第22話 二日目

 ハーフタイムを終え、いよいよ後半戦が始まろうとしていた。


 点差は一点。

 俺と翔太が体育館に来たときから変わっていない。


 両メンバーがそれぞれのポジションにつく。

 

 ボール先制決めのジャンプは、白川とあのバスケ部だった。


 開始のホイッスルと同時に、間に立っていた体育委員である女子がボールを垂直に上に投げた。


 二人はほぼ同時に跳んだ。


 しかし僅差で白川は負け、ボールは二組側へと転がっていく。


 それを拾い上げた女子は、すかさずボールをあのバスケ部にパスする。


 受け取ったバスケ部の前に、当然白川は立ち塞がった。


 ボールをバウンドさせつつ、バスケ部女子は抜くタイミングを探っているようだった。

 白川はボールに手を近づける。


 しかし、待っていたぞというかの如く白川は抜かれてしまった。


 それでも白川は負けじと女バスを追いかける。

 そして追いつきそうになったタイミングで、ボールは後ろにいた二組の違う女子に渡った。


 白川の視線はそのボールを追いかけていた。


 その間に、女バスはリングへと近づく。


 しまったといった様子で白川も走り出す。

 しかし間に合わない。


 そして再びボールは女バスに渡った。

 そのままシュートを放ち、ボールはリングを通過する。


 19:22。


 くすぶっていた点差が動いた。


 リング近くにいた女子がボールを拾い、白川にパスする。


 ボールをキャッチした白川はこれまでよりもはやい動きを見せ、点を取らんと走り出した。


 そこからの試合は凄かった。


 白川が点を取れば、女バスのあいつが点を取り返しに来る。

 逆に女バスのあいつが点を取れば、白川が点を取り返しに行くといったことの繰り返しだった。


 そして試合は佳境に入る。


 48:47。

 点差は一組が一転リード。


 残り時間10秒。


 ボールはあの女バスに渡った。

 それを止められる人はいなく、スリーポイントシュートが放たれる。


 美しい軌道を描いたボールは、リングにあたることなく中心を潜り抜ける。


「うぉぉぉ!」

 

 会場が一気に盛り上がる。


 そしてこちらのリードが相手チームのものになった。


 試合はあと7秒ほどで終了する。


 白川はコート中心よりやや自陣側にいた。


「茜ちゃん! お願い!」

 

 ボールを拾った女子が、すかさず白川にパスする。


「これを止めたら勝ちだ!」


 シュートを決めるために敵陣へと切り込んでいた女バスのあいつは、白川に辿り着けそうになかったため、後ろにいた味方に言葉で喝を入れる。


 3人が白川の攻撃を止めようと動き出した。


 残りあと3秒。


 白川は思うように進めない。

 もう時間的にゴールまで到達するのは不可能だ。


 白川もそう思ったのか、目の前の敵から少し距離をとり、素早かったドリブルもゆっくりになる。


 しかし俺の考えは間違っていたらしい。


 次の瞬間、白川は野球ボールを投げるかのように、片手で思い切りバスケットボールをリング目掛けて投げた。


 ボールは大きく宙を舞い、リングに近づく。


 その間に試合終了の音が鳴り響いた。


 あとはこれが入れば……。


 ボールは一度ゴールの板にぶつかる。

 そして反射し、それはリング中心を通過した。


 タイマー計に表示されていた点数が変わる。


 51:50。


 生まれて初めて、生でブザービーターなるものを見た。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 先ほどとは比べ物にならない歓声が体育館を振動させる。

