16.観光


「歴史的に貴重な資料は閲覧禁止、写本もされてない。情報を知るには、領主の許可が必要かぁ。そりゃあ何処から来たのかも知らんやつにホイホイ貴重な情報を教えるわけ無いか。結局図書館で分かったことと言えば、魔法属性に相性ぐらいで、火→水→土→風、光↔闇って、スマホゲーみたいだな。」

「小さな図書館でしたから、仕方ないですね。そもそも民間に本を公開している施設自体が珍しいものなので、この街にあっただけでも運がいいと思いますよ。」


図書館で調べ物をしたのだが、置いてある本の多くは物語小説やよくわからない小難しい論文で、この世界の歴史や伝承に関わる文献は置いてなかった。

そういった資料は奥の保管庫に保管されているらしく、一般人が閲覧することは出来ないらしい。

仕方が無いので、猿でも分かる魔法入門という本をパラッとよんで図書館を出た。

その後、封印の祠を見学した俺達は、目的地の時計塔にやってきた。


「これが時計塔か....」

「間近で見ると、迫力がありますね」

「あぁ、思っていたよりでかい」


100mはありそうな、巨大な塔を前にして、背筋がゾクッとした。無駄に高い天井とか、建物とかを見上げると、たまにそういうふうに感じることはないだろうか。

大きな時計の針が、ゆっくりと動いていて、中心には宝石のようなものが埋め込まれている。

こちらの世界では魔力が全ての動力源となっているので、時計板のあちこちに、魔力が込められた宝石が埋められているのが分かる。


時計塔を見た後、隣に併設された大聖堂にもなんとなく立ち寄ってみた。

シスターの話によると、時計塔に宿った精霊が、この街を守ってくれているという言い伝えがあるらしく、街の人々からは守護神的な扱いを受けているのだとか。

そうして大聖堂を出た後は、お腹が空いたので適当な定食屋へ入った。


「うぉぉ、凄いな、なんだあの鎧。カッコイイな。」

「モグモグ..?鎧ですか?」

「あれだあれ、あの厳ついおっさんが着てる鎧だよ」



昼過ぎのこの時間帯は多くの客が残っていて、その中にはベテランの冒険者といった風貌の者もいる。

重厚な鎧を身につけて、カチャカチャと音を立てながら行儀よく食事をとっている。

その鎧が気になって、こっそり【鑑定】を使ってみた。


ブォン



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[ 名前 ] Cランク冒険者

[ 種族 ] 人間族

[ レア ] ☆☆

[ レベル ] 11

[ 体力 ] 120

[ 魔力 ] 100

[ 攻撃 ] 14

[ 防御 ] 10

[ 精神 ] 5

[ 俊敏 ] 2


[ スキル ] 斧操術Ⅲ 近接戦闘Ⅱ



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「あれ?」

「どうしたのですか?」

「あ...あぁ、実は今、こっそり鑑定を使ったんだが、いつもと違う画面が出てきたんだ。」

「いつもと違う画面....もしかしてステータスじゃないですか?ご主人様は鑑定スキルの熟練度が高いので、装備やアイテムだけでなく、人やモンスターのステータスも見ることができるのではないでしょうか?」


どうやら俺は、オッサンの鎧を鑑定しようとして、間違えてオッサン本体を鑑定してしまったようだ。


「なるほど!じゃあこれが厳ついオッサンのステータスなのか。.......うん、強いのかよく分からんな。それに、名前の欄にCランク冒険者って出てるけど、これ名前じゃないだろ。」

「名前は個人情報なので、本人を知らないと見れないのでしょう。」

「名前は見れなくて他のステータスは見れちゃうのか。もろ個人情報だけど大丈夫なのか」

「鑑定スキル自体、珍しいものですから。あまり気にしなくても大丈夫だと思いますよ。それに鑑定スキルで見れる情報を偽装するようなスキルもありますし。」

「そんなスキルもあるのかよ。さすが異世界。なんでもアリだな。」



─ドオン─



そんな話をしていると、突然目の前の壁が吹き飛んで、外から何かが突っ込んで来た。

パリンと皿の割れる音が響く。


「何が起こったんだ!?」

「ご主人様は僕が守りますっ!」


ホタルはそう言うとどこかへ消えた。

客と店員達は驚きながらも冷静に、外へ避難していく。

このまま建物が倒壊すれば、押しつぶされてしまう危険があるからだろう。それぐらい、派手に壁が突き破られたからな。


「ちっ、メガネのせいで建物をぶっ壊しちまったじゃねぇか。」


壁にできた穴の方から、そんな声が聞こえてきた。


「明日になったら全て元通りだ....まったく....」


すると今度は、先程何かがが突っ込んでできた瓦礫の山から、青い鎧の騎士?がよろよろと立ち上がる。壁を破って中に入って来たのはコイツだったのか。

えなに、もしかしてこれ、人災?


