19.釣る!

結局、魔女に会えることは出来なかったが、協力者を得たことは、今日の収穫としては上々だ。しかも、奴隷のコミュニティ外で。


奴隷の中だけでの生活では情報網は限られている。

城内の情報をあのライラ婆さんから得ることができれば、北の塔の魔女に近づく足掛かりになるかもしれん。


でも、あの婆さんも、奴隷のダンと同じ情報しか持ってなかったな、そう言えば・・・。

う~ん、それじゃ、やっぱ、今日の収穫は大したことなかったか・・・?


いやいや、そんなことはない。


就寝時間後、俺は自分のベッドの中で今日の事を思い返し、頭を振った。


ライラ婆さんと仲良くしておくことに越したことはない。

と言うより、仲良くすべきだ。いい婆さんだしな。なんか間抜けそうだけど・・・。

大丈夫かな~、俺が異世界人だって、うっかり誰かに喋ったりしないかな?


もし、異世界人ってバレたら、俺、どうなっちゃうのでしょう?

ん? 異世界人ってバレるより、王子ってバレる方がヤバいのか?


俺はそんなことを考えているうちに、瞼が重くなり、いつの間にか眠りに落ちていった。





翌日、俺はいつものように糞と堆肥を運んでいた。

そして、運びながら考える。


いつもの場所の往復だけでいいのだろうか?

毎日、同じ道の往復だけで、魔女が捕まえられるはずがないよな。


でも、魔女がここら辺を徘徊していることは分かっている。

同じ場所でひたすら待ち、ノコノコとやってくるところを引っかけるか。


「ライラ婆さんは釣れたけどな~・・・」


魔女の婆さんも同じように釣れるのか? 

そんな上手い具合にいく?


俺は重たいリヤカーを引きながら、畑にやって来た。


「ご苦労さん」

「お疲れっす」


いつもの優しい人と挨拶する。

俺は思い切って聞いてみた。


「あの~、この畑に北の塔の魔女って来たりするんですか?」


「あー、あの婆さんか? 来るよ、たまにな」


「マジっすか?」


目を丸める俺を気に留める様子も無く、畑の奴隷は軽く肩を竦めた。


「突然に来たと思ったら、勝手に畑に入って漁り出すんだよ。そんで、気に入らないとダメ出ししやがる。結構迷惑な婆さんだよ」


「へえ~」


「家畜小屋にも行ってるって聞いてるぞ? まだ見たことねーか?」


「そ、そんなに頻繁に来るんですね?」


これはノコノコ来たところを釣れるかもしれないぞ?!


「食い意地が張ってんじゃねーかな? 鶏小屋にも行ってるみたいだしよ。なのに馬小屋には行かねーんだとよ」


「へ、へえ~?」


うわぁ、癖ありそうな婆さんだな。


「100歳近い婆さんなんですよね? 元気っすね」


「ピンシャンしてるぜ。いいもん食ってんだろうよ」


「そうか・・・。羨ましいっすね・・・」


食い意地が張った婆さんかぁ。

くそ~、その婆さんのせいで、俺は好きな物も食えずにいるというのに!

それどころか、まともな飯自体、食えていないのだ。糞まみれな上にだ!


「畜生、絶対釣ってやるからな・・・」


「?? 何だって?」


「あ、いや! 何でもないっす!」


俺は慌てて首を横に振った。

そして、ど~も~と頭を下げて、空のリヤカーを引いて、元来た道に引き返した。





昼の休憩を挟んで、またリヤカーを引く。

空のリヤカーを引きながら、家畜小屋に戻る途中、ちょっと休憩しようと立ち止まり、丘から小川を眺めた。


「あ!」


俺は声を上げた。


昨日と同じ場所に、ライラ婆さんが馬と一緒に立っていた。

こちらを見上げている。

俺が気付いたことに、向こうも気が付いたようだ。俺に手を振ってきた。

俺はなぜかとっても嬉しくなった。

すぐにリヤカーを置くと、急いでライラ婆さんのところに駆け下りた。


「は、走るな! き、気を付けろ・・・!」


ライラ婆さんは、俺がまた転んで小川に転がり落ちることを心配したようだ。

駆け下りる俺を制するように両手を前に差し出した。


「大丈夫っすよ! 二度も同じことしませんよ・・・って!」


と叫んだ時、石ころに躓いた。

バランスを崩し、体勢を戻そうと踏ん張るも重力には敵わず、むなしく転んでしまった。

その後はお約束通り。


ザバーンという水音と共に小川にダイブした。


「だ、大丈夫か・・・?」


ライラ婆さんは岸辺まで駆け寄って、起き上がった俺に声を掛けた。


「大丈夫っす・・・」


「だから、走るなと・・・」


「さーせん・・・」

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