 男子バスケを観ていた者も、挙句の果てには男子バスケにでていた選手でさえこちらのコートに注目していた。


「おぉ! やったなぁ!」


 横にいた翔太が俺の肩に手を回しながら喜んでいた。


「あ、ああ」


 翔太だけじゃない。

 目の前の結果に、誰もが驚き、一組と思われる人たちは喜んでいる。

 反対に二組と思われる人たちはまだ現実を受け入れられていないような様子だった。


「試合は終わった。教室に戻るぞ」


「お、おう」


 俺は翔太にそう言い、二人で教室へと戻った。


 教室には先ほどよりも多くの生徒がいた。

 女子バスケの試合が終わった段階で、俺たち一組の今日の出番は終了した。


 席につき、翔太の女子バスケの感想を一方的に聞かされていると、その女子バスケにでていた女子たちが教室に戻ってきた。


「見てたぞ白川! まじぱなかったな!」


「茜ちゃん流石だよ!」


 教室中の人間が白川の周囲に集っている。


 確かにあれほどの活躍をしたらこうなるのは当然か。

 無論俺は机から離れることなく、その様子だけを窺っていた。


 数分その盛り上がりは続き、それが終了すると白川は自分の席に座った。


 多分来るだろうなと思い、俺はスマホを起動し待機する。


『私の活躍見てた?』


 案の定、白川は俺にメッセージを飛ばしてきた。


『ああ。凄かったな』


『でしょ! 明日も頑張るから見に来てね♡』


『わかった』


 最後のハートが気になるが、普通に結果は気になるので見に行くと約束しておく。


 その後特にイベントは無かった。


 一日目の種目が全て終了した段階で、霧島先生が教室に戻り、帰りのホームルームを行った後、解散というかたちになった。


 ☆


 体育祭二日目。


 今日も制服で登校し、各自着替えてからスケジュールに沿って動くといったかたちだ。

 昨日と違うのは開会式が無い分、種目の開始が若干はやいといったところくらいだろう。

 その分閉会式があるため順番が変わっただけといったらそれまでなのだが……。


 そして今日の俺の出番は、二回目の障害物競走とリレーだ。


 リレーは最後に行われるためまだ特にすることはない。


 障害物競走は昨日同様11時くらいから開始だった。


 現時刻は9時半。

 まだ暇だな。


「なあ悠。女子バスケの試合っていつからだっけ?」


 同じく教室で暇していた翔太が質問してきた。

 サッカーは俺と同じ11時頃から始まるらしい。


「確か10時くらいなはずだ」


 昨日寝る前に白川に聞いておいた時間を伝える。


「あと30分くらいかぁ。先に行って他のクラスの試合でも見てねえ?」


「そうだな」


 教室にいても暇なので、俺たちは一足はやく体育館に向かうことにした。


 体育館に入り、隅の方に俺たちは座ろうとした。

 どうやら今行われているのは一年生の試合らしく、周りは見たことがない顔ばかりだった。


「ま、教室にいるよりはましだろ」


「ああ」


 床に尻をつけると同時に翔太は言った。


 そこから特に俺たちは喋ることなく、ただ時間の経過を待った。


 約30分後。


 一年生の女子バスケの試合が全て終了し、二年生の試合が始まろうとしていた。


 最初の試合は昨日白川たちが戦った二組と、三組だった。


 白川と白熱したバトルを繰り広げた女バスのあいつもいた。


 程なくして試合が始まった。


 ――約10分くらいが経過した。


 試合は2組の勝利で終わった。

 両チームともバスケ部がいたが、昨日のような追って追いかけられてといったような展開にはならず2組の優勢が続き、それを止められず3組の負けといった試合になった。

 これで2組は2戦1勝。

 3組は1戦0勝。


 このあとの1組対3組で順位が決まる。


 1組が勝てばそのまま順位がつくが、3組が勝てば勝利数が並ぶため、あの運ゲーが行われることになる。


 気がつけば、周囲は観戦者で満ち溢れていた。

 そしてコート内の人間が入れ替わり、1組と3組の試合が始まろうとしていた。


 両チーム皆自分のポジションに着く。


 今までと同様の形式で、試合が始まった。

 

 最初のボールは1組が手にした。

 そしてそれは白川に渡る。


 やはりそう来たかといった顔で、3組は白川をマークする。

 

