23.魔法の林
「なあ? こういう事になると思ってたんだよ、一人で行くとさ~。だから言ったんだ、行くなって」
「・・・だって・・・」
傍に来て説教を垂れる俺に、婆ちゃんはバツが悪そうに俯いた。
「まあ、とにかく無事で良かったよ。今、解いてやるから、ちょっと待っててな」
蔦には足と手に軽く纏わりついているように見えたが、よく見るとそれだけではない。
長い棘が多く、その棘がグサリと婆ちゃんの袖口と靴下に食い込んでいた。
危ねーな、この蔦。
気を付けないと刺さっちゃう。刺さったら痛そうだぞ、これ。
俺は靴下から棘を抜くと、慎重に絡まった蔦から婆ちゃんの足を引き抜いた。
手首も同じように、婆ちゃんも俺も棘に刺さらないように、慎重に蔦から引き抜く。
蔦に解放されたと当時に、婆ちゃんはバランスを崩し、俺に倒れ込んできた。
俺は軽々と婆ちゃんを受け止め、抱き抱えると、地面にそっと下ろした。
「・・・礼を言う・・・」
「ったく・・・」
まだ説教が足りない気がするが、それは戻ってからだ。
とにかく、さっさとこの林を出よう。
「さあ、戻ろうぜ。婆ちゃん、俺、おぶってやるよ。道らしい道無いから危ないし」
俺は婆ちゃんの前に背中を向けて屈んだ。
「いや! 結構! 歩ける! ここまでも歩いてきたのだから!」
いつも小さい声で話す婆ちゃんが、声を張り上げた。
え・・・。
そんな大声で拒否らなくても・・・。結構傷つくんですけど。
「そうか・・・、俺、臭いもんね・・・。汚いし・・・」
俺はノソっと立ち上がった。
「い、いや。そ、その、そういう意味では・・・」
「ううん、いいんだ。ごめんな、婆ちゃん、気が利かなくって」
俺は首を振ると、そのまま地面を見渡した。
そして手ごろな長さの木を見つけると、それを拾って、ライラ婆ちゃんに渡した。
「せめて、杖を使ってくれ。足元が心配だから」
「・・・あの・・・、本当にお前が、その、臭いとか、そういう意味では・・・」
「いいって、いいって、婆ちゃん。さあ、帰ろうぜ」
俺は踵を返すと、婆ちゃんを先導するように歩き出した。
振り向くと、婆ちゃんは俯きながら、俺の後を付いてくる。
与えた木をちゃんと杖代わりにして歩いている。
それに満足したその時、カサッと奥で何かが動く音がした。
「え?」
俺は婆さんの後ろのさらに奥を見た。
「う、そ・・・」
俺は目を見張った。
さっき、婆さんから解いた蔦が、うねうねと動き出している。
驚き過ぎて、言葉が出ない。
その間も、蔦は動いている。
徐々に俺たちに近づいている気がするんだが・・・。気のせいだよね?
しかし、蔦はまるで蛇が鎌首を持ち上げている様に、俺たちの前にグイっと伸び上がった。
気のせいじゃねーっ!!
「婆ちゃん!!」
俺はライラ婆さんを脇に抱えて、一歩後ろに飛び退いた。
次の瞬間、蔦は俺たちのいた地面をザクっと突き刺した。
「ひぃっ!!」
俺も婆ちゃんも悲鳴を上げた。
これって、どう見ても、俺ら襲われてるよね?!
「婆ちゃん! 逃げるぞ! 臭くても我慢してくれ!」
俺は婆ちゃんを無理やり背負うと、走り出した。
★
俺は無我夢中で走った。
俺たちが走る横を、背後からシュッと蔦が迫る。
俺は後ろに目があるわけではないから、後ろからの攻撃は避けられない。
たまたま、蔦の目が悪いのか―――目があるのか分からんが―――幸運にも奴が外しているだけだ。
シュッシュッと何本の蔦が襲ってくる中を、脇目も振らず、必死に走った。
俺は運動部に属しているわけではないが、足が早いのが自慢だった。
陸上部から何度も勧誘されていたほどだ。
だが、部活には属さなかった。
なぜなら、母親を極力学校行事に参加させたくないという親父の意向のせいだ。
ということで、普段運動していない俺は、足が速くても体力はない。
しかも、奴隷生活で、今まで以上に体力は衰えている。
残念だが、すぐに限界が来た。
俺の走る速度が落ちたところで、足元を狙われた。
足首に蔦が絡み、俺は前にド派手に転んだ。
その拍子に、ライラ婆さんは俺の背中から転がり落ちた。
俺が立ち上がるより前に、蔦は力強く足を引っ張る。
俺は必死になって、地面に生えた草にしがみ付いた。
その時、
「えいっ!」
と言う掛け声がしたと思ったら、足を引く力が弱まった。
「!?」
俺は顔だけ上げて、足元に目をやると、ライラ婆さんが俺の渡した杖を振り下ろしている。
「えい! えい!」
俺に巻き付いた蔦を何度も叩いていた。
それが効いたようだ。蔦はシュルシュルっと俺の足から離れていった。
俺はすぐに起き上がると、まだ杖を振り上げているライラ婆さんを自分の方に引き寄せた。
蔦を見ると、何本もシュルシュルと音を立て、こちらを睨みつける蛇のごとく、立ち上がり左右に揺れている。
いや、蛇と言うか、タコの足だな、ありゃ。
いつでも襲い掛かれるように、こちらに睨みを利かせている。
ライラ婆ちゃん、助けてくれてありがとう。
でも、あんた、相手をもっと怒らせちゃったみたいよ・・・。
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