22.回帰


「分かった。それでいこう」


セレストの口から発せられる呪文のような難解言語に四苦八苦しつつも、事態を解決に導くための協力関係を結ぶことが出来た。途中、今度はホタルを殺りに行くと言い出した時はかなり焦ったが、説得の末一旦保留という形で納得してもらうことが出来た。作戦会議の後、それぞれの目的地へと歩みを進める。

ひとまず俺はホタルと合流するべく宿へ向かっていたのだが、、、、何やら街の様子が騒がしい。

「ぎゃああああ助けてくれぇぇぇぇ!!」

「魔物だ!早く逃げろよお!」

何故か街中で魔物騒動が起こっていた。

ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく

すると前方から巨大な粘液の塊がずんずんとやってくる。

逃げ惑う人々に釣られているのか、こちらの大通り目掛けてゆっくりと向かっている。とても大きな粘液の塊だ。あれが俗に言うスライムと呼ばれるものなのだろうか。あんなものに食われたら穴という穴に粘液が入り込みやがて窒息死するだろう。

「ご主人様あぁぁぁぁ!いらっしゃいましたああぁぁ」

気のせいだろうか。目前にそびえる巨大スライムから、ご主人様と呼ぶホタルの声が聞こえてくる。まさかとは思うが、ホタル、お前なのか。いくら規格外な存在とはいえ、こんな巨大なスライムにまで変身できるとは。関心というか、最早なんでもアリだなと思うがそれ以前に.....

「何故なんだ!?!?」

その直後、スパァンと目前の粘液塊がふたつに割れ、地面にやる気を無くしたように広がっていく。そしてもう一度、スライムは格子状に細かく裁断され、原型を留めることが出来ずに光の粒子となっ消失した。

「ご主人様こんな所にいらしたんですね!突然僕のこと1人にするんですから、寂しかったんですよ??それでもちゃんと、仕事はこなしました!ほらこのとおり、街の魔物は全てお掃除したんです。褒めてくれてもいいんですよ?」

光の粒子を身にまとい颯爽と登場したのは生身のホタル。なんか、少し見ないうちに、メンヘラっぽくなった...?

「おお、すごいな。でもなんで街に魔物が?」

「それは、、ですね、なんというかー」

急に体をくねらせて歯切れ悪そうにこちらに上目遣いで言葉を漏らすホタル。カチャカチャと鎧のもつれる音が響く。

「守護神獣を召喚しようとしたら、間違えて魔界の扉を開いてしまい、凶暴な魔物たちが街に....」

「ミスったのかぁ......」「すいませんっ.....!!」「俺に謝っても仕方無いだろ。犠牲者はどのぐらい?」「幸い冒険者達の協力で死者は今のところ確認されていませんが、、」

そうか、と安堵をしたのも束の間。俺にはやらなければならないことがある。


「そういえばホタル。ストラップの効果についてなんだけど、」

「なんでしょうか??」


まず俺は、先刻までの出来事をホタルに説明し、セレストから聞いたこの街の状況についても話した。

「それじゃあ、ご主人様は何度も同じ日々を繰り返しておられたんですか....??」「あぁ」「そんな、僕が時空の歪みに気づくことができなかったなんて...」

眉を顰めこちらを見やったかと思うと、視線を斜めに逸らし俯くホタル。落ち込んでいるのか、一旦状況を整理するように虚空を見つめている。彼女が落ち着くまで待っている間に、ポケットの中でカピカピになっていたティッシュを取り出し、そこにセレスト製ガラスペンでメモをとった。インクが滲んでいて分かりにくいが、なんとか読めるだろうか。

「それでなんだが.....この【記憶解放】っていうスキル、さっき川で溺れそうになった時に覚えたスキルなんだけど、これって細工されまくりの赤い水を大量に飲んだことが原因だと思うんだけど、どう思う?」「そうですね、、確かにその水に精神魔法や時空魔法などが混在していたのであれば、発動された魔法をその身に受けた際に耐性を獲得することはありますが、、」

【記憶解放】というスキルは精神魔法によって改ざん、洗脳された記憶を元に戻すことができるものらしい。という事は、、、、

「ご主人様!?何をなさっているのですか!?」

突然水筒を取り出したかと思うと、中の液体をがぶ飲みし始める俺を見てホタルがあたふたと状況が読み込めずに混乱していた。

「まずっうえぇっ!!」「ご主人様!?血!?口から血が!?ちょ、おやめ下さい!?」

ホタルが血と勘違いしていたのは、川の水だった。セレストに作って貰った簡易的な水筒で川から大量に水を汲み取っておき、ホタルから聞いた内容を整理した俺はいよいよ実行へと移したのだった。

程なくして、電子画面のウィンドウが、ピコン、という音と共に表示された。


─パッシブ【精神魔法完全耐性】【空間魔法完全耐性】を獲得しました─


目眩がして尻もちをついた気がする。平衡感覚が薄くなり、混乱してやけをおこしたホタルが俺の股間に【最上級爆裂広範囲回復魔法】を放ちながら涙目でこちらに応答を願っているのが見える。もう少しちゃんと説明してからでも遅くは無かっただろうか。

「ごしゅじんさま...!? いやほんとに何してるんですか...?? いったい、なにを...ぐす」「すまんなほたる、今丁度、耐性を獲得したところだ。ごほっ。てかこの水、生活排水垂れ流しだろ....まっず...。驚かせて....わるかっ....た」

あれ、なんかだんだん頭の中が真っ白に。あれ、おれ、今何してるんだっけ?

白濁していく曖昧な自我と共に、俺の意識は遥か彼方へと明天した。

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