英国生まれの爆速ダーツ スターストリーク

スターストリークはイギリスが1997年に配備を始めた対空ミサイルです。


と、その前に小話を。皆様は「英国面」というワードをご存じでしょうか。

爆撃機を落としたいから前に機銃を撃てない戦闘機を作る、過去の戦訓を元に全長10mの長すぎる戦車を作る、敵の要塞に爆弾が自動で突っ込めばいいなと考えて水車にロケットモーターを取り付けたようなデカい車輪を作る等々。


兵器開発というのは試行と困難の連続ですが、それにしたってクセが強すぎる。イギリスはそうしたクセの強い失敗を数多く繰り返してきた国です。

時にそのクセの強さは、世界の戦争を変える大革命を起こしたり、そこまでではなくても唯一無二の兵器になったりします。


一々解説すると時間がなんぼあっても足りませんので、ご興味あれば「パンジャンドラム」とか「デファイアント」とかで調べていただくとして。

スターストリークもそんなクセの強い、一風変わったミサイルとなっております。


スターストリークはマンパッヅとして開発されました。歩兵が肩に載せて撃つための対空兵器です。

それ以外にも装甲車に載せて撃つこともできますが、ミサイルの能力は変わりません。


スターストリークはマンパッヅとしてはやたらと射程が長く、他が4~5km程なのに対して7kmの脚の長さを誇ります。

速度もやたら速く、他がマッハ1~2.5程なのに対してマッハ4で飛んでいきます。これはマンパッヅの中で最速です。

おまけに、よくある赤外線誘導ではなく誘導用のレーザーに従って進む、レーザービームライディングという誘導方法を採用しています。

からの、ただのレーザーではなく波長を変えたレーザーを二本飛ばします。


もうすでに一風変わったミサイルですが、この程度ではわざわざ英国面と言う言葉を出すほどではありません。スターストリーク最大の不思議点は弾頭にあります。

なんと弾頭が三本のダーツでできているのです。


マンパッヅに限らず、通常の対空ミサイルは目標の内部や至近で破片をばらまく「破片榴弾」という弾頭を使っています。

どんな破片をどのようにばらまくかは個性が出るところですが、基本的な考え方は変わりません。


しかしスターストリークはタングステン製のダーツが三本入っています。

ダーツは一本およそ1kgで、超高速で当たるので航空機の外板を容易に貫通し、貫通後に内部の450gある炸薬に引火して爆発します。

また、貫通時にダーツの一部は液体状になって飛び散ります(液体「状」なので硬いまま)。


貫通力は非常に高いので、当たった場所とその付近は確実に穴だらけになりますが、それ以外の場所に対する効果は低いです。

航空機で何も入っていないところなんかまずないのですが、それでも重要度の低い機器はそこかしこにあり、当たっても必ず致命傷を負わせられるわけではないでしょう。

だから三本のダーツを発射する、という至極面倒くさい手順を踏んでいます。


射手がレーザーを目標に合わせると、発射機はミサイルがどの方角に向かって飛べばいいかを計算してはじき出します。

計算結果が出たら射撃します。ブースターの一段目が点火しますが、ミサイルが入っていた筒から出る前に燃焼が終わり、捨てられます。


射手から十分離れたところで二段目のブースターが点火。レーザーを検知して角度を調整しながら、マッハ4まで加速します。

二段目が燃え尽きるとダーツが切り離され、滑空しながら目標に向かって突っ込みます。


ダーツは直径3mの円内に収まったまま飛行します。この円内に目標が入っていれば、高い確率で損害を負わせられます。

とまあ、対空ミサイルとしては、火薬の詰まった大きな破片を飛ばして攻撃するような形であり、なぜこんなふうになっているのか分からないと思います。


スターストリークの真の狙いは「対空にも対地にも使えるミサイル」です。


スターストリークはダーツ弾頭で、遅延信管です。遅延信管というのは、衝撃を感知してからわずかな時間をおいて爆発する信管のことです。

これによりスターストリークは、目標の表面ではなく内部に入ってから爆発します。


マッハ4で目標に突き刺さるスターストリークは厚さ3cm以上の高強度鋼を貫通します。

ちょうどソ連製装甲車の大半は3cm以下の厚さの装甲しか持たないので、スターストリークで損害を与えられます。


スターストリークは対空ミサイルでありながら、装甲車程度なら破壊できてしまう対地ミサイルでもあるのです。

こんなへんてこなミサイルになったのは、どちらにも使えるミサイルがあれば便利だという考えと、当時ソ連が崩壊していったことにより軍事予算が削られたことが原因でした。


対空ミサイルと対戦車ミサイルをどちらも揃えたらお金がかかるので、スターストリークで対戦車ミサイルの一部を代替しようという作戦です。

まあ大体この手の作戦は失敗するのですが、イギリス軍は成功したかどうかはともかくこの手の多機能(マルチロール)ミサイルに惚れ込んだみたいで、今でも配備し続けています。


スターストリークはウクライナでもよく使われ、マンパッヅの一員としてヘリを落とした上に、トラックなどにも攻撃しています。

レーザー誘導なので相手の警報装置は鳴ってしまいますが、妨害システムは一切機能しません。それにマッハ4の超高速で飛んできます。

慢心して回避機動を行わなかった相手にはことごとく直撃、機体をへし折るなどの活躍を見せました。

スターストリークの特徴を良く理解したウクライナ兵は、相手を選んで効果的な攻撃を仕掛け、ロシア軍の攻勢を叩きのめしたのです。


供与数が少なかったためか、2022/11/13現在ではあまり使われているようには見えません。

しかし、唯一無二のへんてこミサイルは、確かに使われ、そして戦果を挙げました。

ウクライナの土地で炸裂した英国面は、見事に成功したのです。

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