12.過酷な労働

翌朝、盛大な銅鑼の音で目を覚ました。


俺に充てがわれたのは、大量の二段ベッドが並んだ部屋の、一番隅にある下段のベッド。

その中で、バカでかい銅鑼の音にビックリして飛び起きた俺は、天井に頭をぶつけ悶絶した。


痛いのは頭だけではない。

昨日の重労働で体中がもう痛いのなんのって。

学校で運動部に入っていない俺は、普段から運動不足ぎみだ。今日はそれを痛感した。


周りの労働者たちは皆ベッドから這い出して来る。

そして、ゾロゾロと部屋から出て行く。食堂に向かうのか?

俺も、痛い体に鞭打って、皆の後に付いて行った。


食堂で出された食事は昨日の夜と同じ。

朝食も夕食も同じって・・・。

俺はゲッソリした。


それでも腹は減っているので、何とか胃袋に流し込む。


「そう言えば、風呂って入ってないですよね? 入る時間って決まってるんですか?」


俺は食べ終わってから、隣に座っている男に聞いた。


「ああ。一週間に一回だ」


「え? マジっすか? あの内容の仕事で?」


嘘、嘘?

だって、重労働じゃん! 牛・豚さんのクソまみれの場所じゃん!

それで、一週間に一回って! ありえねー!


「・・・それ以外の時は、近くに人工的に作った小川があるから、そこの水で体を洗うのは許されている」


「小川・・・」


俺は絶望した。

川の水って・・・。水じゃ、冷たいじゃん。疲れ取れないじゃん。


「毎日とは言わないけど、せめて二日に一度くらい風呂に入りたい・・・」


目を丸めて呟く俺に、男は呆れたような顔をした。


「・・・お前さん、よほど良いところのボンボンだったんだな、毎日風呂って。一体何をやらかして奴隷にまで落ちたんだよ?」


「・・・」


・・・そうだった。俺は奴隷なんだった・・・。

何度言われてもピンとこない。


「・・・ちょっと、暴力沙汰を・・・」


「へえ? その華奢な体でか? 想像つかねえな?」


「はい・・・。想像しないで下さい・・・」


なんせ、国王様を殴ったんで・・・。それ聞いたらビックリするでしょうね、あんた。


「ちょっとの暴力沙汰で奴隷ねぇ。どうせ、変な奴に売られたんだろう、気の毒にな」


ええ、ええ、それはそれは変な奴に。実の親なんだけどね。


「はあ~・・・」


俺は盛大に溜息を付いた。





昨日は藁を敷くことが仕事だった。


だが、今日は・・・。


ああ、いつかやる事になるかもって、思っていたやつ・・・。

恐れていたことが二日目にして早々やってきた。


糞運び。


牛さん豚さんの糞を一定の場所に運ぶ。

糞まみれのリヤカーをえっちらおっちらと引き、糞の山へ移す。

布で、鼻と口元を覆っていても、眩暈を起こしそうなほどの悪臭は避けられない。


この糞は肥料になるらしい。

これをさらに近くの加工場へ運び堆肥にするらしい。

そして、それを城内の畑で使う。

それだけではなく、城外の農家にも分けているそうだ。


おお、リサイクル。いいね!

無駄にしないのは美しいね!


でも、作業員はすげーしんどい。

ああ、酪農家って本当に大変なんだな。

何も知らずに、のほほんと牛肉豚肉食ってた俺。

今になり、その有難さや尊さがよく分かる。


とは言え、最初のうちだけだった。謙虚にそんなこと思っていたのは。


気が付いたら俺の持ち場は、家畜小屋からの糞の運搬と、出来上がった堆肥の畑への運搬になっていた。


満足な食事も与えられず、悪臭の中の重労働に、劣悪な住環境。

一週間を過ぎた頃には、俺は絶望し始めていた。


何とかして、逃げ出さなければ死んでしまう。

完全に絶望して逃げる気力さえも消え失せてしまう前に、ここから脱しないといけない。


親父の『暫くの間』なんて待ってられるか!

あんなクソ親父の言う事なんか、どうでもいい!

ってか、一番の敵って親父じゃね?

そもそも、俺は親父から逃げないといけないじゃね?


その親父から逃れるには元の世界に帰るしかないんだ。

そのためには・・・。


そうだ! すげー魔女の婆さん!


どうにかして、その魔女の婆さんを探し出そう!

直談判して、もとの世界に帰るんだ!!


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