馬車馬のように M998ハンヴィー

ハンヴィーはアメリカが1985年から配備した軽装甲のジープです。


兵士を乗せて走るトラックは、第二次世界大戦からベトナム戦争まで前線を駆け巡り、高速大量の歩兵輸送を可能にしました。

しかし荷台は銃弾どころか弓矢すら防げない布張り、またはそれすらないのが普通で、防御力は無いに等しいものでした。

トラックは後方で使うならともかく、前線で使うには大きくて重く、遅く、防御力が低すぎたのです。


そこでアメリカ軍は全体を装甲でおおったM113兵員輸送車を開発しますが、トラックに比べてさらに重く、複雑で高価でトロいという欠点がありました。

そこでその中間を取った車両がハンヴィーです。


ハンヴィーは無骨なSUVといった出で立ちで、性能もその見た目に合ったものです。

装甲と防弾ガラスで銃弾の多くを防ぎながら、最高時速113km(何も載せてない時)の快速を誇ります。


軍用車両にしては軽くてタイヤ型なので燃費もよく、補給の負担を減らしてくれます。

なんと5.8km/lの低燃費です。低燃費です。決して軽自動車と比べてはいけません。


ハンヴィーは一般的なSUVと比較して2倍の最低地上高を持ち、それだけ走破できる地形が多くなっています。

重量とトルクは強力で、重いものを難なく引っ張れます。


60%の勾配まで登ることができ、40%の勾配が付いてる坂を転がらずに横へ移動できます。

一般に急勾配とされる坂が10%を上回るくらい、日本で1番きつい坂が40%ほどなので、60%はもう崖です。


崖と表現されるような坂でも登れてしまうのがハンヴィーです。

平坦な地形の多い大陸内部ならどこでも走れると言って良いでしょう。(と言っても最近の車はすごくて、装甲が無いとはいえハンヴィーと同じくらいの坂を登る車種もあります)


なのに輸送機で運べるため、簡単に海を渡り新幹線よりも速く移動できます。

水陸両用で、ゆっくりですが川や浅瀬を渡れます。


ハンヴィーは装甲を付けてなお強力な機動性を持つところが光る車両ですが、実は最初のハンヴィー、M998は装甲がありませんでした。

本当にただのジープで、小銃弾は防げず、沢山の死傷者を出してしまいました。


しかしM998ハンヴィーの頃から、生存性には光るものがありました。

車体はとにかく頑丈で、対戦車ロケットの直撃を受けても逃げ切った例があり、後から修理されてまた戦場へ送られています。


この頑丈な車体は高い拡張性を生みました。拡張性を活かして装甲を増したのがM1114ハンヴィーです。

このハンヴィーは小銃弾に耐える、立派な装甲車です。エンジンや足回り、エアコンなども改良されてより強力な車両に仕上がっています。


さらにそこから、装甲を外して山岳地帯を疾走できる現地改造型や、逆に装甲を増した改造型M1151が作られます。

しかし対戦車地雷への生存性が低く、武装勢力の火力が向上したため、2012年には時代に合わない車両と判断されてしまいます。


また、いくら頑丈とは言っても元が非装甲のジープでは限界があり、攻撃を受けた際にドアが歪んで閉じ込められる事故も発生します。

これについてはリングを取り付けて他の車両がドアを引きちぎることで対応しましたが、たしかに時代についていけなくなりつつあったのです。


しかし使い勝手はよく、現場の兵士からは好かれていました。

上部の機関銃座が攻撃に弱いとなればそこに装甲を追加したり、なんなら無人のリモコン銃塔を搭載したり。音で狙撃兵の位置を探る装置を取り入れたり。


上層部からは「とりあえずの車両」「繋ぎの車両」とされながらも、あの手この手で長く改良され続けたのがハンヴィーです。

上層部の評価は適切でしたが、防御を強化したり地雷に強くしたハンヴィーの後継車両は、それはそれで問題が多く、ハンヴィーは未だに使われています。


最近は軍事企業が改良に熱心で、アメリカ軍や中古のハンヴィーを買った国への売り込みが盛んです。

変に高機能では無くて使いやすいから、まだまだ活躍の場があるということでしょう。


アメリカ軍そのものも大量に作ったハンヴィーの処理に手を焼いており、無人戦闘車両に作り替える案も存在します。

ハンヴィーの後継車両から降り立った兵士が、複数のハンヴィーを操作し、偵察や軽攻撃に使う……そんな未来があるのかもしれません。


現在のハンヴィーは主なもので17種類、試作や色んな車両に乗せられるシステムを載せたハンヴィーまで数えると48種類あります。

他国で改造されたものや現地で好き勝手にイジられたものまで含めると、それこそ無数に、数えきれないほどあります。


それだけ改造しやすい車両だったということでもあります。対空ミサイルや対戦車ミサイルを搭載したり、気象予報したり、砲撃を誘導したり、兵士を助けたり……。

この使い勝手の良さが、現場に好評だった理由でしょう。


使っている国も68か国あり、実に世界の三分の一の国がハンヴィーの使用経験を持っています。

あらゆる国家の機動車両に影響を与え、民間にも装甲を外して販売されてレジャーや車遊びに影響を与え……と世界中に名前を知らしめました。


どこにでもいてどこでも活躍したハンヴィーは、当然のようにウクライナにも供与されました。

強力な火力の前ではあっけなくやられてしまう車両ですが、なんにでも使えて移動も速いハンヴィーはウクライナが主導権を取り戻すことに役立ちました。


ハルキウ奪還戦ではロシア軍陣地に突っ込み、射撃しては離脱するという流れで歩兵をピストン輸送。

ウクライナ軍の素早い大反撃を支えた一柱として活躍していました。


今後はウクライナでも最前線ではなく後方支援に使われるかもしれませんが、そうだとしてもハンヴィーの魅力は減りません。

とにかく使いやすい馬車馬のような存在のハンヴィーは、あらゆる場面でウクライナを支え続けるでしょう。


あと丸いヘッドライトがとてもかわいい

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