第24話 借り物競争
教室でさっさと昼食を済ませ、俺は午後の部に備えていた。
……とは言っても、リレーは最後なためまだ時間はあるわけなんだが……。
それよりも後ろのこいつは大丈夫だろうか。
リレーの前に大縄跳びという体力ゲーの種目に出るのだから少し心配だ。
リレーは勝たないといけない。
教室で待機していると、前方のドアから霧島先生が入ってきた。
「全員いるな。これから午後の部だ。グラウンドに移動するぞ」
先生の指示で、俺たちはグラウンドに移動することになった。
どうやら二年生の位置は、リレーのスタート位置周辺らしい。
一年生はトラックを跨ぎその対岸、三年生はカーブの周辺といったかたちになっている。
つまりリレーのパスがよく見えるのは俺たち二年生と一年生ということだ。
普通ここが三年生ではないのかと思いつつ、俺は指示された範囲内に座る。
「ここめっちゃリレー見やすいな」
横にいた翔太がそう言った。
全校生徒が観戦位置につくと、トラック中心に体育委員が現れた。
「はい。ではこれより体育祭二日目、午後の部を始めたいと思います。最初の種目は大縄跳びです。ルールは10分間で跳んだ回数が多いクラスが勝利です。縄の回転が止まっても失格にはなりません。合計の回転数が最後に集計され、判定は近くの体育委員が行います。注意事項は――」
司会と同時進行で、他の体育委員と思われる人たちが周辺に大繩を配置している。
「――以上です。では最初は一年生の大繩跳びを行います。選手の人は出てきてください」
司会の言葉によって、向こうにいる一年生たちがトラック中心に集まり始めた。
そして約1分間の練習時間が与えられ、いよいよ本番が始まった。
10分後。
一年生の大縄跳びが終了した。
一つ思ったのは、これは絶対にきついということだった。
去年の体育祭でも大縄跳びはあったのだが、時間が押しているということがあり、競技時間は半分の5分だった。
それでも皆疲れていたため、今年は単純にその倍以上疲労が襲ってくるということだろう。
跳び終えた一年生たちはその場で結果を待っている。
程なくして体育委員によって順位が発表された。
「えー集計の結果、一位は――」
勝って喜ぶクラス、思ったよりも下の順位で落胆する素振りを見せるクラスと様々だ。
「次は二年生です。選手の人は出てきてください」
一年生が皆クラスのところに戻ったタイミングで、二年生の番が回ってきた。
「んじゃあ行ってくるわ」
横で座っていた翔太は立ち上がり、自分たちの跳ぶ縄の元へと走っていった。
そして一年生の時と同様、1分間の練習タイムに入る。
翔太は跳ぶ側だ。
基本的に特別な事情がない限り、途中で跳ぶ人と縄を回す人を交代させることはできない。
跳ぶ人は最後まで跳び、回すなら最後まで回しとおせということになっている。
練習だけを見ていると、どこのクラスもほとんど差はないように見えた。
テンポもほとんど一緒といった様子に見える。
あとはシンプルに体力次第になりそうだ。
「練習時間はこれまでです」
いよいよ始まる。
全クラス縄の回転を止め、停止する。
「では、始め!」
体育委員の合図で全クラスの縄が回転し始める。
そしてそれに合わせて飛ぶ人は縄に当たらないように跳び始めた。
最初の数分はどこの組も順調だった。
時折絡まって回しなおす組もあったが、まだ1組は一度も止まらず跳び続けている。
そして残り時間は5分。
登り切った山をあとは下るといった時間だ。
今のところ差がついているクラスは無いように感じる。
だが、1組のメンバーの顔を見ると、やばいと思った。
跳んでいる人全員がものすごい力で歯を食いしばっているような顔をしている。
そして明らかに回転のペースがこれまでより落ちている。
そしてそれは1組だけではなかった。
一部のクラスも同様に皆表情を変え、ペースが落ちていた。
それもそうだろう。
ペースが落ち始めているクラスは今のところ一度もストップしていないのだから。
