第21話 才能

 いつも通り購買で焼きそばパンを調達し、教室でそれを食べた。


 午後の種目は13時半くらいから始まる予定だ。


 開始まで、もう間もなくだ……とはいっても、今日の俺の出番は既に終了しているわけだが。


「よし悠。午後こそは俺のサッカー観に来いよ」


 後ろから声を掛けられる。

 

「わかった」


 確かに、午前は見といてやると言っておきながら、白川の試合を観に行ってしまったからな。


「じゃあ一緒にグラウンド行こうぜぇ」


「ああ」


 俺たちは二人でグラウンドへ向かうことにした。


 玄関に着くと、近くのホールが何やら騒がしい。


「そういや、ホールには各種目の結果が記載されてんのか」


 同じくホールの様子に気づいた翔太がそんなことを言った。


「そうだな。でも障害物競走以外は明日にならないと結果は出ないはずだ」


 一日目の障害物競走は今日で終わるため順位が出る。

 しかし他の種目については、明日にならないと順位がつかないため結果はでない。


「俺たちのクラス何位だったんだろ。ちょっと見に行こうぜ」


 半ば強制的に、俺の出た障害物競走のクラス順位を見に行く。


 地味に多い人混みを掻き分けながら、結果表の前に辿り着いた。


「……さ、最下位か」


「そのようだ」


 一日目の障害物競走、俺たち一組は学年最下位だった。


「これはサッカーで取り返すしかないな」


「頼んだ」

 

 一応明日も障害物競走は行われる。

 でもあまり期待はできないな。

 メンバーは今日と同じで変わることはない。


 翔太の言う通り、ここは他の種目に任せることにしよう。

 

 結果を確認し終え、今度こそグラウンドへ向かった。


「翔太ぁ。遅いぞ」


 サッカーのコートに着くと、既に翔太以外のメンバーは揃っているようだった。


「んじゃ行ってくるわ」


「ああ」


 そして翔太はチームの元へと走って行ってしまった。


 俺は部外者なので、コートのラインから少し離れたところで観戦することにした。


「頑張れぇ!」


「勝てよ!」


 ここもバスケの時と同様、応援する人や観戦する人が多い。

 障害物競走だけレべチ過ぎないか……まあ俺としてはその方がやりやすいのだが。


 翔太の到着により、間もなく試合は始まりそうだった。


 両チーム鉢巻きと同色のベストを身につけ、向かい合い一列に並んでいる。

 相手はオレンジ色だった。

 

 確かオレンジは6組だったろうか。


「ではこれより1組対6組の試合を始めます。礼!」


 体育委員と思われる男の言葉により、両チーム一礼する。

 そして各々自分のポジションへと走っていく。


 どうやら翔太はフォワード、攻撃役らしい。


 全員がそれぞれのポジションに着き、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。


「行くぞぉ!」


 最初に翔太にボールが回される。

 そして翔太を含めた前線4人ほどを主軸に、一組はゴール目指して前進し始めた。


 これは俺の偏見かもしれないが、サッカーはバスケとかバレーみたいにそこまで技量の差が出るスポーツではない気がする。

 故に、体育祭のような素人同士の試合の場合、勝敗を分けるのは個人の走力や体力、体格のようなものであると思っている。


 そんなことを考えているうちに、一組はゴール手前まで到達していた。


 そして今足元にボールを構えているのは翔太だった。

 しかし目の前は塞がれている。


「翔太!」


 近くにいた、比較的周囲が空いているチームメンバーが、翔太に声をかける。


「頼んだ!」


 ボールは翔太から離れ、その声の主の元へと飛んでいく。


 そいつはボールを上手く捉え、ゴール目掛けて思い切り右足を振った。

 

 ボールはキーパーに止められることなく、ネットにあたる。


「よっしゃあ!」


 チームメンバーも観戦者も、皆一斉に盛り上がる。


 試合が始まり、30秒足らずで得点が入るのは凄いのではなかろうか。

 流れはこちらにきたように感じる。


 一方開始早々点を許してしまった相手チーム、6組のキーパーはすかさずボールを拾い上げ、遠くの見方目掛けて高くボールを蹴り上げた。

 

