彼の本性
ミディール学園に入学してから一カ月がたった。
この間、私は学生らしく勉学に励みまくっていた。一度学んだアドバンテージのおかげなのか、知識が面白いほどするすると頭に入ってくれるので、私は初めて勉強をしながら「楽しい」と感じている。
以前の私はクラウスを他の誰かに取られないようにしようと必死で、ほとんどの女性は彼に近づこうとする敵だと思って遠ざけていた。
今回はそんなことをする必要もなくなったので、同じクラスで女性の友達もたくさんできた。とても嬉しい。
勉強は大変だけれど知識が増えて視野が広がっていくのが楽しいし、友達もたくさんできたし、以前とは比べものにならないくらい充実した毎日を送っている。
クラウスのことは気にしている時間が惜しかったから放置していたのだが――。
彼に興味を失った今、それまでは全く気づかなかった彼の真実が
それを目撃したのは偶然だった。
私は家に帰ると緊張感が保てなくなって勉強がはかどらなくなってしまうので、毎日学園の図書館で決まった時間に一人で勉強していた。
学園の図書館はとても広く、蔵書も王宮には負けるが、そこを除くと王国一と言っても過言ではない規模であった。
そこで勉強しているのは私だけではなかったが、とにかく広いのでそこかしこに設けられている勉強スペースはいつもほぼ貸切状態だった。
その中でも、私は特に目立たない場所を確保して勉強していた。
そこは、勉強している途中で調べたいものが出てきて、該当の本を探しに行こうと思うと大分億劫になってしまう位置にあるスペースなので、勉強するには効率が悪く、人気のない場所だった。
その代わり、頻繁に生徒から求められるような本がある場所ではないのでほとんど人が来ないし、図書館の入り口からは死角となる場所に位置しているため、私にとっては集中しやすくて理想の勉強スペースといえた。
ただ、残念なことにそういう場所を好むという点では趣味が合ってしまったらしい。
ある日、その憩いのリリアーヌ御用達勉強スペースの近くで、クラウスが女性と密会しているところに図らずも遭遇してしまったのである。なんという不幸なのだろう。私は自分の運の悪さを呪った。
調査したわけではないし、偶然その場に居合わせてしまっただけだったのだが、気になって勉強に手がつかなくなってしまったので、悪いとは思いつつこっそり見学した。
「ああ。あなたの唇はなんて甘いのだろう。もっと早くあなたに出会えていれば……すまない。あなたに聞かせる言葉ではなかった」
「クラウス様……! 私があなたを好きになってしまったのが悪いのです。謝らなければいけないのは私のほうです。あなたが優しい方なのはわかっていますから」
「あなたの可憐さに眩暈がしそうだ。もう一度あなたを感じたい。いい……?」
「クラウス様……もちろんです……」
それ以上は見ていられなかった。
――やはり、クラウスは気の多い人だったのだわ。予想はしていたけれど……思ったよりショックなものね。
私は予想以上に衝撃を受けていた。
彼への恋心は粉々になってしまってこれっぽっちも残っていなかったが、やはり十六年も思い続けた人だったのだ。
裏切られたとわかったあとの怒りが過ぎれば、その後に残るのはあんな男に騙されて信じ続けていた己に対する|
確かに貴族として政略結婚はよくある話だし、愛のない夫婦も、互いに義務だけ果たしたのちに愛人を持つ仮面夫婦も探せばいくらでも見つかるだろう。
けれど、クラウスとはそうならないようにしようと、自分たちはそうはならないねと、肩を寄せ合って未来について語り合っていた。それに、何よりクラウス自身が、誠実な夫になる、リリアーヌを大事にすると約束してくれていたのだ。
――将来は私と結婚することが決まっているから、それまでに他の女性で遊んでおこうとでも思ったのかしら? 私に失礼だし、相手の女性にも失礼だわ。
私はクラウスのことを心から軽蔑した。嫌悪したと言ってもいい。クラウスの不誠実な印象が覆せないほど高まり、相手の女性には逆に同情してしまった。
そして何より、やっぱり悔しかった。
あんなに女性を軽く扱う酷い男のことを死ぬまで思い続けた私が惨めだった。悔しくて惨めで、瞳に涙も滲んできたし、手も震えてきた。
その日は当然そのまま勉強を続けることもできなかったので、逃げるように図書館を去ることになってしまった。
そそくさと図書館を出たが、その道中でも様々な思いが交差して、結局涙が溢れそうになってしまった。
周りに人の気配は感じなかったが、万が一のこともある。廊下でリリアーヌが泣いていたと噂されるのは勘弁願いたいと思う一心で、近くの空き教室に逃げ込むことにした。
しかし、急に方向転換して前をよく見ていなかったのが悪かった。そこに人がいたのだと気がついたときには、既に
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