14.封印
───さま────ご主人様着きましたよ、起きて下さい
ホタルに呼ばれて、ぼんやりとした意識からゆっくりと目を覚ました。
なんだかとても、懐かしい夢を見ていたような気がする。
「んん....?、あぁホタル、着いたか。」
「はい、ぐっすりでしたね」
「あぁおはよう」
どうやら船に揺られているうちに眠ってしまったようだ。
頭上にはホタルの綺麗に整った顔面が至近距離で俺を覗いている。
多分今、膝枕をされているのだろうな、と思ったが、いちいちツッコむのも面倒になってきたので、スルーして起き上がる。
一応礼だけは言っておくか 。
「お勤めご苦労さん」
「んふぁっ!?」
....?
今美少女の口から変な音が出た...?
俺の聞き間違いだったか?
「このくらいお安い御用でございます」
「.....え待って今のまじで何!?」
何事も無かったように言い直すホタルに、反射的にデリカシーが無いのを承知で聞いてしまった。
ここで全てを察して何も聞かなかった事にするのが紳士な対応だったのだが、俺からしたら全く意味が分からない挙動だし、色々と気になりすぎたが、これ以上追求するのは良くないだろうしまあいいか。
「いえ...これはその....なんでもありません」
「なんでもないのか」
「なんでもないです」
ホタルがこれ以上は恥ずかしいから聞かないで..!というような目でこちらを見てきた。ちょっと悪い事をしたかな。
「すまんな、もういいよ。それでおっちゃん、いくらだったっけ?」
「おう、銅貨8枚なんだが、兄ちゃんの寝顔に免じて、銅貨7枚でいいぜ!」
「まじか!恩に着るぜ」
そう言って船頭さんに銅貨7枚を渡す。
「まいどあり!」
「そうだ、おまけしてくれたお礼にこれをやるよ、おっちゃん船漕ぐんだから汗かくだろ?【アイス】」
「なんだこれ?氷か?氷属性魔法を使えるなんて、兄ちゃんすげーな。」
「氷属性魔法なのかはよく分からんが、これは棒付きアイスだ。異世界にはないのか?」
「見たことねえな。こんなの何に使うんだ?ケツに挟むのか?」
「ちげーよ!なんだよその使用法!食べるんだよ。そこの木の棒を持って齧り付くんだ。冷たくて甘くて美味しいぞ」
「氷をそのまま食べるのか...たしか白の国でそんな食べ物があるって聞いたことがあるが、食べた事は無かったな。それじゃあいただくぜ!
.....ぱく
なんだこれ!?めちゃくちゃうめえ!
カラダが一気にすずしくなるなあ!」
「だろ?美味しいだろ?」
「あぁ!おかげで疲れが吹っ飛んだぜ!」
「そりゃあよかった、仕事頑張ってな」
「なぁこれ、銅貨2枚払うからもう1つくれないか?もっと食べてえ」
「あぁおっちゃん、アイスは食べ過ぎると頭が痛くなるからよした方がいい。」
「そうなのか....!?それじゃあ仕方ねーな!また船を利用する時は言ってくれや!安くしとくぜ」
「おう、その時はまたご馳走する。じゃあな」
「まいどありー!」
◆◆◆
船着き場を離れて、プルシャン公園へやってきた。
中央にエビの形をした噴水があり、謎の水晶から、透明な赤くない水が生成されちょろちょろと流れている。
ホタルに聞いたら、謎の水晶の正体は魔道具だった。宿の洗面所にもついてたやつだ。
「なぜエビ......」
「噴水のオブジェですか。奇妙な形ですね。」
「これ、公園の記念碑みたいだな、エビの像の由来なんかも書いてある。ええと?.....『この地に降り立った邪神ブラデリアは、好物のエビを食べようとして罠にハマり、輝石の賢者によって封印された。』」
「なるほど、このオブジェは邪神を封印したことを称えて作られたようですね。」
「いや邪神アホだな!好物につられて罠にかかるってヤマタノオロチかよ!そしてなぜ邪神を封印した張本人の輝石の賢者じゃなくてエビの石像を作ったんだ!」
ツッコミ所の多い噴水だなまったく。
まあそれはともかく、街の歴史に関していい情報を手に入れることが出来た。
この街に昔、ブラデリアという邪神がやってきて、暴れ散らかしたのだろう。そこに現れた輝石の賢者という奴が、ブラデリアを好物のエビでおびき出して、みごと封印した。そんなとこだろう。
異世界ファンタジーならではのめちゃくちゃな展開で、真実なのかただの作り話なのかは定かではなかったが、なんとなくこの世界の雰囲気は掴めた気がする。
「ご主人様、プルシャン公園を抜けたら近くの図書館へ行きましょう!そこにならご主人様の知りたい情報もあるかもしれません。」
「そうだな、まあ大抵の事はホタル知恵袋でなんとかなるんだけどな」
「...?何か言いました?」
「いやなんでも。ホタルが可愛いなって。」
「んふぁっ!?」
いやだからそれ何っ!?
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