 しかしそれは効かないといった様子で白川は攻める。


 そしてあっという間に最初の点数が1組に入った。


 そこからは白川を止めることが出来ず、俺が昨日一回目に見た試合と同じような状態が続いた。


 ――そして試合終了のブザーが鳴る。


 60:32。


 1組の圧勝というかたちで2年生女子バスケットボールは終了した。


「これで6点か!」


 横にいた翔太が驚いている。


 確かにこれで俺たち1組には6点が入ることになる。


「よし。俺も勝たなきゃな」


 勝つというのは、サッカーのことだろう。


「グラウンド行くぞ! 悠!」


 腕を引っ張られながら、俺たちはグラウンドに向かった。


 コートでは、昨日翔太たちの対戦相手であった6組と、この後翔太たちが戦う予定である5組の試合が行われていた。


 点差は3点。

 5組がリードしている。


「手強そうだな」


 翔太が5組に対してであろう、感想を述べている。

 俺もそう思った。


 だが5組はこの後連戦。

 体力面では大きなアドバンテージがこちらにある。


「まあいけるんじゃないか」


 俺はなんの根拠もない言葉をかける。


「やるしかねえな」


 その調子だと思いつつ、俺は目の前のサッカーではなく、横の障害物競走のコースへと視線を移した。


 昨日と若干変わってるな。


 ギミックが昨日と少し異なる部分があった。


 最初のハードルは無くなり、いきなりあの大きな網だった。

 次はスプーンとピンポン玉。


 そしてその次は、丸く人が入れるようにカットされたダンボールが置いてあった。

 中にはいってハムスターのようにくるくると回転させながら進むあれだ。


 その次は昨日もあった平均台。


 そして最後も新ギミック、飴玉探しだ。

 小麦粉の中に埋もれた飴を口で探して食べるという……どうしても顔が白くなり目立ってしまうあれだ。


「まじかぁ」


 思わず声に出してしまった。


「何がだ?」


 意外と小声のような気がしたが、聞こえてのか翔太は聞いてきた。


「いや、なんでもない」


「そうか。お、そろそろ決着つきそうだぜ」


 再度目の前の試合に注目する。

 点差は変わらず3点。


 そして試合終了のホイッスルが鳴る。


 気づけば1組の他のサッカーメンバーが近くに集まっていた。


「じゃあ行ってくるわ!」


「ああ」


 そうして翔太はチームに合流し、試合の準備を始めた。


 俺も自分の出る障害物競走のスタート地点に向かう。

 

 メンバーは昨日と全く変わっていない。

 そりゃそうだ。

 2日間とも同じ人が出るのだからな。


 変わるのは出場順だ。

 昨日俺は最初だったが、今日は……。


 近くにあるホワイトボードで順番を確認する。


 ……2番目か。


 昨日とさほど変わらない2番目のようだ。


 そして一緒に走るのは……俺含め男子5人女子2人となっている。


 なんか申し訳ないな。

 まあ男女比が定められていない種目なのでこうなるのは仕方がないっちゃ仕方がないのだが……。


 他の組を見てみると、男子1人女子6人という組もある。


 とりあえず1番目ではないので、スタートから少し距離をとって待つことにした。


「ではそろそろ二年生の障害物競走2回目を始めようと思います。1組目の人はスタートラインに並んでください」


 体育委員の指示で男女7人がスタート位置につく。

 その中にはあの眼鏡君もいた。


 頑張れよと心の中でエールを送っておく。


 そして体育委員の合図で、1組目の競争が始まった。


 次は俺の番なので、自分もスタート位置に向かおうとした。


「吉田君」


 耳元で、小声で名前で呼ばれる。


「うぉ! 白川か」


 少し驚いてしまったものの、一瞬で平静を取り戻す。


「暇だから見に来ちゃった」


「そうか」


 周囲が俺たちの会話に気づいていないことを確認しつつ返答する。


「次吉田君の番? 頑張ってね!」


「ああ」


 そして白川は同クラスの他の女子の元へと話しかけに行った。

 まったくすごいな、あいつのコミュ力は。


 白川との会話を終えた俺は、今度こそスタート位置に並んだ。

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