18.協力者

絶望が歓喜に変わり、そしてまた絶望の底へ突き落された。


「もう、どうしたら北の塔の魔女と会えるんだよぉ~~!」


俺は顔を手で覆いながら、背中を地面に投げ出し、ゴロゴロ左右にのた打ち回わった。

子供のようにダダをこねる俺を見て、老婆はオロオロし始めた。


「お、落ち着け・・・」


「無理~! マジで無理~! こんな生活~~! 俺、善良な一般市民なのに~! 普通の高校男子なのに~!」


「つ、辛いのはよく分かった。な?」


オイオイ泣き叫ぶ俺に見かねてか、老婆は俺の傍に近寄り、腰を降ろすと、なだめる様に俺に声を掛けた。


「実は、私も北の塔の魔女には会いたいのだ」


「え・・・? そうなの? 婆さんも?」


俺は泣き叫ぶのを止め、老婆を見つめた。


「そう、このばばも・・・」


老婆は寂しそうに頷いた。

俺はその悲しそうな目を見て、急に冷静になった。

のっそりと起き上がると、ちゃんと姿勢を正して老婆に向かい合った。


「あの~、失礼なことを伺いますが、お婆さんはどちら様で? この城の人ですよね? 俺と違って自由があるんですよね?」


だって、この婆さん、かなり身なりが良い。

今、気が付いたが、今日だって、フードの下は綺麗な衣装を身に付けている。

ちょっと可愛すぎるって言うか、年相応じゃないって言うか、この世界の流行は分からないけど、色合い的にも柄的にも若い女性が好みそうな衣装だ。


「そんな人でも北の塔の魔女には会えないんですか?」


「・・・会えぬというか、会わせてもらえぬというか・・・」


「? 婆さん、偉くないんですか?」


「・・・自由はある。身分も・・・。だが、私はこの城では余所者なのだ。勝手をするには限度がある」


「余所者?」


俺は首を傾げた。

老婆は目を伏せた。


「自由は許されていても、気ままには動き辛い身で・・・」


そうか、気ままな隠居生活のババアじゃないんだ。


「・・・身分のある人でも、そう簡単に会えないんですね・・・。その北の塔の魔女って」


俺は溜息を付いた。老婆も釣られるように軽く息を吐く。


「北の魔女は、畑や家畜小屋や奥の林など、城の者が行かない場所に顔を出すことが多いと聞いて、時折ここに来るのだが、まだ会ったことが無い・・・」


「え? 婆さんも?!」


俺は驚いて声を上げた。


「婆さんも、魔女がここら辺を徘徊してるって聞いてたんですか? 俺もそれを狙っていたんです!」


「・・・そうか、それで私と間違えたか・・・?」


「そうなんです。すいません・・・」


俺は頭を掻きながら頭を下げた。


「いや・・・。それでも昨日は助かった・・・。このスカーフは私の大切なものだから・・・」


老婆は顔を覆っているスカーフを手で押さえた。

ああ、そう言えばそんな柄のスカーフだったな。綺麗な花柄。


「礼をしたいが、私にはお前を奴隷から解放するほどの力は無い。悪いな・・・」


老婆は申し訳なさそうに呟いた。


「そりゃ、そうっすよね・・・。でも、いいんです! 北の魔女に会えれば何とかしてもらうんで!」


優しく気遣う老婆に、俺は少しばかり胸が熱くなり、無理やり笑って見せた。


「そうだ! 俺が先に北の塔の魔女を見つけたら、婆さんのことの話を付けておきますよ! 婆さん、名前なんて言うの?」


「え・・・?」


「俺、健太郎って言います」


「ケンタロウ・・・」


「健でも、健太でも、健太郎でも適当に呼んでください」


「私は・・・、ライラという」


「オーケー、オーケー、ライラ婆さんね。ライラ婆さんが先に北の塔の魔女を捕まえたら、俺のことを伝えてください」


「・・・分かった」


「あざーっず!」


俺はガバッと頭を下げた。

そうだよ、二人で手分けすれば、早く見つかるかも! 協力者ゲットだ!

なんか、また少し希望が見えてきたぞ!


「・・・もう、私は戻る・・・」


「あ、はい」


老婆は立ち上がると、近くで草を食んでいる馬のもとに歩いて行った。


すげーな。超年寄りなのに馬に乗れるんだ・・・。

ってか、大丈夫なのかな? 高齢やドライバーってやつにならないのか?


俺も立ち上がると、見送ろうと思い、馬に近づいた。


老婆は馬の頬を優しく撫でると、手綱を持ち、鐙に足をかけると颯爽と馬に跨った・・・。

と、思った。


「・・・」

「・・・」


何故か、老婆は手綱を握り、鐙に足をかけたままの状態に戻っている。

もう一度、よいしょっと言う掛け声と共に、馬に跨ろうとしたが、体が持ち上がっていない。


また、最初の体勢に戻った。


結構、小柄な馬のようだけど・・・。ポニーくらい?

でも、乗るのに苦労している。

ほら、やっぱり年寄りが乗るのって危ねーんじゃねーの?

でも、歩くのもキツイよな~。


俺はライラ婆さんの傍に駆け寄った。


俺は自分の服で手のひらを拭くと、


「俺が持ち上げるんで」


婆さんを後ろから抱えた。


「!!」


ライラ婆さんは驚いたように俺に振り返ったが、俺は気にも留めず、


「いきますよ、せーの!」


掛け声と共にライラ婆さんを持ち上げた。

婆さんもそれに合わせて鐙を踏む足に力を入れたようで、すんなり馬に跨ることに成功した。


「・・・礼を言う・・・」


馬上からぼそりと呟く声が聞こえた。

馬はくるりと向きを変えると、ゆっくりと城の方へ歩いて行った。

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