41.稽古

結果はというと・・・。


惨敗。


オリバーの振り下ろす剣を交わしたのも最初の数回。

その後はボッコボコ。あっという間に決着が付いた。もう瞬殺と言っていい。


俺が地べたにぶっ倒れている様子を、ランスとコイルは目を丸め、顎が地面に付きそうなほど口をアングリと開けて見ていた。


「えっと・・・、ごめんなさい・・・。大丈夫ですか?」


いつまでも立ち上がらない俺を心配したのか、オリバーはオロオロしながら俺に声を掛けた。

でも今の俺は完全無気力。こんな小さなガキにズタボロにやられて精神的にも死んでいる。


「い、いやぁ! オリバー! いつのまにか強くなったじゃないかぁ! 立ち回りがとても速くなった! 素晴らしい! うん! お前は人一倍練習を頑張っているからなあ! 俺が知らないうちにこんなに強くなっていたとは! ハハハ、ランス殿、ちょっと相手を間違ったかもしれません」


コイルが必死にフォローする。

止めて。傷口に塩を塗ってますよ、班長さん・・・。

いいんですよ。弱すぎるって言ってくれて。

それより、オリバーはその誉め言葉を鵜吞みにしますよ。まだガキなんだから・・・。


地面にうつ伏せに倒れたままの俺を、ランスは首根っこを掴み持ち上げると、俵でも担ぐように俺を肩に担いだ。


「コイル殿、手間を取らせて申し訳なかった・・・。オリバー、ご苦労だった」


そう言いうと、くるっと向きを変えて歩き出した。


「はあ~・・・。ここまで酷いとは・・・」


歩きながら呟く。


「・・・だから言ったじゃねーか、俺は未経験者だって。初日から殺す気かよ・・・」


俺はダラリと担がれたまま無気力で言い返した。


「未経験だとしても酷過ぎる・・・。本当にお前は男か? 情けない・・・」


「強い=男という考えは間違っていると思いますぅ」


「騎士に至っては強く無ければ意味が無い!」


「・・・だから、俺は騎士じゃなかったんだってば・・・。一般市民、その他大勢の一人だったての・・・」


「過去はもう知らん! これからバシバシしごくぞ! 強く無ければ姫様は守れん! それどころか己も守れん! 俺のお守が増えるなんて以ての外だ!」


ランスはお怒りモードでズンズン歩いて行く。

俺はだらーんと担がれたまま、明日以降の日々に絶望し始めていた。





座右の銘は有言実行なのか。

翌日からランスは俺をしっかりしごき始めた。


俺は見習い騎士たちに交じり、稽古をすることになった。


とは言っても、基礎体力が無い俺は、腹筋、腕立て、スクワットなど基本の筋力トレーニングからすぐに脱落。

他の見習い達らとは別メニューが組まれた。

それだけでも死にそうなのに、その合間に、ランスの個人指導が入る。


奴隷の時以上に体がボロボロだ。


ただ救いなのが、良質な食事と清潔な環境。

過酷な運動をしても、しっかりとした食事が取れて、綺麗な寝床でしっかりと睡眠がとれることで、体力は回復する。

それは奴隷の時と比ではない。


あの時の悲惨な経験があることで、この現状は何とか耐えられていた。


しかし、ある時、とんでもないことに気が付いた。


「あれ・・・? 暫く、ライラちゃんと会ってない・・・?」


一日を終え、ベッドに倒れ込んだ時、ふと思い出したのだ。


俺はガバッと起き上がった。


「ちょっと待てよ! あれから何日経ってんだ?」


俺は思わず大きく独り言ちた。

もうかれこれ二週間は過ぎてないか?


今の生活に気力と体力を奪われ、考えることもできなくなっていた。

すっかり脳筋になっていたのか!?


「北のババアを探さなきゃいけないのに!」 


俺はこんなところで呑気に筋トレしている場合じゃないんだ!

俺の目的は騎士になる事じゃないだろ!

元の世界に帰ることだ!

そして、ライラを元の姿に戻すことだ!


「ライラちゃんはどうしてるんだろう?」


一人で北の魔女を探しているのだろうか?

一緒に探そうって言っていたのに。彼女にだけ、そんな負担をかけさせられない。

また無理して林にでも入られたら大変だ。


「明日、何とかして会えないかな?」


でも休憩中はきっと死んでて動けないしな~。

こっそり稽古を抜け出してライラに会いに行く?

と言っても、ライラの部屋も知らないし・・・。


ここはランスに素直に聞くか。

会いに行くことは変じゃないもんな。なんせライラ姫付きの騎士なんだし。


ああ、奴隷じゃなくなったら、もっと自由な時間ができると思っていたのに! 


俺は頭を掻きむしながらベッドの上でのた打ち回った。


今後の自分の行動に付いて、しっかり計画を立てなければいけない!

元の世界に帰るためには自由にできる時間がいる!

それをどう確保するか。


悶々と考えていたが、体の疲労の方が上をいっていた。

ハッと目が覚めたら、もう朝だった。

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失踪した親父が異世界に召喚されて王様やってた。一人じゃ寂しいからって無理やり連れて来られたのだが、扱いが酷過ぎる! 夢呼 @hiroko-dream2

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