空飛ぶ装甲車 Mi-24ハインド

Mi(ミル)-24は、1972年から配備されたソ連製の攻撃ヘリコプターです。


攻撃ヘリコプターの生まれはベトナム戦争までさかのぼります。

ベトナム兵のゲリラ攻撃に悩まされた米軍は、輸送用のヘリコプターに機関銃を搭載して輸送ヘリを防護しました。


その後、攻撃ヘリコプターとして設計された真の攻撃ヘリコプターが登場します。

ソ連もこうした攻撃ヘリコプターは欲しかったのですが、こちらは少し事情が違いました。


冷戦期を通じて戦場の速度は一段とテンポが上がり、広大な国土面積を有するソ連は装甲車両だけでは限界があると判断しました。

自国が攻められた場合、もしくは攻め入る場合でも、遠距離を装甲車両で移動するのは大変だと思ったわけですね。


そのため歩兵の輸送も一緒にできる攻撃ヘリが求められ、横にも縦にも大きい輸送攻撃ヘリが作られます。

空中の歩兵戦闘車、Mi-24の登場です。


颯爽と戦場に現れると、降りる地点(ランディングゾーン・LZ)に大火力で攻撃。

敵部隊を一掃したら悠々と降り立ち、8人の歩兵を降ろして残敵掃討の援護。


地上のノロマな装甲車に比べて圧倒的な速度と地形突破力を持ち、短時間なら同等以上の火力。

不安なのは防御力だけですが、それも機動力をもって帳消しにします。


その防御力だって、ヘリコプターにしては高いものです。

空飛ぶ戦車とも呼ばれたMi-24は、高性能ヘリコプターとして一世を風靡しました。


実際、コンセプトは素晴らしいものです。

地上というのは、基本的に移動に適しません。山あり谷あり、泥あり砂ありが基本なので、車両で走ることが難しいのです。


そこで走りやすくしたのが道路ですが、道路は線として引かれています。面ではありません。

面ではないので、部隊の移動が分かりやすく、道路を利用すると奇襲性が低くなってしまいます。ロシア軍がやらかしましたね。


しかしMi-24に乗れば、そういった制約を受けずに面を自由に移動し、自由に降りられます。

土地を占領できる唯一無二のユニット、歩兵を高速かつ自由に動かせるのですから、弱いはずがありません。


Mi-24は実戦投入されてすぐに、その威力を発揮しました。

大火力でランディングゾーンを制圧、歩兵を下ろしたら戦闘に復帰。巨体に似合わぬ速度と機動力があり、敵の地上部隊はまんまと翻弄されました。


撃墜しようにも大口径砲弾は当たらず、23mmよりも下の口径の銃弾は大した効果がありませんでした。

23mm弾を利用した機関砲のみが有効でしたが、そればかりを備えている陸軍はありません。


第一、防空網の厚いところは避ければいいのです。その場で撃つしかできない対空砲と違い、Mi-24の最高速度は330km/hを超えます。

打ち上げではなく打ち下げられるMi-24は射程でも有利に立ち、半ば一方的に攻撃することができました。


強力なMi-24でしたが、1979年にアフガニスタンで紛争が起きると事態は一変、ゆっくりと価値を失っていきます。


ムジャヒディンは強力な相手でしたが、それでも戦争初期ならMi-24は圧倒的に有利でした。

ムジャヒディンはMi-24を怖がり、正面から戦うことを避けました。


1986年にアメリカ製のMANPAD、スティンガーがムジャヒディンに手渡されると、損害が急増します。

ヘリの中では重装甲でもヘリはヘリ。対空ミサイルが直撃すれば致命傷を負ってしまいます。


それに、アフガニスタンは標高が高かったので空気が薄く、エンジンの出力が落ちました。

Mi-24は歩兵を乗せることをやめるか、装甲板を外すかを選ばざるを得ませんでした。


それでも近くで爆発するだけならよく耐え、飛行場に戻るくらいはできました。

スティンガーのような歩兵の持つ対空ミサイルに弱かったのは事実ですが、最後まで強力な戦力であり続けました。


その後もMi-24は様々な紛争で活躍しますが、対空ミサイルの性能が上がるにつれて落とされやすくなり、今では弱者のうちの1つです。

ソ連崩壊と共に、大量のMi-24による歩兵輸送も現実的では無くなりました。ヘリは高価だからです。


ヘリは高価なのに、歩兵の対空ミサイルで簡単に落とされてしまう。運べる人数は機数が少ないから限られている。

少数精鋭の空挺部隊や特殊部隊を運ぶことには向いていますが、結局、一般部隊を自由自在に動かすことは出来ませんでした。


Mi-24のメリットは、そもそもが強力な戦闘ヘリなので高い火力を発揮できること。そして火力を維持したまま、歩兵を何人も乗せて飛べることです。

逆にデメリットは、装甲車に比べて高価で、防御力は低いことです。自分だけ先行して少数の部隊を前に動かせても、後ろが追い付けなければ孤立してしまいます。


また、今ある攻撃ヘリの全てに言えますが、MANPADSの進化と普及によってその価値は著しく削がれています。

攻撃ヘリというジャンルの兵器が持つ価値が消えることは無いでしょうが、予算との兼ね合いにより色んな国で廃業寸前です。


Mi-24は輸送と攻撃が一度に行えるという特徴のため重宝されることもありますが、あくまで機会は限られたものです。


ウクライナに供与されたMi-24は、歩兵を輸送するよりも純粋に攻撃ヘリとして使われているようです。

その高速性と1.5tの搭載量を活かしてロシア占領地の奥深くへ入り込み、打撃を与えています。ベルゴロドの石油タンクを破壊した件も有名ですね。


低空を這い、木の影から突然現れるとロケット弾を連続で発射し、敵の対空兵器がなにかする前に逃げてしまう。

これぞ今の攻撃ヘリの戦い方です。まさに「空飛ぶ装甲車」といった戦い方ができます。


設計者の夢は叶いませんでしたが、Mi-24は使い所さえ間違えなければ今でも強力な兵器です。

ウクライナでは数少ない貴重な航空戦力の一つとして使われ続けるでしょう。何より、ウクライナ軍の中では未だに唯一の戦闘ヘリなのです。(2022/12/8)


今のところ、ウクライナ軍は使い方を間違えていないように思います。

線ではなく面を移動できる奇襲性と、高い瞬間火力はロシア軍を混乱に陥れます。


常にあちらこちらを引っかき回し、ウクライナ軍の勝利に貢献できるでしょう。

俊敏に、獰猛に。空飛ぶ装甲車は今日もウクライナの地を駆けています。

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