13.魔女を探せ
今日は一週間に一回の風呂の日だった。
奴隷専用の大浴場。
結構な広さだ。
こんなに広ければ、どれだけ大人数の奴隷がいたって、上手く時間帯を管理すれば、ちゃんと毎日入れるはずだ。
それなのに、風呂を開けている時間帯を非常に短くして、入れる人数を減らしている。
これじゃ、一週間に一回がやっとで当たり前だ。
まあ、奴隷なんかに水や薪など贅沢に使ってられるかって事なんでしょうけどね。
でも、奴隷と言えども労働者なんだ。
ここら辺の福利厚生はどうなんでしょう?
今までの俺ならカラスの行水だったが、ここでは丹念に髪も体も洗う。
何度も何度も洗うが、どうにも臭いが取れない気がする。
皮膚が擦れ切れてしまうかと思うほど、布で体を擦る。
剥げてしまうかと思うほど、両手で掻きむしるように洗髪する。
それでも、取れた気がしない。
風呂の隅で、必死になって体を洗っていた。
気付いたら、俺は最後の一人になっていた。
持ち場の男にさっさと上がれと怒鳴られて、慌てて風呂場から退散した。
風呂から上がると、洗濯された服と下着が用意されていた。
ああ、良かった。
折角、体が綺麗になったのに、汚れた服を着たら意味が無い。
何て有難い!
あ、あれ? 感心しているところじゃない!
可笑しい可笑しい! 精神が病みかけてる証拠だ。こんなことで感動するなんて。
当たり前のことじゃないか。
恐ろしいな・・・、マインドコントロールされかけてる。
気を付けないとと身を引き締めながらも、帰り際に、
「寝床のシーツも代えろ」
と、清潔なシーツを手渡され、顔がほころんでしまった。
久しぶりに洗い立ての服に身を包み、清潔なシーツを大切に抱えながら大浴場から宿舎に戻った。
戻る道中、近くを歩く男を捕まえた。
「あの~・・・」
「は?」
男は面倒臭そうに振り向いた。
それでも風呂上りは誰でも気分はいいらしい。仕事中だと誰もが険しい顔をしている。確かこの男もそうだ。話しかける度に睨まれるっけ。
だが、今は面倒臭そうとは言え、穏やかな顔付きだ。
「この城に魔女がいるって聞いたことがあるんですけど、本当ですか?」
「魔女? ああ、いるな。城付きの魔女だろ?」
「知ってるんですか?」
俺は目を見張った。
「知ってるって・・・。誰も知ってるだろ? 城に魔女がいるくらい。ああ、お前は新入りだから知らないか?」
「はい」
「それでも、城に王室お抱えの魔女がいるのは常識だろ?」
え? そうなの? 常識なの?
「どこもそうじゃねーのか? お前、異国出身か? お前の国は違うのか?」
「・・・俺、庶民出身なんで、王宮の暮らしなんて知らないんです・・・」
俺は咄嗟に誤魔化した。
だが、男は目を細めて俺を見た。
「へえ、それにしちゃあ、坊ちゃん臭さが抜けてねーけどな。とても庶民とは思えねえよ」
え? そう? そんなに育ち良く見える? やだ~、ちょっと照れちゃうんだけど。
「ひ弱そうなのに、肌艶は良いしな。それに風呂長ぇし。あー、そう言えば毎日風呂入ってたみたいなこと言ってたな。そんな庶民いるかよ」
え? そうなの?
「そ、そうっすか? いやいや、毎日って言い過ぎたかもしれません。あははは!」
俺は慌てて笑って誤魔化すも、男はさらに目を細める。
「そ、それより、その魔女ってどこにいるんですかね?」
「・・・魔女に会いたいのか?」
「えっと、ちょっと聞きたいことがあって」
「奴隷の分際で、魔女に会えると思ってるのか?」
出た! ここでも奴隷縛り!
何だよっ! 奴隷って何もしちゃいけないのかよ?
奴隷には何の権限も無いのかよ? 自由は無いのかよ?
って、あるわけねーよな・・・。だって、奴隷だもん・・・。
「やっぱ、無理っすよね・・・」
「まあな。でも、可能性はあるぞ。俺は会ったことがある」
「え?! マジっすか?」
俺は目を輝かせて男を見た。
「会ったというか、見たことがある」
「え・・・?」
「城の中をよくふら付いてんだよ、あの魔女の婆さん。肉好きで今の牛や豚の品質を見に来たり、畑なんかにも顔を出したりする。ちょっと変な婆さんだ」
「品質管理・・・?」
「そう言えば聞こえがいいがな。俺から見るとただの徘徊に近い」
「徘徊・・・」
嘘・・・。そう言えば100歳超えてるって言ってたよな・・・。
もしかしてちょっと痴ほう入ってるとか・・・?
やばい、やばい!
しっかりしているうちに元の世界に返してもらわないと!
「徘徊・・・、いや、巡回しているところを上手く見つけるしかないんでしょうか?」
「そうだな・・・。あ、王室付きの魔女は北の塔に住んでるって聞いたことがあるな」
「北の塔・・・」
ってどこ?
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