第23話 戦い

 1組目が走り終え、もうそろそろ2組目が走り出しそうだった。


 ちなみに遠くから1組目の結果を見ていたが、眼鏡君は組内1位になったようであった。


 最後の飴探しで周りが苦戦している中、眼鏡君は一瞬で飴を探し出し、ゴールラインを超えていた。


「では2組目の障害物競走始めまぁす」


 他のクラスもスタート位置に並び、いよいよ始まるといったかんじだ。


「位置について……よーい、ドン!」


 体育委員の合図で、2組目の俺たちは一斉に走り出す。


 まずは大きな網を潜る。

 昨日と同様、四隅を体育委員が押さえている。


 ほぼ同時に全員が網の下に入る。


 昨日はさほど苦労せず潜り抜けることができた。


 そして、今回もさほど変わらない速度で網ゾーンを突破できた。

 今のところは一位だ。


「うぜぇぇ!」


 昨日と同じような声が後ろから聞こえてきた。


 気にせず次なるギミックへと向かう。


 次も昨日クリアしたピンポン玉をスプーンで運ぶやつだ。


 テーブルに並べられたスプーンとピンポン玉を手に取る。

 心なしか昨日よりスプーンが小さくなっている気がする。


 スプーンにピンポン玉をセットし、俺は早歩きで進む。

 ほぼ同時に3,4人も俺の後ろに続いた。


 ここもトップで通過できるかと思った。

 だが風の影響で、ピンポン玉は落下してしまった。


 急いで拾い上げ、ゼロから再チャレンジする。


 どうやら後ろにいた人全員も同じ被害に遭ったようだ。


 そして2回目は落とすことなくクリアできた。


 しかしトップではなくなってしまった。

 7人全員がほぼ同時にここを突破した。


 一斉に次のギミック目掛けて走る。


 そして今回初登場の段ボール前まで来た。


 俺たちはその中に入り、ハムスターのように手と足をつかい、段ボールを回転させながら前進する。


 途中、勢いが良すぎたのか、俺の少し前にいた男子はバランスを崩し、下半身が段ボールからはみ出ていた。


 俺はそいつを抜かし、再びトップへと君臨する。


 なんとか段ボールコースを終え、次なる平均台へと足をかける。


 ここは特に懸念点もなく、さっさとクリアできた。


 最後は運ゲーのような気がする飴玉探し。


 7個の箱が横一列にテーブル上に置いてあった。


 どれを選んでもいいようなので、一番近い真ん中の箱を選択する。


 少し躊躇いつつも、俺は小麦粉の中に顔を突っ込む。

 顔を動かしまくって飴を探すも、なかなか見つからない。


「あったぁ!」


 横から女子の声が聞こえてきた。


 目では見えないが明らかにクリアした様子だ。


「きたぁ!」


 今度は逆方向から女子の声が聞こえた。

 おいおい。絶対勝てると思った女子二人がツートップかよ。


 そんなことを考えていると、唇に固い感触が伝わった。

 迷わずそれを口の中に捉え、俺もゴールする。


 どうやら俺は組内3位らしい。

 その後他の男子もゴールし、二組目は終了した。


 それにしても自分の顔が気になる。

 他のクラスのやつは顔が真っ白だ。


「よ、吉田君。お疲れ様」


 顔を洗いに行こうとすると、先ほどの眼鏡君が声をかけてきた。

 なんとこいつの顔はほとんど走る前と変わっていない。


 口周りが少し白くなっているくらいだ。


「ああ。お疲れ……一つ聞きたいんだが、俺の顔今どうなってる?」


「目以外真っ白だよ。なんかホラー映画にでてくるあの子供みたい」


 若干微笑みを浮かべながら、眼鏡君は俺の現状を教えてくれた。


「そうか。ありがとう」


 俺は礼を述べ、水道へと向かった。


 水道に到着し、蛇口を捻る。

 そこまで冷たくない水が出てきた。

 手に取り、顔を洗う。


 ハンカチもタオルも持ってないため、Tシャツで濡れた顔を拭こうとした。


「だめだよそれで拭いちゃ」


 後ろから声をかけられた。

 相手はもちろん白川だ。


「これ使ってよ」

 

