7.投獄

「え?」


俺は、俺のことを指差し絶叫した男をポカンと見た。

次の瞬間、その男の後ろから、騎士のような恰好した男たちがなだれ込み、あっという間に、俺を羽交い絞めにした。


「な、な、何?!」


動揺している俺の脇を通り過ぎ、男は親父の傍に駆け寄った。


「陛下ぁ!! ご無事でございますか?!」


「ああ、大事ない」


親父は立ち上がりながら、涼しい顔して答えた。

え? なんか偉そうなんだけど・・・。


「ちょっと何これ? 放せよ! おい!」


俺がそう言ってもがいた瞬間、倒され顔を床に押し付けられた。


「なんて奴だ! 城外で倒れていたところを、陛下がお慈悲を掛けて下さったと言うのに!」


怒り心頭の男の声が俺の頭上から降ってくる。


「いや、よいよい! この男は何も分かっておらぬようじゃ」


「しかし、陛下!」


「うむ。だが、余に手を挙げたことには間違いないの」


親父の声のトーンが少し下がった。

俺は必死に顔を上げようとしても、押さえつけられて親父の顔が見えない。

なんか、嫌な予感がするんですけど?


「連れて行け」


ピシャリと親父が言い切った。

何言ってんの? このジジイ。


「はっ! その男を連れて行け!」


「はっ! おい! 立て!」


男の命令と共に、俺は無理やり引き起こされ、やっと親父を見ることが出来た。

なんと、親父が面倒臭そうに顔の前で、シッシと手を振っているではないか!


俺は羽交い絞めにされながら引きずられた。


「おい! どういうことだよ! クソ親父!」


俺は引きずられながらも、必死にもがきながら親父に向かって叫んだ。


「貴様ぁ! 陛下に何という事を!」


近くにいた兵士が俺のみぞおちにガッと蹴りを入れた。

途端に俺の意識は飛んだ。





「う・・・」


何だか、体が痛い・・・。

そして、腹も痛い・・・。


少しずつ覚醒していく中、ぼんやりと目を開けた。


「あれ・・・? ここ何処・・・?」


俺は横になった体勢のまま、ゆっくり周りを見渡した。


周りはとても暗く、寝ている床はとても固い。

暗さに目が慣れてくると、自分が冷たい石畳の床に、薄くて粗末な麻の布一枚敷かれた上に転がされていることが分かった。


「くそ~~、まだ痛~」


俺は腹を摩ろうと手を動かそうとしたが動かない。

俺は焦って手元を見て驚愕した。

木で作られた手枷で自由が奪われている。


「何だよ? これ!」


俺は完全に目が覚めて、ガバッと起き上がった。

もう一度、今度はしっかりと周囲を見渡す。


石畳の床と壁、高い天井。壁のかなり高い位置に小窓が一つ。

そして、目の前に鉄格子。


「うわぁ・・・、もしかして、ここ牢屋?」


俺は立ち上がり、鉄格子に近寄ろうとして、足が重いことに気が付いた。

もしかして・・・。


「やっぱり・・・」


足元を見ると、両足に足枷が付いている。

こちらは鉄製だ。

歩行の自由は保てる程度に鎖で両足が繋がれ、さらに重たい鉄の玉が一つ、お飾りのように付いている。


「引くわ・・・」


俺は思わず呟いた。だって、手枷に足枷って・・・。

しかも、手と足の枷の素材が違うってよく分からん。


しかし、じっとしてもいられない。

俺はゴロゴロと鉄の玉を引きずって、ゆっくりと鉄格子に近づき、そっと外側を窺うように覗き込んだ。

誰もいないようだ。


シーンと静まり返った牢屋の中。


俺は冷静になろうと深呼吸した。

そして、今までの状況を整理しようと、頭を捻った。


兎にも角にも、何なのだ? この状況。


さっき俺が連れて行かれる直前の親父。

あれ本当に俺の親父? なんか超偉そうだったんだか・・・。

それに、周りの人も陛下って呼んでたな。


え? それって、マジで国王?

って、ここまできて嘘言ってもしょうがないか・・・。


「あれ? じゃあ、俺、王子じゃん。そうだよ、親父が言ってたじゃん」


俺は思わず声が出た。

王子様がなんでこの待遇? おかしくね?


俺は牢屋の格子にしがみ付き、外を覗いた。


「すいませ~ん! 誰かいませんか~!」


俺は外に向かって大きな声で叫んだ。

だが、シーンと静まり返ったまま、誰からの返事もない。


「おーい! 誰もいないのかよー? 誰かはいんだろー?」


俺はもう一度大声で怒鳴った。ついでに、手枷の板で、鉄格子をガンガン叩いた。


すると、奥の方から光がチラリと見えた。

こちらに近づいてくる足音が聞こえる。


誰かが来る。


自分で呼んでおいて、俺は急に怖気づいた。

身を固めたまま、その人物が近づいてくるのを待った。

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