戦場のタクシー M113
M113は1960年に採用された装甲車です。
全体的に箱型のデザインが採用されており、全周アルミ装甲でおおわれています。
コンセプトは「戦場のタクシー」で、兵士を乗せて比較的安全に前線を駆けまわることを目的としていました。
兵士は11名乗せられ、車高が高いので乗り降りもスムーズです。
アルミ装甲は軽量で、最高速度こそ64km/hと大したことはないものの、装軌(キャタピラ)車両の中では燃費や故障率は良好な値を示しました。
窓がほとんどないため、兵士は銃撃からしっかりと身を守ることができます。
身を守ったまま戦場を移動し、必要なところで降りて仕事をすることができます。
徒歩よりも安全なだけでなく、快適で速いです。
最も重要で撃たれ弱い戦力である歩兵を素早く動かすことで、戦場のテンポを変え、主導権を握ることができます。
銃撃を防ぎ、主導権を握れるという一石二鳥の車両であり、現代戦には欠かせないタイプの車両です。
こうして歩兵を装甲車などに乗せて動かせる部隊に変えることを機械化と言います。
機械化された部隊は燃料や部品の補給を必要としますが、非常に強力で戦車の突撃についていくことができます。
戦車が突破した後ろを歩兵で固めることで、突破を阻止しに来た敵の戦車や装甲車などを効率的に撃破し、素早く確実に占領地を広げられます。
効率のいい軍隊に変わるので、同じ戦力であれば人を減らすことができ、最終的な補給の量も減らすことができます(中国は一気にこれをして兵士の数を半分まで減らしました)
M113は比較的安くて簡単な作りなので、機械化率をお手軽に高くすることができます。
しかし、設計が古くて肝心の防御力は高くありません。
アルミ装甲は軽くて水陸両用車両に最適ですが、攻撃には弱くて燃えやすいです。
M113は最大38mmのアルミ装甲を持ちますが、基準となる鉄板の厚さに直すと大体0.8をかけることになり、30mm程度の厚さしかありません。
これは至近距離での重機関銃に貫通される程度の厚さです。
もっとも、普通は至近距離で撃たれる前に兵士は降車するわけですが、密林がほとんどのベトナム戦争では奇襲を受けてしまい「普通」が通用しませんでした。
おまけに燃料タンクの位置が悪く、後方から被弾すると燃えやすい欠点もありました。
また、対戦車火器や地雷には無力で、ベトナム戦争時は車内ではなく車外に乗ることも多かったようです。
初陣は想定された通りの使い方ができずに散々な結果でしたが、軽量で改造もしやすいことを買われて未だに使われています。
爆発反応装甲(ERA)を付けて対戦車火器を効率的に減衰させたり(完全に防ぐことはできません)、単純に装甲を増やしたりと主に装甲やその他防御面を強化されています。
地雷に弱い欠点はあまり改善されていませんが、それでも銃撃を防ぎながら高速で走れる強みはウクライナでも活かされるでしょう。
ウクライナの地は平坦で、森林も少ないです。ロシア兵から奇襲されることは少ないと思います。
M113は安くて古い、特筆すべき性能やオプションが無いことから政治的・軍事的にも供与が簡単で、装甲車不足だったウクライナ軍を助けました。
いくら装甲が薄いといっても、生身よりはマシです。
また、オランダからは攻撃力を強化したM113、YRP-765が供与されています。
YRP-765には元のM113同様、様々な派生型が存在しますが、基本は25mm機関砲とその砲塔を搭載したM113です。
元のM113には精々重機関銃しか搭載できなかったことを考えると、何倍もの火力を持ちます(火力は砲>重機関銃)
この25mm機関砲は装甲車やヘリコプター、さらには戦車の薄い部分の装甲を貫通することができます。
その攻撃力は使い勝手が良いのか、ウクライナ軍の攻勢では必ず登場しています。
M113シリーズは古くても、十分に役に立つ装甲車です。
ロシア軍を食い止めたが反撃するには機甲戦力が足りず、また高速で動き回るロシア軍機甲部隊を止めきれなかったウクライナ軍はジリジリと押されていました。
そこへ真っ先に到着した装甲車は、M113です。
はっきり言って弱い装甲車ですが、どんなに強い兵器でもそこに無ければ意味がありません。
元々のコンセプトとは少々違いますが、そこにあることでM113は存在感を放ちました。
軽い、安い、簡単。それは「役に立つ」兵器の目指すべきところです。
M113は装甲車としては弱いものの、兵器としては強いというお手本のような動きを見せました。
偉大なる先輩として、これからもウクライナの平地を走り続けることでしょう。
追記
M113はウクライナ兵に好まれているようです。操作も整備も簡単で、ソ連製装甲車のBMPよりメンテナンスが要らないとのこと。
やはり「良い」装甲車なんですね。
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