 上に凸の放物線のような軌道を描き、ボールは6組の男子に渡った。


「いけいけぇ!」


「守備ぃ!」


 両クラスの応援がいっそう盛り上がっている。


 6組側がボールを操りながら、1組のゴール前に到達した。


 躊躇うことなく、ボールはゴール目掛けて蹴られる。


 しかしそれは先ほどとは違い、キーパーによって受け止められた。


「おぉ!」


 同じくらいだった声量が、今度は若干1組の方が大きいような気がした。


 その後1組が攻めにつけこみ、6組は守りに徹してあまり攻撃が繰り出せないといったかたちで前半の試合が展開されていった。


 流れはこちらにあるので間違いなさそうではあったが、最初の一点以外は特に点が入ることはなく、一組が1点リードというかたちで前半戦は終了した。


 ハーフタイムに入り、両チーム一旦休憩を挟む。


「どうよ。俺たちの活躍」


 ドヤっといった様子で、スポーツドリンク片手に翔太はこちらに近づいてきた。

 ただ息切れが周囲と比べて凄い。


「やるじゃないか。ただまだ前半だ。後半の体力は残っているのか」


「そこなんだよ。皆サッカーじゃなくても運動部の奴多いんだよな」


 いくら身体能力の高い翔太とはいえど、体力面はどうしようもない。

 俺もこいつと同様帰宅部だ。気持ちは理解できる。


「まあ頑張れ」


「おうよ!」


 そしてチームの元へと翔太は帰っていった。


 程なくして後半戦が始まった。


 今度は6組からボールが動き出す。

 しかしゴール前に到着する前に、それは1組に奪われてしまった。


 そこからは前半同様に1組が攻めまくり、6組はなんとか守り続けるといったかたちが続いた。


 そして残り時間1分を迎える。


「行け! 翔太!」


 ゴール前にいた翔太にボールが回ってきた。

 加えて目の前には、キーパー以外守備する者がいない。


「おらっ!」


 翔太は思い切りボールを蹴る。


 ボールはゴール中心よりやや横気味に飛んでいった。


 キーパーはそれを止めようと動き出す。

 しかし指先には触れたものの、停止させることは出来ず、そのまま点を許してしまった。


「おぉ!」


 会場がさらに湧き上がる。

 残り1分弱、得点差は2点になった。


 余程のことがない限り、1組の勝利は堅いだろう。


「ま、まだ諦めるな!」


 6組の攻撃に徹していた男がチームを鼓舞する。

 同時に再び試合が始まった。


 しかし漫画やアニメのような展開が起こるはずもなく、無失点で1組は勝利した。


 試合を終えた両チームが開始前同様一列に並ぶ。


「2対0で1組の勝利。礼」


 結果が改めて口頭により伝えられる。


 そして礼を終え、解散になった。


「お疲れぇ」


「おう」


 皆チーム内で互いに言葉を交わしている。


「勝ったぜ!」


 翔太は首にタオルを巻きながら俺の元へと結果を報告しに来た。


「見てたから知ってる」


「そ、それもそうだけど……」


 俺の言葉を予想していなかったのか、会話が一瞬で止まった。


「まあお疲れ、明日勝てば一位だな」


「おう。絶対勝つから応援頼むぞ」


「要検討だな」


「いや、必ず来させる」


「待ってる」


 謎の会話を終え、俺たちは教室に戻ることにした。


「てか他のとこはどうなったんだろな」


 玄関で靴を履き替えていると、翔太はふとそんなことを言い出した。

 同時に、俺は白川から試合を観に来てくれてもいいと言われていたことを思いだした。


「そうだ! 女子バスケ観に行かね? 白川どんだけなのか気になる」


 閃いたといった様子で翔太は提案してくる。


「そうだな」


 自ら言い出さなくてよくなったことに感謝しつつ、誘いにのる。


「確か第二体育館だったよな。よし行こう」


 靴を履き替え、俺たちは教室から第二体育館へと目標地点を変更した。


 体育館に入ると、午前観に来た時とは比べ物にならないほど場内は盛り上がっていた。

 先ほどと同様、こっちの入り口側で女子バスケ、ステージ側では男子バスケの試合が行われている。

 俺はタイマー計を見る。


 一組対二組。

 19:20。


 点差はほとんど無かった。

 あと一分足らずで前半戦が終了するといった様子だ。


「お、翔太! こっちこっち」


 先ほどサッカーでも見かけた記憶のあるクラスメイトの男子が、翔太に隣に座れと言わんばかりに声をかけていた。


「座ろうぜ悠」


「ああ」


 俺のことは座れと言った相手に含まれていない気もしたが、丁度二人分くらいスペースがあったので有難く座らせてもらうことにした。


「どんな状況だ?」


 座るや否や、翔太は隣のクラスメイトに質問する。


「すげえよ」


「白川か?」


「ああ。二組には女バスで強いやついんのに、白川それにくらいついてんだよ」


「まじか。あいつ部活なんもやってないよな?」


「噂じゃ、小学校中学校時代バスケをやってたらしい」


 それは事実だな。


「なるほど、でも現役でバスケやってるやつとそこまで戦えるって……」


「そうだな……って噂をすれば」


 クラスメイトは会話を止め、観戦に集中し始めた。

 

 同タイミングで、ボールは白川に渡った。

 そして敵をかわしながらリング真下に辿り着く。


「いけぇ!」


 それにしても周囲の応援の声量が凄い。


 白川はお得意のレイアップをしようと軽く地から足を離してボールを上にあげる。


 入る!


 俺はそう思った。


 しかしあと少しといったタイミングで、ボールは白川の手から離れてしまう。

 それはリング方向ではなく、床へと落下していった。


 白川のシュートを止めたのは黒髪ショートの女子だった。

 どことなく梨花と似ているような印象を受ける。


「うわぁ! いったと思ったのに」


 横で翔太が言った。


「さっきからずっとあの二人が争ってんだよ」


「あいつって、お前の言うバスケ部だよな?」


「そうそう。札幌の選抜メンバーにも選ばれているらしいぞ」


「まじかよ。そんな相手に白川のやつ……」


 翔太とクラスメイトの会話を聴いていて思う。

 やっぱり白川は身体能力の才能が凄まじいのだということを。


 ルックスもいいし運動もできる。

 頭は……まあ、この高校に入れた地点で悪くはないだろう。


 もういっそのこと白川の方が最強主人公向いてんじゃねと思ってしまうほどだ。


 そんなことを考えているうちに、前半戦が終了した。


 

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