21.馬鹿

ざばーん


「ぶはっ、おごっ、げほっげほっ」


空色の騎士の蹴りをくらうと、地面と並行移動しながら通り沿いを流れる真っ赤な川の中に勢いよく入水した。

だいぶ吹っ飛んだな。

すごい無重力体験だった。

いてっ。傷口に染みるなー。

いやそんなことを考えている暇はない。

水が口の中にも入ってきて、がぶがぶと飲んでしまっている。

ジーパンに水が染み込んでとても動きずらい。

ここままでは溺れてしまう!


と思っていたら、突然目の前に電子画面のウィンドウが、ピコン、という音と共に表示された。


─スキル【記憶メモリー解放レザレクション】を獲得しました─


いやなにそれ。


字面からみてなんとなく今の状況を打破してくれるスキルではなさそうなので今は後回しにさせてもらっていいだろうか。

川から上がって、安全を確認できたら、スキルの詳細を見ようと思う。

沈まないようがむしゃらに手足をばたつかせながら、岸の方まで移動する。


「がはっ、ごほっ.......はぁ....はぁ....」

シャツに染み込んだ水を絞ると、赤い水がばしゃーっと染み出てくる。

血を吸って赤いシミが気になっていた白いシャツは、川の水を吸って完全に赤く染まってしまった。

空色の騎士がまた追ってくるかもしれない考えた俺は、川岸をしばらく進み、石橋の下に身を隠した。


「ぐっ...!!」

「いってぇ......!!!」


そこで腹部に刺さった礫を引き抜き、痛みをぐっと堪えながら、その辺にあるもので応急処置を施した。


「ここに居たのか」

「っ!?!?」


低く冷たい声が聞こえた方を見ると、空色の騎士がこちらに歩いて来ていた。

もう見つかってしまったのか....!!

ここでまた戦闘になっても、やり過ごせる自信がないぞ!!やばい!


「大分疲弊しているようだな」

「誰のせいだと思ってる?状況が読み込めなさすぎて頭がどうにかなりそうだ」


へへっ...っと吐き捨てるように言って立ち上がった俺を見て、騎士は何か考え事をするかのようなポーズで立ち止まった。


「うむ......」

「どうしたんだよ、さっきの続きをしないのか?」


やけくそになって強がりのようなことを言っているが、正直そんな余裕なんてない。何言ってんだ俺。今にも死にそうなやばい状況だろ!やつが何か考え込んでる隙にさっさと逃げろよ!


「........いや.....まさかな....」

「さっきからなんだよ.......なんか気になるじゃんか.....」



しばらくの間、妙な沈黙が流れる。



「.......まさか貴様.....番人じゃないのか?」

「...........はい??????」




はい?????




「番人じゃないのかと聞いている」

「いやそれは分かるけどさ!さっきの俺の話聞いてた?番人ってなんのことだよ!!」

「それは本気で言っているのか....??」

「そうだけど!?もしかして何か勘違いしてたりしたのかな!?!?」

「まったく.....それならそうと最初に言ってくれ」

「思いっきり言ってましたけどおおおおおお????何お前、全然俺の話聞いてないの?何なの?人をこんな目に合わせておいて勘違いでしたっていうのはさすがに許さねぇぞ!?」

「すまなかった。勘違いだったようだ。となるとやはりあの女が....」


騎士は何やら呪文のようなものを唱えると、全身の鎧が水のように溶けて無くなった。

中から現れた青髪メガネの青年は、申し訳なさそうにこちらを見つめていた。


「急に素直になってどうしたんだよ」

「貴様の振る舞いを見る限り、門番としてはあまりに弱すぎた。素人にしては戦闘センスがあるようだが、まだ荒削りだ。門番が変化しているとしても果たしてこのような身振りができるのだろうか.....」

「悪かったな小物で!!......あと貴様って!俺にはヨスガユカリっていう名前が一応着いていて」

「ん....?ガ、ユ...リス?分かったガユカリ、その名で呼ぼう。俺の名はセレストだ」

「全然分かってねーだろ!!ごめんな覚えづらくて!!」


だめだこの騎士。きっとものすごく馬鹿なんじゃないか。話が通じない。




◆◆◆




「ところでその、門番っていうのは何なんだ?」


セレストに魔法で傷の手当をしてもらいながら、さっきからずっと気になっていた事を聞く。


「門番とは今この状況を作り出している張本人のことだ。街では守護神として祀られているそうだが、俺はその門番のせいで街から出られなくなり非常に迷惑している。」

「もしかして、1日がループしている事と何か関係があるのか?」

「そうだ。その現象は門番が原因だと俺は考えている。時間がループする空間にいる限り、街の外には出られない。あまり複雑な魔法も使えなくなる。1度閉じ込められたら、脱出は困難だ。」

