19.釣る!
結局、魔女に会えることは出来なかったが、協力者を得たことは、今日の収穫としては上々だ。しかも、奴隷のコミュニティ外で。
奴隷の中だけでの生活では情報網は限られている。
城内の情報をあのライラ婆さんから得ることができれば、北の塔の魔女に近づく足掛かりになるかもしれん。
でも、あの婆さんも、奴隷のダンと同じ情報しか持ってなかったな、そう言えば・・・。
う~ん、それじゃ、やっぱ、今日の収穫は大したことなかったか・・・?
いやいや、そんなことはない。
就寝時間後、俺は自分のベッドの中で今日の事を思い返し、頭を振った。
ライラ婆さんと仲良くしておくことに越したことはない。
と言うより、仲良くすべきだ。いい婆さんだしな。なんか間抜けそうだけど・・・。
大丈夫かな~、俺が異世界人だって、うっかり誰かに喋ったりしないかな?
もし、異世界人ってバレたら、俺、どうなっちゃうのでしょう?
ん? 異世界人ってバレるより、王子ってバレる方がヤバいのか?
俺はそんなことを考えているうちに、瞼が重くなり、いつの間にか眠りに落ちていった。
★
翌日、俺はいつものように糞と堆肥を運んでいた。
そして、運びながら考える。
いつもの場所の往復だけでいいのだろうか?
毎日、同じ道の往復だけで、魔女が捕まえられるはずがないよな。
でも、魔女がここら辺を徘徊していることは分かっている。
同じ場所でひたすら待ち、ノコノコとやってくるところを引っかけるか。
「ライラ婆さんは釣れたけどな~・・・」
魔女の婆さんも同じように釣れるのか?
そんな上手い具合にいく?
俺は重たいリヤカーを引きながら、畑にやって来た。
「ご苦労さん」
「お疲れっす」
いつもの優しい人と挨拶する。
俺は思い切って聞いてみた。
「あの~、この畑に北の塔の魔女って来たりするんですか?」
「あー、あの婆さんか? 来るよ、たまにな」
「マジっすか?」
目を丸める俺を気に留める様子も無く、畑の奴隷は軽く肩を竦めた。
「突然に来たと思ったら、勝手に畑に入って漁り出すんだよ。そんで、気に入らないとダメ出ししやがる。結構迷惑な婆さんだよ」
「へえ~」
「家畜小屋にも行ってるって聞いてるぞ? まだ見たことねーか?」
「そ、そんなに頻繁に来るんですね?」
これはノコノコ来たところを釣れるかもしれないぞ?!
「食い意地が張ってんじゃねーかな? 鶏小屋にも行ってるみたいだしよ。なのに馬小屋には行かねーんだとよ」
「へ、へえ~?」
うわぁ、癖ありそうな婆さんだな。
「100歳近い婆さんなんですよね? 元気っすね」
「ピンシャンしてるぜ。いいもん食ってんだろうよ」
「そうか・・・。羨ましいっすね・・・」
食い意地が張った婆さんかぁ。
くそ~、その婆さんのせいで、俺は好きな物も食えずにいるというのに!
それどころか、まともな飯自体、食えていないのだ。糞まみれな上にだ!
「畜生、絶対釣ってやるからな・・・」
「?? 何だって?」
「あ、いや! 何でもないっす!」
俺は慌てて首を横に振った。
そして、ど~も~と頭を下げて、空のリヤカーを引いて、元来た道に引き返した。
★
昼の休憩を挟んで、またリヤカーを引く。
空のリヤカーを引きながら、家畜小屋に戻る途中、ちょっと休憩しようと立ち止まり、丘から小川を眺めた。
「あ!」
俺は声を上げた。
昨日と同じ場所に、ライラ婆さんが馬と一緒に立っていた。
こちらを見上げている。
俺が気付いたことに、向こうも気が付いたようだ。俺に手を振ってきた。
俺はなぜかとっても嬉しくなった。
すぐにリヤカーを置くと、急いでライラ婆さんのところに駆け下りた。
「は、走るな! き、気を付けろ・・・!」
ライラ婆さんは、俺がまた転んで小川に転がり落ちることを心配したようだ。
駆け下りる俺を制するように両手を前に差し出した。
「大丈夫っすよ! 二度も同じことしませんよ・・・って!」
と叫んだ時、石ころに躓いた。
バランスを崩し、体勢を戻そうと踏ん張るも重力には敵わず、むなしく転んでしまった。
その後はお約束通り。
ザバーンという水音と共に小川にダイブした。
「だ、大丈夫か・・・?」
ライラ婆さんは岸辺まで駆け寄って、起き上がった俺に声を掛けた。
「大丈夫っす・・・」
「だから、走るなと・・・」
「さーせん・・・」
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