その毒針は鋭く FIM-92スティンガー
スティンガーは1982年に採用された、歩兵用の地対空ミサイルです。
歩兵が肩に担いで撃てるMANPADS(マンパッヅ)という種類のミサイルで、小型軽量です。
射程や速度、威力には劣りますがヘリコプターやドローン程度なら十分に撃墜できます。機動中の戦闘機相手に当てるのは難しいですが、そこは主眼ではありません。
歩兵が撃てるミサイルがあると、敵は低空に進入し辛くなります。高空を飛べば回避できますが、それはそれで他のミサイルが飛んでくるので難しいのです。
スティンガーは決して性能の高いミサイルではありませんが、敵が航空優勢を取り、有利になることを強く妨げます。
スティンガーはあくまでマンパッヅの中に入る性能ですが、その中では高い方です。
それでも、現在まで何度か改良を加えられてきました。
今のスティンガーは赤外線と紫外線を同時に捉えることで、命中精度と対妨害性を上げています。
ミサイルに狙われた航空機は、高熱の「フレア」か細かい金属片の「チャフ」を撒いてミサイルを幻惑します。スティンガーは赤外線誘導なので、フレアが効きます。
しかしフレアと戦闘機が出す熱の波長は異なっており、紫外線を捉えることでフレアに誘導されにくくなります。
また、感度のいいセンサーを備えるため、低発熱のドローンなどにも(多少射程は短くなりますが)対応しています。
弾頭は直撃すると爆発し、破片をまき散らして航空機を破壊します。
しかし、近くを通るだけで爆発する近接信管は付いておらず、必ず直撃させなければならないのが欠点です。
地面に落ちて無駄な被害を出さないよう、17秒後に自爆する時限信管は付いています。
ただし、J型だけはドローン用に近接信管を備えており、ウクライナに供与されていると思われます。
ミサイルの目(シーカー)を冷やすためのバッテリーはあまり重くありませんが、作動時間は短く、高圧ガスが入っているために寿命も短いです。
最大射程は4.8kmですが、飛べる高度は上空3.8kmまでです。
良いセンサー、ドローン対応をよく考えられているという二点で、マンパッヅの中では性能の高いスティンガーですが、あくまでマンパッヅの域を出ず、旧式化しつつあります。
しかしそれでも、ロシア空軍を押さえつける役目は果たします。
ロシア軍は大量のヘリを空港に送り、空挺部隊で首都キーウを制圧しようとしました。
それを防いだのは、スティンガーを始めとしたマンパッヅたちです。低空進入で中長距離ミサイルの射線を切りながら進むヘリでも、マンパッヅの対応力には無力でした。
ロシアの開発した妨害装置はあまり有効ではなく、ロシア軍ヘリ部隊は莫大な損害を出し、撤退。ウクライナは首都防衛戦に打ち勝ち、伝説の反撃を始めることになるのです。
それらの一要素として、スティンガーは外せません。
現在スティンガーは再生産が難しく、消費されるだけとなっています。
しかし新しいスティンガー計画が進んでおり、マンパッヅとして非常に強力なものになる予定です。
通常のフレアが全くと言っていいほど効かないシーカーに、長い射程を持つことでしょう。対ドローン能力もバッチリです。
相手を目視で確認しなければならない点は変わらないでしょうが、相手にも探知されにくい点もまた引き継がれます。
次のスティンガーが開発される前に戦争が終わっていることが一番の望みではありますが、もし続いていたら、ウクライナに行って誰かを守って欲しいものです。
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