いっちばんドイツらしいやつ PzH2000

PzH2000(パンツァー ハウヴィッツェ ツヴァイタウゼン)は1998年からドイツが配備している自走榴弾砲です。


榴弾砲は大きな砲弾を高く長く飛ばすための兵器です。

登場してからしばらくは、トラックに引かれて戦場を移動していました。


次第に、トラックと榴弾砲を合体させた方が速く移動できるだろうと、技術が進歩するにつれて自走できる榴弾砲が増えます。

こうして自走榴弾砲は生まれましたが、しばらくは人が動きやすいようにオープントップで開放的な空間を実現していました。


青空が見える自走榴弾砲はドライブにいいのかもしれませんが、航空攻撃のみならず同じ榴弾砲からの攻撃、歩兵の奇襲などに弱いという弱点がありました。

これを改善すべく、1960年代以降各国は天井まで装甲でおおった自走榴弾砲を作り始めました。


初めは天井までおおうと作業が難しいため105mmといった小さい口径の砲を採用することも多かったのですが、1980年代以降は155mm自走榴弾砲(155自走榴)が増えていきます。


さらに時代が進んで1990年代の155自走榴ともなると、砲身が非常に長く、比例して射程も長くなります。

コンピューターは高度化して、高い精度、高い射撃速度、素早い展開・撤収が可能になりました。


その集大成とも言うべき高性能155自走榴の一つがPzH2000です。

戦車並みの55tという巨体に、8mもの長い砲身。それでいて1000馬力のエンジンで時速60km/hを叩き出します。


まるで重戦車のような堂々とした見た目のPzH2000は、見た目通り強力です。

30kmの射程を持ち、砲弾を変えれば40kmまで伸びます。

砲弾によってはなんと70km近く飛ぶものもあります。ロケットアシスト弾といい(呼び方は色々あります)、ロケットモーターで射程を伸ばした砲弾です。

精度は落ちるでしょうが、敵の大規模部隊や基地に対しては超長距離射撃で大混乱を引き起こせます。


自動装填装置を搭載しており、9秒間のバースト射撃では3秒に1回という超高速装填を実現、高い火力を発揮します。

持続射撃でも1分間に6発(10秒に1発)と十分な射撃速度を保ちます。


40m四方をなぎ倒す砲弾が、それだけ短い間隔で飛んでくるのです。

東京の真ん中に置いたら、横浜市やさいたま市、東京湾を飛び越えて千葉県の湾岸部あたりまで射程内です(通常弾)。


履帯(キャタピラ)で移動するので道路だけでなく不整地でも素早く走ることができます。

車体の重さも合わさって反動の吸収能力が高く、高精度の攻撃を期待できます。


展開・撤収までの速度は一般的な自走榴弾砲と比べても早く、アメリカを中心に使われているM109の5倍の速度があります。

射撃場所を見つけたら30秒で射撃開始、優秀な射撃速度を活かして数発発射し、撤収もこれまた30秒。


小部隊であればわずか数分の間に、十分な破壊と混乱を叩き込むことができます。

また高性能なコンピューターは多弾同時着弾(MRSI)という技術を実現しています。


PzH2000の連射能力が優秀とはいえ、機関砲のようにはいきません。

一発目は不意を突けても、二発目三発目は逃げられたり隠れられたりして攻撃力が落ちてしまう場合があります。


そこで、一度に多くの火力を叩き込んで一気に殲滅するのがMRSIです。

一発目は高く撃ちあげて長い距離を飛ばし、以降は徐々に角度を下げて撃ち出すことで同時に複数の砲弾を当てます。


PzH2000は最大五発の砲弾を同時に着弾させることができます。高速でリロードできる自動装填装置と、撃った砲弾の弾道を追い続けられる小型レーダーのおかげです。

通常の五倍の攻撃を無防備な状態で受けた敵は、大きな被害を被ることでしょう。


またPzH2000は誘導砲弾のM982エクスカリバー、スマートクラスターのSMArt 155を発射することもできます。


エクスカリバーはスウェーデンとアメリカが開発した、目標の数メートル以内に着弾するGPS誘導砲弾です。

高価ですが非常に命中率が高く、ウクライナ戦争でロシア軍の戦車を次々に破壊していたのもこの砲弾です。


SMArt 155はドイツ製の対戦車用クラスター砲弾で、赤外線とレーダーで車両を捉えて爆発する子弾が二つ内蔵されています。

子弾は空中で爆発し、板状の金属を爆圧で銃弾状に変えて飛ばし、装甲を貫通します。


このように、PzH2000は車両性能・砲弾性能ともに強力で優秀です。

しかし、性能が高いが故の欠点もありました。


まずPzH2000は重く、足回りに負荷がかかります。平原なら問題はないのかもしれませんが、ウクライナ戦争での故障率は高いように見えます。

1日に100発を超えて射撃することは想定されておらず、101発目を撃とうとするとシステムにエラーが出てしまいます。


ウクライナ戦争では航空優勢が無く、第一次世界大戦のような塹壕と砲撃の戦闘になっています。

こうした状況では大量に砲弾が消費されるので、より「スマート」な戦争を前提にしていたPzH2000のシステムは混乱しました。


エラーは電子系のシステムだけでなく、射撃系にも出ます。

ウクライナ軍は常に高い射撃速度を求め、PzH2000のシステムをフルに使いました。

短時間に大量の砲弾を吐き出したPzH2000の砲はあっという間に加熱し、修理が必要になりました。


またウクライナ軍は反撃による損傷を恐れたため、射程を伸ばすために装薬(発射するための火薬)を規定より多く入れて射撃しました。

PzH2000はこれを十分に受け止めましたが、当然負荷は増えます。これも修理の必要性を高めました。


また、こうして長距離から密度の高い射撃を行っているにも拘らず、戦闘で損傷する車両もあります。

高性能ですが装甲を全体にまとったPzH2000は今や古いタイプの自走榴弾砲です。


現在の自走榴弾砲は反撃が来る前に逃げるスタイルを確立させており、重たいPzH2000は考え方として一世代古いのです。

そうした新しい自走榴弾砲と比べてPzH2000は、展開・撤収速度は十分早いのですが、最高速度や加速性能には不安があります。


重いため、地面のおうとつやぬかるみには弱いでしょう。前述のとおり故障率が高いため、頻繁に足を止めているのかもしれません。

そうした原因が重なると、多少なりとも反撃を受けてしまうと考えられます。


とはいえ、PzH2000が優秀な自走榴弾砲であることに変わりはありません。

各反攻作戦では必ずと言っていいほど姿を現し、高密度の砲撃を叩き込んでいます。


損傷もほとんどが軽微で、周辺国で修理することで時間をかけずに戦線に復帰しています。

数度の戦闘による破損が確認されていますが、破片を防ぐために付けられた装甲は見事にこれを弾き返しています。


PzH2000は往年のドイツ重戦車を思わせます。

巨大で高性能ですが、重くて故障しやすく、度々設計思想とは異なる使い方をされてまた壊れてしまう……。

凝り性のドイツ人が作る兵器らしく、強いですがあれこれ追加する余地はありません。


すでに強大な戦闘力を見せつけたPzH2000は、ウクライナ兵が「慣れる」ことで戦場に長く留まり、より多くの戦果を挙げることでしょう。

使い辛い一面を持ちますが、それは高性能の裏返しなのです。


ところで、なぜドイツ語にすると大体の言葉がカッコいい響きを持つようになるんでしょうね。

パンツァー ハウヴィッツェ ツヴァイタウゼン。俺の喪われし右手が疼く……っ!

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