15.青年
多くの人で賑わう街の中心部は、およそ200年前に起きた邪神騒動にまつわる封印の祠や、当時の資料を保管するために作られた図書館、街の領主の館などの歴史的な建造物が点在している。そして環状に広がる石畳の道が収束した中心に、ブラッディタウンのシンボルである巨大な時計塔がそびえている。
時計塔の周囲は、緑の木々が生い茂った大きな庭園で囲まれている。この場所は街の人々に憩いの場所としても知られていて、のんびりと休憩をする人々の間を、今日も穏やかな風が吹き抜けていた。
そんな庭園で小川を眺めながら、深々とため息をつく男がいた。
「はぁ......」
のんびりとした昼下がりの庭園で、ひとり負のオーラを全身から放っている青髪の青年だ。
「あぁ......」
まったくなんなんだ。
今日は何日目だ?
今日は本当に今日なのか?
もうこの不気味な川にも慣れてしまった。
赤い血のような川が、美味しそうな赤ワインに見えてくる。
とうとう頭がイカれてしまったのか。
この街は一体どうなっている。
簡単な調査と聞いたのに、真逆ではないか。
こんなことになるなら、もっと事前に調べておけばよかった。
早くこの状況を打破して、本部へ報告に戻らなければならないのに。
「なーに深刻な顔でため息ついてんだよ。
ため息なんてついてたら幸せが逃げちまうぜ?
どうしたんだ?悩み事があるならオレが聞くぜ?
ん?見ない顔だな。.....お前よそ者か?」
後ろを振り返ると、金髪金眼の青年がこちらを訝しげに睨んでいた。
「勝手に話かけておいてその顔はなんだ.....」
「仕方ねぇだろ?お前みたいなメガネかけたやつこの街で見た事ねぇんだから。変なメガネだな。」
「片眼鏡と言うものだ、最近赤の都で流行している」
「片眼鏡って言うのか...なんで片方しかねぇんだ?見にくくねぇのか?」
「正直見にくいが、安物だから仕方ない。これが使えなくなったら、値の張るものに買い替えてもいいかもな。」
「へぇそうかよ。そんなすぐに使えなくなるものじゃねえとおもうがなぁ。んでメガネ、なんでため息なんかついてたんだ?」
「俺をメガネと呼ぶな。俺の名前はセレストだ。」
「セレストって言うのか!オレはトレッドだ!よろしくな、メガネ。」
「だからメガネと呼ぶなと言っただろう。」
「んでメガネは一体何に悩んでたんだよ」
「まったく....」
「話せ話せ!話して楽になっちまえ!」
「まったくこのやり取りも何度目になることやら.....」
「あ...?何度目って....今会ったのが初めてだろ?」
「お前はそう思うだろうな、もういい、気にするな。それよりもだ」
「それよりも?」
「お前は本当に番人じゃないんだな?トレッド。」
「
「....やはり聞いてもダメだな。」
「おいちょっと待てよ、メガネは何の話をしてるんだ?今はオレのことなんかどうでも良くて、それよりもオレはお前の悩みを───」
「─我が土の守護石よ、大地の恵より彼の者を串刺しにせよ、サファイアジャベリン─」
「....あ?」
─グサリ─
次の瞬間、青く透き通った鉱石の槍が、トレッドの胸を突き刺した。
トレッドはそのまま後ろに力なく倒れ、綺麗な青色をしていた槍は、血を吸収して真っ赤に染まる。
全く、どうして俺がこんなことをしなくちゃ行けないんだ。
見ているこっちも気分が悪い。
でも、仕方がない。
もうこれしか心当たりが無いんだ。
すまんな。
動かなくなったトレッドを背に、セレストは街の方へ歩いていく。
「っっっっっっっっっってぇなオイっ!!」
致命傷を負って動かなくなっていたはずのトレッドが起き上がり、胸に刺さっていた槍を引き抜き、真っ二つにへし折った。穴の空いた服の隙間から分厚い筋肉が見える。
「しぶといな」
「なにすんだてめえええええええええええ!!」
激怒したトレッドが拳を振り上げ襲いかかってくる。手練であるのは知っていたが、早いな。
それに相手は加護持ちだ。
トレッドの持つ加護は、拳1つに人を殺せるほどの力を与える。故に1発も当たってはいかない。
後退しトレッドと一定の距離を保ちつつ、先程の槍を大量に生成し、トレッドにぶつける。
「槍はまだ沢山あるぞ─我が土の守護石よ、大地の恵より彼の者を串刺しにせよ、サファイアジャベリン─」
「邪魔くせえええ!」
飛んでくる槍を避けるか殴るかして、次々と粉砕していくトレッド。そしてこちらにジリジリと距離を詰めてくる。