5分も跳び続けられるだけでも十分凄いのに、まだ半分だからな。
疲労に耐えながらも跳び続けている人間に、俺は心の中で賛辞を呈する。
そして残り時間3分。
一度も止まっていなかったクラスが止まり始める。
中には膝に手をついているものもいた。
「もう少しだ! 最後まで踏ん張れ!」
「いけるぞいけるぞ!」
どこのクラスも仲間同士で励まし合いながら跳んでいた。
「ほらほらぁ! これが限界じゃねえだろぉ!」
翔太は皆を奮い立たせようとそう言葉を味方に投げかける。
「おぉ!」
それに反応するように、皆声を合わせる。
「よし行くぞぉ!」
そして残り2分ほど、どこのクラスも根性勝負だと言わんばかりの表情をしながら
ラストスパートをかけて跳び始めた。
「はい。終了!」
体育委員により終了の合図が送られる。
「あぁぁぁ!」
どのクラスのどの連中も、その場に倒れこんだ。
そして各クラスの近くに立ち、回転数をカウントしていた体育委員が一か所に集まっている。
さて、俺たちは何位だ。
「順位がでました。集計の結果、一位……二組!」
「よっしゃぁぁ!」
跳んだ者も応援していた同クラスの者も、一斉に歓喜の声をあげた。
一方一位と言われなかった他クラスのメンバーは未だにほとんどが地面に倒れている。
「二位は……五組!」
「きたぁぁぁ!」
今度は五組の生徒が立ち上がり、互いに称え合っていた。
良い順位になると疲労が一時的に麻痺るのだろうか。
まだ順位を言われていないクラスの生徒の一部は、立ち上がりはしなくてもその場に座り込めるくらいまで回復している人もいた。
「三位は……一組!」
「よかったぁぁぁ!」
次は一組が立ち上がる。そして互いに褒め合っている。
「四位は――」
その後下三位が発表され、二年生の大縄跳びは終了した。
ちなみに、三位である一組までは順位が発表された後喜んで立ち上がっていたが、それ以降の発表からは立ち上がる人が減り、最下位の四組は誰も立ち上がらず、同クラスで観戦していた男子たちが言葉をかけに行くという結末を迎えた。
「体力ゼロだわ」
自分のクラスの元へと戻ってきた翔太はそう言いながら俺の前で倒れこむ。
「大丈夫か。この後はリレーが控えてるんだぞ」
「大丈夫だ。なんとかなる」
地面に顔をつけたまま、片手でグッジョブを見せつけてきた。
「そうか」
次は三年生の大縄跳びだ。
これまでと同様に最初に練習時間が与えられ、その後本番という流れだった。
唯一1,2年と異なる点と言ったら、気合いの入りようだろう。
どこのクラスも本番直前に円陣を組んでから配置についていた。
「では、始め!」
体育委員の合図で皆一斉に跳び始める。
そこから終了までの10分間、一二年とは比べ物にならないほどグラウンドは盛り上がった。
まず跳んでいる本人たちの掛け声が凄まじかった。
「引っかかったら〇すぞ!」
「死にたくなきゃ跳び続けろ!」
このような言葉が、後半から終始飛び交っていた。
そして観戦者の応援も似たように凄まじかった。
「てめえらそんなものかぁ!」
「なにスピード緩めてんだくそがぁ!」
こんな言葉から観戦位置からトラック中心に向けられていた。
跳んでないお前らが何言ってんだと思ったが、見る立場からなら面白かった。
そして競技が終わり、そこからは二年生と同様に全員その場に倒れこみ、上位に入れば歓喜の声、下位ならそのまま倒れてるという流れで今年の大縄跳びは幕を閉じた。
「これにて大縄跳びは終了します。次の借り物競争は15分後から行います。出場する人はそれまでにスタート位置で待機していてください」
15分という短い休憩が始まった……とはいえ特にすることはないので、その場で競技開始を待つことにした。
そういえば借り物競争は白川が出るんだったな。
「やぁぁお疲れ様」
目の前で倒れている翔太に、かがみながら声をかけたのは白川だった。
「お、白川か。ありがとう。借り物競争、出るんだっけ? 頑張れよぉ」
翔太はなんとも気持ちの籠ってないような言葉を白川に返していた。