「え、そうなの」

「しかしまさか、エリートの俺と門番以外で精神魔法の干渉を受けない奴がいたとはな。それとも何かの偶然なのか?」

「精神魔法?」


精神魔法?今セレストはそんなことを言ったか?魔法っていうファンタジーな世界のことがよく分からない俺でも精神魔法っていえば、洗脳とか、人を操ったりする魔法の事なのかなっていう想像ぐらいはできるけど、それと時間がループすることは何か関係があるんだろうか?


「時間がループするという現象は、非常に高度な魔法様式を構築しなければ発生しない。そしてこの魔法の大部分には空間魔法、時間魔法、精神魔法が使われている。それぞれが伝説級の魔法だが、それらをさらに複合したこの魔法様式は非常に複雑だ。簡単な魔法様式ならば俺でも解除することは可能だが、ここまで高度で複雑なものはさすがに手に負えない。そうなればあとは術者を殺さなければこの魔法は解除されないという事になる。」


「あ、あぁ...なるほど...?」


あぁ、だからセレストは俺を躍起になって殺そうとしたのか。それ以外は何を言ってるのかよく分からないけれど。


「そしてその門番だが、先程あげた魔法を自由に扱えるということは、自信の形質を自由に変化させることが可能なのだ。やり方は色々あるが、空間、時間、精神魔法それぞれどの魔法を使っても似たようなことが出来る。魔法を解除しようとする輩が現れた場合、当然術者を狙うことになる。そうなれば術者も、自分の身を守るための防御策を張るだろう。色々な姿に変化する門番を特定するのは非常に困難だ。地道に1人づつ人間を調べていき、変身魔法の痕跡を辿って怪しい奴は1度殺してみるのが効率的だと俺は考えた。」


「思考は物騒だけど、一応筋は通っている.....のか?」

「安心しろ、門番でなければ殺しても次の日には生き返っている。」

「まじかよ...すげえなファンタジー世界」


しかしよく考えると、そのために何人も殺してるってことだよな。俺こんな危険なやつと一緒にいて大丈夫なのだろうか....


「今回ばかりは確信できたと思ったのだがな....お前は一体何者なんだ?」

「何者でもねーよ。ただの旅人だよ。最近この街にやってきて、俺も訳が分からなかったんだ。ちなみに、俺が精神魔法とやらに干渉されないっていうのはどういう事なんだ?」

「うむ.......お前は気付いていたのかと思ったのだが、どうやらこの川には精神魔法がかけられているようなんだ。」


そう言って隣で流れている真っ赤な川を指差す。


「あっ、もしかして、川の水が赤いのもそれが原因だったりして?」

「そうかもしれないな、この水は特殊な魔力が混在している。だから水が赤くなってもおかしくはない、ポーションなども似たような要領で出来るからな、しかしなぜ色が着くのかは分かっていない。よって、一概に川が赤くなるのは魔力が原因であるとも言えない。話がズレたが、この川の水は街の人々の生活用水としても利用されている。飲水として使われれば、水の中に含まれる特殊な魔力の成分は体の中に自然と入っていく。その魔力を一定以上体内に取り込んだ人々は何らかの魔法が発動する仕組みになっているようだ。貴様が先程川に呑まれた際も、何らかの魔法が発動していてもおかしくないな。今回のケースで考えると、それは毎晩0時に発動している。しかし水に魔法を含ませるとはよく考えたものだな、水は人々だけでなく自然そのものに行き渡る重要な資源だ。街全体を覆い尽くすほど広範囲の魔法を発動するためには、街の隅々まで行き渡る水の中に魔力を入れてしまえばいいと。」



「あ、そうか」


そういえば街の水を飲むのは気味が悪くて、水を飲む時は自分のスキルで水を出して飲んでたな。

それが結果的に、時間をループする結果に.....ん?


「でもそれじゃあ、まるで街の人達全員が魔法をかけられてるみたいじゃないか?今ループする時間に閉じ込められてるのは、俺たちなんだろ?」


「時間のループと精神魔法は別物だ。まず、正確には俺達は時間をループしていない。1


「.........え?」


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