26.衝撃的な事実
「ああ! それにしてもやる事がいっぱい! お父ちゃん、過労死しちゃう!」
親父は両手で顔を覆い、シクシク泣き出した。
そのワザとらしい仕草に、俺はジトっと湿った視線を送った。
「も~、王様としての仕事だけでもいっぱいいっぱいなのに、城内の労働環境がこんなに杜撰だなんて~。目が行き届かないよ~」
「言い訳!」
「冷たい~、健ちゃん~!」
「それより、なんか食いもん無いの? 腹減ってんだけど。さっき言った通り、栄養失調気味なんだよね」
「おお! そうだ!」
親父は顔を上げて、思い出したようにサイドテーブルに手を伸ばした。
そこには小さな包みが置いてあった。親父はそれを取り上げると俺に渡した。
「ライラ姫からだそうだ」
「え!?」
親父は急に優しい顔になった。
「聞いたよ、健ちゃん。ライラ姫を助けたそうだね。よくやったね」
親父はポンポンと俺の頭を撫でた。
「もちろん、あんな危ないところに行ったことは感心できないし、親としては、自分の息子の方が大切だ。だが、人としては勇気ある行動だ。褒めて遣わすぞ! ははは!」
親父はグリグリ俺の頭を撫でまわす。
「うっとうしいから、やめろっ」
俺は親父の手を振り払った。
「それより、ライラ婆ちゃんは無事だったのか? 怪我してなかった?」
「ライラ婆ちゃん・・・」
「年寄りのくせに無茶すんだよ、あの婆ちゃん」
そう言いながらも俺は包みを開けた。
中にはクッキーが入っていた。ああ、いつもの焼き菓子だ!
俺はすぐにモグモグ食べ出した。
「やさしい婆ちゃんなんだよ。いっつも俺にお菓子持ってきてくれてさ。正直、このお菓子の糖分で体がもっていたようなもんだ」
モリモリ食べている横で、親父が神妙な顔をしている。
「・・・それはそれは、ずいぶん仲良しさんなんだねぇ。ちなみに、なんで仲良くなったの?」
「うぐっ・・・」
俺はクッキーを喉に詰まらせた。
「だって、健ちゃん、奴隷でしょ? 何で彼女とそんなに親しいの?」
俺は胸をトントンと叩いて、そっぽを向いた。
やばい! 魔女探しの協力者とバレたらまずいぞ。
「ぐ、偶然?」
「ふーーーーん、偶然?」
親父は目を細めて俺を見ている。
う・・・、感じ悪っ・・・。
だが、すぐに目を伏せると、はぁと溜息を付いた。
「まあ、いい・・。ライラ姫も、お前が眠っている間、毎日お見舞いに通ってくれたそうだ。今度会ったらきちんとお礼を言いなさい」
「お、おう。分かった・・・」
俺は目を逸らしたまま頷くと、残りのクッキーを口に放り込んだ。
「それと、ライラ姫は『婆ちゃん』じゃない、『姫』だ『姫』。お姫様だぞ」
「?」
俺はモグモグしながら首を傾げた。
そう言えば、助けてくれた大男が姫様とか叫んでたな。
それに、婆ちゃん自身も身分はあるって言ってたもんな。
「ふーん、お姫様ね。やっぱり偉かったんだな、あの婆ちゃん。まあ、口調からもちょっと偉そうな雰囲気は出てたけどさ」
俺は両手に付いたクッキーの粉をパンパンっと払った。
「だから・・・、婆ちゃんじゃないって・・・。お姫様だってば」
親父は情けなさそうに俺を見る。
「なんだよ? 姫だからって年寄りは年寄りじゃん。婆ちゃんは婆ちゃん」
「健ちゃん~」
「俺たちの間ではもう『ライラ婆ちゃん』で通ってるんだ。今更『ライラ姫』と呼べって言われてもなぁ」
「だから健ちゃん、ライラ姫は婆ちゃんじゃないって! 年寄りじゃない!」
「あ?」
「あの子はまだ14歳だ」
★
「はい?」
俺の中で一瞬時が止まった。
何言ってんの? このおじさん・・・。
「だから、ライラ姫はまだ14歳の女の子なんだよ!」
「・・・」
「そんな子に婆ちゃんだなんて~。失礼極まりない」
「・・・」
「女心が分からないとモテないぞ、健ちゃん」
親父はヤレヤレと首を振る。
俺はそんな親父をぼーっと見つめた
「・・・だ、だって・・・。だって、どう見たってババアじゃん・・・、あの顔・・・」
ライラ婆ちゃんの顔を思い起こす。
深く刻まれた皺。どう見ても100歳近いお婆さんの顔だ。
「魔法にかけられたようだ。可哀相になぁ・・・」
「魔法・・・」
「詳しくは知らないが・・・。次期王候補にニール王子って子がいてな。その妻として隣国から輿入れしたらしいが、生憎、あの姿になってしまったために婚約破棄に追い込まれたらしい」
「・・・」
「とは言っても、あのような姿では自国に帰るにも帰れんらしいよ」
「そんな・・・」
「帰っても辛いだろうしねぇ・・・」
そんな・・・。それは可哀相だ・・・。
ってかさ、それよりもだ! そんなことある!?
ライラ婆ちゃんが、女の子?
しかも14歳って!
俺より確実に80歳は年上と思っていたのに、まさかの年下!
80どころか3つしか変わらないじゃん!
それなのに俺は「婆ちゃん婆ちゃん」と連呼してたんだ。
いくら知らなかったとはいえ・・・。
俺は暫く言葉が出なかった。
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