「う、うん。ありがと」
白川の視線は俺へと移る。
「行ってくるね」
「ああ。頑張れ」
そうして白川は借り物競争のいスタート位置へと行ってしまった。
「借り物競争、どうなるかな」
倒れたまま翔太は聞いてきた。
「さあな。てか、はやく起き上がったらどうだ」
「よいしょっと」
そう言って翔太は胡坐をかく姿勢へと切り替えた。
頭には寝っ転がっていたせいか葉っぱが数枚くっついていた。
「頭になんかついてるぞ」
「え?」
翔太は自分の頭を触る。
「うわっ。こいつ俺の頭にくっつきやがって」
いやお前がくっつけにいったも同然だろと思いながら、翔太が葉を投げ捨てる様子を見ていた。
「てか借り物競争なんて去年までなかったよな」
「そうだな」
「どんなお題でるんだろ。好きな人とかでたらおもろいよな」
「ああ」
確かにそれは盛り上がるだろう。
でもそれがあり得るのは漫画やアニメの世界での話だ。
仮に白川のときにそれが出たら……一瞬身を案じたが、大丈夫ないだろうと思うことにした。
そうして翔太の言葉に適当に返事をしているうちに、借り物競争の時間が訪れた。
「では時間になったのでそろそろ借り物競争を始めます。ルールは――」
先ほども司会を務めていた体育委員によって借り物競争の説明が軽くなされる。
今回の借り物競争は、まず出場する人はスタート位置につき、普通の徒競走のように走り出す。
そして50メートルほど先にあるテーブル上の、お題の書かれた紙が入った封筒を一つ選び、そこに書かれたものを持ってくるといった内容だ。
各組5分という時間で行われる。
時間内にゴールできなかった者は順位無しという扱いになる。
間もなく借り物競争が始まりそうだ。
最初はもちろん一年生である。
出場する一年生がスタートラインに横一列で並ぶ。
「よーい、ドン!」
体育委員の合図で皆一斉に走り出した。
テーブルに着いた順から、封筒を選び中の内容を確認する。
「おっと! 最初に一組が引いた課題は、ひらがなで六文字の物!」
解説をしているのは、テーブル前に立つ体育委員の女子だ。話し方上手いな。
そしてお題を確認した人は次々とそれに合ったものを探しに行く。
「三組ぃ! お題は眼鏡をかけている人!」
めっちゃ簡単と思う反面、人もお題として出されることに少し動揺してしまった。
眼鏡をかけている人というお題を引き当てた人は、自分のクラスのところへ行き、眼鏡をかけた男子を連れてゴールに到達した。
「一位は三組!」
その後どのクラスも時間内にゴールし、一年生1ラウンド目は終了した。
そして後の2ラウンドが終了し、いよいよ二年生の番。
スタート位置に並ぶ人の中に、白川もいた。
「では次は二年生の借り物競争です」
司会でおなじみの体育委員によって、グラウンドを静寂が包み込む。
「よーい、ドン!」
開始の合図で皆一斉にお題求めて走り出す。
この組には男子もいたが、白川は遅れをとらずほぼ全員が同時にテーブルに辿り着いた。
「さぁ! 二年生のお題は何がでてくるんだぁ!?」
解説の女子……どんどん喋り方ヒートアップしてないか。
皆一斉に封筒を手に取り開封する。
そして全員が目の前のお題に動揺しているようだった。
「おっとぉ!? 一体どんなお題がでたんだぁ!?」
そう言って解説者は目の前の白川の引いた紙を確認した。
「ま、まさかのお題! 一組が引いたのは好きな人だぁ!」
「うぉぉぉぉ!」
会場が今日一番くらいに湧きあがった。
それもそうだ。
それを引いたのはあの学校で一番の美少女と言っても過言ではない白川なのだから。
「そしてお隣の二組が引いたのはぁ? 今日が誕生日の人ぉ!」
その後解説者によって全てのお題が読み上げられた。
他には美人な先生や身長がちょうど170センチの人など、どれも人間も連れてこなければならないお題のみであった。
鬼畜すぎだろ。
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