「せっかく人が親切で話しかけてやったのに!いきなり心臓を突き刺そうとしてくるとかお前まじで頭イカれてんのかこのやろおおおおおおお!寸前で急所を避けなかったら死んでたじゃねえかああああ!」
「サファイアで出来た槍をいとも簡単に砕くとは、流石は加護持ちだな。」
「話聞いてましたかこのやろおおおおおおお!それになんでオレの加護のことを知ってやがるオラァ!」
「─我が土の守護石よ、大地の恵より彼の者を串刺しにせよ、サファイアジャベリン─」
「無視すんなやあああああ!!」
槍の弾幕を的確に処理していくトレッド。
最初の不意打ちから、槍はトレッドの体に1発も当たっていない。この方法では埒が明かないな。
魔力が尽きる前に俺も動くか。
「─我が土の守護石よ、我に大地の恵を授けたまえ、サファイアランス、サファイアシールド、サファイアアーマー─」
「なんだぁ!?」
鉱物創世魔法。その応用で、自信をサファイアの鎧で身を包み、同時にサファイアの武器と盾も生成する。
全身を青色に輝かせて、自身もトレッドと直接対峙する。飛び交う槍の隙間を抜けながら接近し、瞬時にトレッドの首を狙って上段突きを放つ。
「おっと危ねぇ。接近戦で俺に勝てると思うなよ?」
寸前で上段突きを左にかわしたトレッドは、瞬時に懐に潜り込み、ランスの間合いから、拳の届く間合いまで距離を詰める。そして下からの強烈な右ストレートを繰り出した。
それを咄嗟に盾でガードしたが、トレッドの攻撃をもろに受けた盾はヒビだらけになってしまった。あともう一度攻撃を防げるかどうかといったところか。
「オイオイ一撃でカッコイイ盾がボロボロじゃねぇか?それ盾の意味あんのか?オラオラオラ!」
続けて繰り出したトレッドの乱打。
それを華麗なステップで全て躱していく。
しかし反撃に移る隙が無いな。
「にしてもその鎧イカすな!壊しちまうのが持ったえないぜ!」
「この精巧な装飾が施された鎧の良さが分かるか。お前とは気が合いそうだな。しかしこの鎧は壊させん!」
「おいあそこで暴れてる奴らがいるぞ!」
「巻き込まれたらタダじゃ済まない!この場から離れろ!」
「きゃあ!槍が飛んできたわ!」
「とりあえず冒険者ギルドに報告だ!」
「くそ当たんねぇ!メガネおまえオレの攻撃を全部見切ってやがるな?」
「もう何度も見ているからな、お前の攻撃はもう当たらん。」
「それまじで盾の意味あんのかオラァ!」
「意味はある。─守護石よ、サファイアナイフ─」
「何っ!?」
トレッドが、自身の攻撃が見切られていることに気付き、変則的な動きに切り替えたようだが、その動きも見切っている。戦法を切り替えた一瞬の隙をついて、手に持っていた盾を魔法でナイフの形に変形させ、首すじを狙う。
一度生成した物ならば、詠唱を省略して新しく魔法をかけ直す事が可能なのだ。
手数で言えば圧倒的にこちらが有利。
生身の身体で守護石の使い手に挑むなど、彼の驚異的な身体能力と加護があるからこそ出来る暴挙だが、このまま手数で押し切れば、いづれ決着がつくだろう。
「ぐっ......詠唱省略とは....やるじゃねえかメガネ、お前何者だよ。」
「お前こそ何者だ。殴るだけでこれだけ強いとか冗談じゃない」
攻撃を辞め後方に避けたトレッドだったが、首筋を拭い、手に着いた血を確認する。
そしてトレッドがランスの間合いに入ったので、俺は三段突きを繰り出した。
それを両手でガードしたトレッド。あまりの硬さからか、腕から火花が飛び散る。
「メガネだから侮ってたけどよぉ、そろそろ本気を出してやるよォ....」
「まだ本気を出していなかったのか。早く出せ。」
本気...?昨日とは少し違う挙動だな。もしかしたら何か進展したのだろうか 。
「あぁ、見せてやるよ、俺のとっておき!取り敢えずお前をぶっ飛ばす!」
「ん?消えた?」
「オラァ!」
「後ろか」
トレッドの動きがさらに早くなった。
背後からの拳を咄嗟に避けたが、バランスを崩してしまう。
「まだだぁっ!」
「何っ!?」
ここに来てトレッドが繰り出したのはただの蹴り。
しかし今までずっと上半身を注目していたために防御が追いつかない。
これはまずい。
─ドオン─
「ちっ、メガネのせいで建物をぶっ壊しちまったじゃねぇか。」
体中にバチバチと火花を散らして、金髪の青年はしてやったりといった笑顔を浮かべた。
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