ハマると最凶 バイラクタルTB2

バイラクタルTB2はトルコが2014年に初飛行させた中型の無人偵察機、ドローンです。


TB2のデビューは、ウクライナとロシアの戦争に先立って2020年に行われた、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争でした。

この紛争ではアゼルバイジャンがTB2などのドローンを駆使してアルメニアの防空網を破壊し、戦闘を有利に進めたことが取り上げられました。

ここから、予想外のドローンの活躍が注目され、各国では戦訓を反映したドローンやその対策が開発されています。


TB2は中型のドローンですが、今までの飛行機と似た形をしているため27時間も飛ぶことができます。

通信に衛星を介さないため、高速で通信できますが地平線より遠くまでは飛ばせません(300km圏内)。通信が途切れた場合、指定されたポイントまで自動で戻ります。

飛ぶには小規模の飛行場が必要で、通信には車載の通信ステーションが必要です。


最高速度は遅く、市販のスポーツカーにすら追い抜かれます。このため急行する任務やミサイルの回避行動は不可能です。

上空7.6kmまで登れますが、実用的な高度は5.5kmです。カメラが見える範囲は正確に公表されていませんが、数十キロです。


バイラクタルTB2は偵察のほかにも小規模な攻撃が可能で、小型の誘導爆弾や対戦車ミサイル、誘導ロケット弾などを発射することができます。

下方向に対するステルス性が高く、旧式のレーダーでは捉えにくいです。


本来、TB2は重厚な防空網に対しては弱々しい存在でした。

しかし実際には、その火力や数を考えると凶悪と言うべき戦果を残しています。なぜでしょうか。


まず、重厚な防空網に対しては弱々しいと書きました。これは事実であり、ロシア軍は重厚な防空網を持っています。

ですがロシアは欲張りすぎ、戦線を広げすぎました。強力な対空ミサイルの数は少なく、前線のほとんどは短射程のミサイルで守るほかありませんでした。

その上、燃料や部品の調達にも手間取り、なけなしの対空ミサイルすら一部が機能不全に陥ったのです。

つまり、重厚な防空網と言うのを、戦線の多くで築くことに失敗しました。そこへTB2が登場します。


TB2の特徴として、大きさや値段のわりにカメラが優秀であることが挙げられます。

短射程の防空網では数十キロ先から偵察するTB2を捉えることはできても撃墜することはできず、砲撃などで大きな損害を負います。


次に、TB2は誘導爆弾のMAM-Lを使って短射程の対空ミサイルを破壊できます。MAM-Lは15kmの射程を持ち、ロシア軍前線部隊の多くの対空ミサイルより射程が長いです。

例えば9K35ストレラ-10は5km、9K33オサーは最新型では15kmですが、多くは12km以下、2K22ツングースカは10km、9K330トールも12kmです。しかもオサーはレーダーの性能上、15kmの射程を活かせません。


このように、多くの前線防空に対して有利に戦えます。その上、ステルス性が高いため、レーダーの有効範囲を小さくすることができます。射程で勝るミサイルがあっても、少々であれば気づかれずに近づくことができます。

短射程のミサイルに対しては射程で勝ち、中長距離ミサイルはその場にいないか遠すぎてTB2を捕捉できない。独壇場であり無双できる環境が整ったことで、凶悪な戦果を残すことになります。


偵察による砲撃誘導と、混乱したところへ更なる小攻撃という組み合わせは、ロシア軍をカオスに陥れ、元々うまくいっていなかった補給を更に細いものに変えました。

ウクライナ軍の北部反撃に一役買ったのは言うまでもありません。対戦車ミサイル、砲兵と合わせて主人公的立ち位置にいました。


ただ、現在ではTB2はあまり活躍していません。購入や供与の話も出てこなくなり、すっかりなりを潜めてしまいました。

ロシア軍が北部戦線を放棄したことで重厚な防空網を作れるようになり、TB2は落とされるようになったからです。


TB2の撃墜報告が急増した時期は、ロシア軍の北部撤退直後からであり、急増したためウクライナ軍はTB2をあまり使わなくなりました。

ドローン自体は有効ですが、より見つかり辛い小型ドローンが主となっています。いくらステルス性が高いと言っても、中型なだけに強力なレーダーからは逃れられません。

度々戦果を挙げているのも事実なので、ウクライナ軍は引き続き防空網の穴を探して攻撃しているようです。


TB2はハマると凶悪な戦果を残します。しかし環境によって大きく左右されるタイプの航空機です。

日本にもTB2を、という声は多いのですが、仮想敵である中国軍が同じ過ちをしてくれるかは、また別の議論が必要でしょう。山がちな日本でどれほど通信できるかも分かりません。


さて今後もTB2が活躍する機会はあるかですが、可能性は十分にあり得ます。

武器供与が進み、ウクライナ軍が様々な手法で防空網を破壊できるようになったら、またTB2の独壇場は戻ってきます。


緒戦で活躍し、終盤でも活躍できるかもしれない。大きな可能性を秘めたバイラクタルTB2は、今はゆっくりと休暇を取っているわけです。

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