 そう言って白川は俺にハンカチを渡した。


「いや流石に悪い……」


「いいからいいから」


 そうして白川は持っていたハンカチを俺の顔に押し付けた。


「はい。これで吉田君が使うことになるね」


「はいはい」


 俺はハンカチを自らの手に取り、しっかりと顔を拭いた。


「ありがとな。洗って返すよ」


「うん。ていうか見てこれ!」


 白川はスマホを取り出し、一枚の写真を見せつけてきた。


 そこに写っていたのは、つい数分前までの俺だった。

 顔は真っ白である。

 どうやら俺がここに辿り着く前に盗撮されたらしい。


「この顔、これで見納めなんてもったいないからね」


「おい。消せ……とは言わないが他の奴には見せるなよ」


「もちろん! 私だけのものだもん!」


 白川は自慢げに言いながらスマホをポケットにしまった。


「他の奴の結果はどうなった」


「吉田君のあと二人走ったけど、5位と3位だったよ。あと三人で決まるね」


「そうか」


 少なくとも昨日のような結果にはならなそうだな。


「じゃあ俺はおさらばさせてもらうよ」


「ん? どっか行くの?」


「ああ。翔太がサッカー見に来い見に来いうるさいからな」


「あぁ。サッカーあと一回勝てば一位かぁ」


「そうだ。だからまた後でな」


「うん。じゃあ私もサッカー見に行こ!」


「付いてくる気か」


「もちろん……なんてね。私は他の子といくよ。吉田君私と仲良くしてるところ見られるのまずいもんね」


「助かる」


 そうして俺は近くで行われているサッカーを見に行った。


 コート近くに到着。

 目の前の試合より、点差を確認する。


 2:3。


 5組が一点リードしていた。

 そして試合の残り時間は3分弱であり、既に後半戦だった。


「諦めんなよてめえらぁ!」


 翔太が味方を鼓舞し、再度1組は気合を入れなおした。


 ボールは1組の足元にある。


 そして攻めの態勢に入った。


 翔太とサッカー部の男子一人を軸に、敵陣へと切り込んでいく。


 そしてなんとかゴール前まで到達した。


「いけぇ!」


 歓声も昨日より盛り上がっている。


「頼んだ翔太!」


「おう!」


 守りが薄い位置にいた翔太にボールが回ってくる。

 そしてボールはゴール目掛けて飛んでいった。


 しかしキーパーの立っている位置が近いということもあり、ボールは片手でぎりぎり止められてしまった。


「くそっ!」


 思わず口にこぼす翔太。


 ボールを止めたキーパーはすかさずボールを高く蹴り上げる。

 今度は5組の攻撃の番だ。


 あっという間にボールはゴール手前までやってきた。


 1組のキーパーは再度体勢を整える。


 5組の男子が思い切りボールを蹴った。

 そしてそれはあと数センチといったところでキーパーの手を逃れ、後ろのゴールへと飛んでいった。


 一点だった点差が二点に開く。

 試合はあと2分ちょっと。

 逆転は絶望的だ。


「頑張れぇ!」


 一人の女子の応援が聞こえた。

 声のした方向へと視線を移すと、声の主が白川であることがわかった。


「そうだよまだ終わってないよぉ!」


 白川の隣にいる女子も続いて応援する。


 応援によって励まされたのか、一度諦めそうな雰囲気が漂っていた1組に、再び闘志が燃え始めているのを感じた。


「まだ終わってない。こっから逆転すっぞぉ!」


 翔太が再びチーム全員を鼓舞する。

 そしてキーパーがボールを蹴り上げ、試合が再スタートした。


 そこからの2分間。

 1組がひたすら攻め、5組は状況を察してか守備に徹するというかたちをとっていた。


 1組が一点を取り、開いていた点差が再び一点に戻った。

 しかしそこから点は入らず、結果は5組の勝利となった。


 これで俺たち1組には5点が入る。


「負けちまったわぁ」


 礼を終え、出番が終了した翔太が俺の存在に気づきこちらに来た。

 昨日同様首にはタオル、手にはスポーツドリンクがあった。


「見てたから知ってる」


「なっ!? 昨日も聞いたセリフ!」


「お疲れ様。負けたけど5点入った思えばいいだろ」


「まあそうだけどよ。折角なら勝ちたかったじゃん」


「それもそうだな。その気持ちをリレーにぶつければいい」


「だな! あ、俺大縄跳びもあるじゃん……」


 確かに本人の言う通りだ。

 翔太はリレーだけでなく大縄跳びにも出場すると、自ら選手決めの際手を挙げていた。

 どう考えてもお前帰宅部じゃないだろ。頼むから何か運動部に入ってくれ。


「どっちも頑張れ」


 不満は心の中で終わらせ、一応応援しておく。


「おう!」


 そして俺たちはグラウンドを後にした。


 玄関で靴を履き替え、ホールにある結果表を見に行った。


 結果は更新されており、昨日の障害物競走に加えて今日の障害物競走とサッカーとバスケの結果が書かれていた。

 バレーはまだのようだ。


 サッカーとバスケの結果は知っているため特に注視しない。


 気になる今日の障害物競走競争の結果を見る。


 俺たち1組には4点が入っていた。

 つまり3位だったいうことだ。


「お、昨日よりいいじゃん」


 同じところを見ていたのか、横にいた翔太がそう言ってきた。


「そのようだ」


 自分が組内一位だったらどう変わったのか、はたまたこのままだったのか少し気になったが、どうでもいいやと思い俺たちは教室へと帰った。


 教室には半分ほどのクラスメイトがいた。


 もう少しで昼休憩に入る。


 いないのはバレーに出る人とそれの応援くらいだろう。


 自分の席に着き、特にやることも無いのでそのまま少しだけ寝ることにした。


 ――30分くらい寝ただろうか。


 クラスメイトは昼食を食べていた。

 いつの間にか全員揃っているようだった。


「お、起きたか。あと30分くらいで全員グラウンドに移動だぞ」


 後ろで昼食をとっていた翔太から教えられた。 


 流石に何も食べないのはあれだなと思い、財布片手に購買へ行き、焼きそばパンを買った。

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