「まだ起き上がれんのかよ、つまんねーな」


声の主の金髪の青年が、穴から店の中に入ってきた。

金色の目が、暗くなった店内で怪しげに光っている。


「ハァ....ハァ......生憎、お前を倒さないと行けないからな。」


騎士?はそう言うと大きな槍のようなものを構える。

なんだかやばい戦いの最中だったようだ。

異世界怖ぇ。唐突すぎるだろ。

そんな時ふと、2人のステータスが見てみたい、という欲求が頭をよぎる。

そんな状況では無いと思いつつも、好奇心に負けて、俺は鑑定スキルを使った。


まずは青い鎧の騎士の方から覗いてみると、さながらガチャでレアキャラクターを当てた時のような軽快なファンファーレが脳内再生された。


......テーテレレテーテーテーテー♪...ブォン


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[ 名前 ] 空色の騎士

[ 種族 ] 人間族

[ レア ] ☆☆☆☆

[ レベル ] 21

[ 体力 ] 37/280

[ 魔力 ] 340

[ 攻撃 ] 15

[ 防御 ] 28

[ 精神 ] 30

[ 俊敏 ] 3


[ スキル ] 土魔法Ⅳ 短剣術Ⅱ 策士Ⅱ 成り上がりⅡ

[特殊装備] 土の守護石



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....ん?なんか今、某ガチャでレアなキャラクターを当てた時に流れるようなBGMが聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。


気を取り直して、画面を見る。

これはあの厳ついオッサンよりも大分強いな。

どの数値もオッサンを上回っている。それに加えて特殊装備とやらを付けているようだ。確かにこれはアタリなのかもしれない。

空色の騎士、いったい何者なのだろうか。


次に金色の青年を鑑定する。


......テーテレレテーテーテーテー♪...ブォン


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[ 名前 ] 金髪の青年

[ 種族 ] 人間族

[ レア ] ☆☆☆☆

[ レベル ] 24

[ 体力 ] 173/420

[ 魔力 ] 100

[ 攻撃 ] 200(+123)

[ 防御 ] 20

[ 精神 ] 10

[ 俊敏 ] 3


[リーダースキル] 熱血の拳

パーティーメンバー全員の攻撃力アップ(小)


[ スキル ] 怪力の加護 武術Ⅲ



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金髪の方の青年は攻撃に特化しているようで、攻撃力がとても高い。加護というものが影響しているのだろうか。

2人とも体力が減っているようだが、残りの数値を見ると金髪の青年の方が余力があるように思える。

騎士の方は鎧もボロボロだし、息を切らしている。


こんなヤバそうな2人がまた争い始めたらたらまずいんじゃないか?

俺も早くこの場所を離れようと思った直後。


「食事の時間を邪魔されたとあれば黙ってはおれんなあ.....

それにこの惨状、どうしてくれるんだ.....

タイマンでやり合うのは勝手だが、少しばかり視野が狭まいんじゃあねぇのか?」


さっきの衝撃で食べ物がひっくり返ったのか、ソースまみれになった厳つい顔のオッサンが2人の仲裁に入った!

ステータスだけで判断すると明らかにオッサンの方が弱いので、なんとか穏便に済ませて欲しいのだが、オッサンは殺る気満々の表情で斧を担いでいる。ガンバレ強面のオッサン!!


「あ....あぁ...それはすまなかった。謝罪は後でしっかりさせてもらう....だが後にしてくれ ジャキッ」

「余所見してていいのかよォ!オラァ!」

「人の話は最後まで聞かんかぁ!」


ああダメだ。

乱闘になってしまう。

今は昼間なので、【蛍の光】は使えない。

そして逃げ遅れた。

このまま戦いが始まったら、建物が倒壊して俺は潰される終わりが見えた。




「いい加減に、してください!!」


─ゴンッ─ゴンッ─ガキンッ─


突然3人の間に現れたホタルが騎士と青年の頭にげんこつをいれ、オッサンの斧を刀で受け止めた。


「ご主人様に何かあったらどうするんですかっ!」


鎧は砕け、気絶した青髪の青年と、同じく気絶した金髪の青年。

そしてめっちゃビビってるソースだらけの強面のオッサン。


異世界怖ぇ。

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