて破壊力が強いもの、より射程が長く機動力も高いもの、極限まで機動力を求めたもの、空中輸送を念頭に設計したもの……。


しかし、M109を選び続けました。結果、問題点は洗い流され、30ヶ国に広まり、生産も整備も修理も簡単になり、生産ラインも「慣れ」ました。

M109は榴弾砲としてだけでなく、良い兵器としての基本も抑えることになりました。


必ずそこにあり、必要な時に届き、信頼できて、使いやすい。

良い兵器とはすべからくこうした条件を備えており、M109もこの条件をクリアしています。


基本性能はほかの榴弾砲に一歩及ばないかもしれません。そのせいで、あまり強くは見えないでしょう。

しかし、基本以外の性能も把握しないと「駄作なのにみんな使っている、みんな馬鹿だなあ」とか「これはアメリカが儲けるために無理やり売りつけているに違いない!」とか、そういう変な方向へと思考してしまいます。


日本の車が世界各国で売れ、信頼を寄せられているのと同じです。

日本の車はフェラーリより速く走れますか?ベンツより豪華に見えますか?燃費は良いです。しかしそれだけでは売れません。

でも、とても良い車です。壊れなくて、決して高くはなく、いつでもどこでも走れます。


冷静に考えて、多数のプロが一般人以下の情報量しか得られないということは有り得ないので、みんなが使っているということは何かしらの強みがあるということなのです。

だから堂々と、M109は強いと言えます。


とはいえ、基本性能も大事です。世界各国が手放し、ほかの榴弾砲に変更し始めているということは、流石に旧式化著しいということでしょう。

願わくば、基本性能の上がったM109A6パラディンやM109A7が供与されますよう。


ちなみに、M109でパラディンと愛称されるものはA6のみです。カッコいいのでタイトルにつけましたが、他の型は(なぜか)そう呼ばれないんですよね



2023/1/18、ウクライナがベルギーから買ったM109A4BEが確認されました。

主に射撃速度を早めた改装が施されており、20秒以内の全力射撃で3発、1分以内に6発と大幅に上がっています。

射程が短いままなのは残念ですが、PzH2000並みの火力を備えたことにより濃密な支援を行うことができるでしょう。


2023/5/4

M109A6パラディンの使用が確認されました。Pzh2000並みに強力な自走砲として仕上がっており、現状最高のM109と言っても差し支えないでしょう。

流石に巡航ミサイルを撃墜したレールガン用の超高速砲弾は配備されてないでしょうが、一段性能の上がったパラディンは高い攻撃能力でウクライナを待ち受けるロシア軍を叩いて回ることでしょう。

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