ポーランド式魔改造 PT-91トファルディ

トファルディはポーランドが1991年から作成、というかもともと配備していたT-72戦車を改造した戦車です。


当時のポーランドは古くなりつつあった旧ソ連製の戦車しか保有しておらず、改良する必要がありました。

手始めにT-72よりも古い戦車を改良したポーランドは、一つの確信を得ます。これならT-72も改良できると。


T-72の欠点は四つ。貧弱な光学機器とエンジン、室内が狭く大口径の砲弾を扱うのに手動装填(疲れやすい)、そして急速に陳腐化しつつある装甲でした。

特に装甲は輸出型のT-72の場合、厚さは同じであるものの旧世代のものが使用され、かなり低レベルなものでした。


ポーランドが装甲について気づいていたかは分かりませんが、とにかくこの三点に重きを置いた改良を施すことになりました。

改良は果たして、上手く行きました。


まずPT-91は全身に、ERAWA(エラワ)と呼ばれる爆発反応装甲(ERA)を備えました。

ERAと言うのは、砲弾が直撃した際に爆発し、砲弾を反らしたり折ったりすることで威力を減らす装甲です。


使い捨てですが、軽くて簡単に付け外しができ、あまり機動力を損ないません。

また、小口径の銃弾や砲弾、ナパーム弾の炎では爆発しません。


ERAWAは砲弾の種類にもよりますが、30%から70%も威力を削ることができました。

この装甲が、なんと400枚以上ついています。


加えて「生存性」も向上しており、多くの発煙弾発射機と、レーザー警報に連動して照射された方向へ発煙弾を発射する機能も追加されました。

からの、ERAWAをレーダー波吸収素材で覆うことにより、偵察車両や戦闘ヘリからの発見率を半減させています。


地雷に対する耐久性にも配慮されており、脱出用のハッチを改良し運転席を底面から離すことで乗員への被害を抑えています。

地雷の中でも磁石でくっついてから爆発する接触式地雷のために、底面をゴムで覆ってもいます。


自動装填装置は装填手をいらないものとし、戦車の乗員を減らすことに成功しました。

連射力も上がるし疲れることもないため、攻撃力は増大します。オマケに砲弾もより強力なものに変わっています。


さらに射撃装置の安定性が増し、速すぎて照準が付けられなくなると車長に知らせる便利機能も付いています。

弾道コンピューターやレーザー距離計といった電子装備も新しくなり、射撃精度は向上しました。


操縦手は主要部品の状態が分かるモニターをいつでも見ることができます。

エンジンも強力になっており、機動性が向上しています。


暗視装置と無線機が改良されたことも外せません。夜間戦闘や味方と距離を取っての戦闘が快適になりました。

エンジンの力を車輪に伝えるギアボックスも変化し、スムーズになっています。


このようにトファルディは大量の改良を施し、誕生した戦車です。

それぞれの改良点がちぐはぐになることも無く、バランスの取れた戦車をバランスの良いまま改良しました。


強力な戦車ですが、それでも最新の戦車に比べれば見劣りする部分も少なくはないです。

最も目立つのは装甲です。ERAWAは優秀ですが、その後ろにある本体の装甲(受動装甲と言います)は230mmほどでしかありません。


現代の戦車砲弾は600~700mmの装甲を貫通します。

これは対戦車戦で最も多く使われるAPFSDSという種類の砲弾を仮定しています。


APFSDSと言うと難しそうな用語ですが、要はとっても硬い金属でできた、細長いダーツです。

凄いダーツをとんでもない速度で当てて、魔法みたいな原理で装甲を貫通させています。


ERAWAはこのダーツ相手だと、30%~50%ほど貫通力を削ります。

例えば600mmの貫通力を持つ砲弾が当たったとしましょう。幸運なことにERAに弱いタイプの砲弾だったので、貫通力は半分削れました。


それでも300mmの貫通力が残っています。後ろに控えていた230mmの装甲では足りません。

角度によっては十分弾くとされますが、逆を返せばしっかり当てられた場合は貫通されるということです。

ERAWAは使い捨てであり、同じところに砲弾が当たる確率は低いとはいえ、二度目は為す術も無くなってしまいます。


火力も、砲を安定させるスタビライザーが旧世代のものであり、精度や信頼性が微妙です。

他の電子機器も、改良時期が30年ほど前ということもあり、若干不安なところがあります。


あくまで30年前の戦車であり、現代では一流とは言えません。

とはいえ全体的にレベルは高く、特に暗視装置は優秀です。


トファルディはポーランドの虎の子を長く務めた戦車であり、ウクライナに供与された今はウクライナの虎の子戦車となっています。

未だに戦場での発見報告が無いことからも、どれだけ大切に思われているかが分かると言うものでしょう。


ウクライナ軍はここぞという時を辛抱強く待ち続けているのです。もちろん余裕が無くなったり、もっと強力な戦車が供与されれば出し惜しみはしないのでしょう。

使われていないのはウクライナ軍の余裕の表れなのかもしれません。


その時が来れば、トファルディは他の戦車や装甲車に交じり、前線を突破、あるいは突破しようとする敵戦車軍団を食い止めにかかるでしょう。

それまでじっと、牙を研いでいるに違いありません。

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