第9話 プリント倶楽部
それから色々と店を回っていたが、基本的にすべて洋服屋だった。
俺がプライベートでパーカーしか着ないことを知った白川はそれではいけないと思ったらしく、今に至る。
「んーこれかなぁ」
白川は気になった服を俺に合わせて評価をしているらしい。
「なんか違うなぁ」
どうやら駄目だったらしい。
緑色の少しダボっとしたスウェット……俺はまあまあ良いと思ったが、折角現役女子高生でこんなに可愛い子が服を選んでくれているのだからと全て任せることにする。
白川は手に取っていたスウェットを元に戻す。
「気になるのがあったら全然試着とかしていいんで! サイズとかも言ってもらえればお出ししますよ」
店員であろうイケイケなお兄さんが声をかけてきた。
「ありがとうございます」
白川は笑顔で返す。
これもあり俺は服屋というのが苦手だ。少し店に入っただけで声をかけてくる。
だからパーカーとだけ決めて、すぐに買って店をでるというのがこれまでだった。
「あ、でもこの色ならいいかも!」
そう言って手に取ったのは同じ柄のスウェットだった。
先ほどのものと違うのは色だけだった。
今度は青色である。
「ねえねえ。これ試着してみてよ!」
そう言ってスウェットを渡される。
「お、試着しますか?」
先の店員が話しかけてきた。
「はい。します!」
返答したのは俺ではなく、白川だ。
「どうぞどうぞこちらへ」
そうして半ば強制されたようなかたちで店の奥へと案内された。
試着を終えた俺は試着室の扉を開け、白川に見せる……その横には店員もいるが……。
「おお! 今日の中で一番似合ってる!」
「サイズ感とかは大丈夫ですか?」
「はい。特には……」
「よかったです」
一瞬俺たちの間に沈黙が流れる。
しかし白川がすぐに破った。
「あの、これに似合うズボンとかってあります?」
白川は店員に聞いた。
「そうだなあ……ちょっと待っててください!」
そうして店員はどこかへ行ってしまった。
「すごい似合ってるよ。吉田君!」
「そうか」
鏡で確認する。
確かにこれまで着てこなかった系統の服だな。
程なくして、店員が一つのズボンを持ってきた。
「これなんかどうですかね」
そう言って渡されたのは白いズボンだった。
ワイドパンツというらしく、名前の通りけっこうワイドでダボっとしている。
「着てみます」
そうして試着を終え、再び白川に見せる。
「はぁー」
白川は完全に見惚れているような様子だった。
それもそうか好きな人が自ら選んだ服を着ているのだからな。
「どう……ですか?」
店員が聞いてきた。
「いいかんじです」
俺は思ったことを伝える。
「これください!」
白川がそう言った。
「ありがとうございます!」
決めるのは俺じゃないのかと思いつつも、ここまで真剣に選んでくれたのだからいいかとも考えていた。
とりあえず脱いで自分の元々着てた服に着替えようとした時だった。
「あ、あとこのまま着ていくことって可能ですか?」
白川は店員に聞いた。
「はい。大丈夫ですよ。少々お待ちください」
そう言って再び店員はどこかへ行ってしまった。
白川は相当今の服装を気に入ったらしい。
まあ確かにパーカーより似合っているのは認める。
俺は閉めようとしていた試着室のドアを閉めずに待つ。
「すいません。先にタグ取っちゃいますね」
そう言って店員は持ってきたはさみで俺が着ている服とズボンから値札のついたタグを切ってくれた。
「では会計はあちらで」
俺たちはレジへと案内される。
店員は先ほど切り取ったタグに付いているバーコードを読み取っていた。
俺はその間に財布をポケットから取り出そうとした。
「私がだすよ」
白川は俺の手を止める。
「いや、でも……」
「私がプレゼントしたいんだ」
「いいのか」
「うん!」
「分かった」
女子にこんなに支払わせていいのだろうか。いや……絶対駄目だろと思いつつ、ここで否定してもこいつはめげないと思い、良心に甘えることにした。
「合計で〇〇〇〇円になります」
「これでお願いします」
「お、彼女さんから彼氏さんへプレゼントですか?」
支払いをしたのが俺ではなかったからだろうか。店員が聞いてきた。
「は、はい! そうなんです!」
照れ臭そうに白川は答えた。
実際は違うが、別に相手は学校の人間でもないので特に俺は何も言わない。
「ラブラブですねぇ。では一万円お預かりします……あ、元々着てた服……袋に入れていきます?」
「はい。お願いします」
鞄とかは持っていなかったので頼むことにした。
「ではまたお待ちしております!」
会計を終え、俺たちは洋服屋を後にする。
俺の片手には今日着ていた服とズボンが入った袋がぶらさがっている。
「ありがとな」
「いいよいいよ。私は自分の買った服を吉田君が着てくれてるっていうのが嬉しいからさ」
「そうか」
この礼はいつか必ず返そうと思いながら歩いていた。
俺の服探しで一時間くらいが経過していた。時刻は12時をまわったところか。
「お腹減ってきたねえ。吉田君朝食べた?」
「いや、食べてない」
寝坊したとは言わない。
「私も。何か食べたいものとかある?」
「いや、特には……」
「えぇ。つまんないなぁ。何か言ってみてよ」
「じゃあ……ラーメン」
パッと思いついたのがラーメンだった。
理由はそれだけだ。
「いいねえ。じゃあ昼はラーメンにしよう!」
「わかった」
「あ、でも今丁度お昼時かぁ。もう少しどこかで時間潰してからにしない? 少しでもすいてた方がいいよね」
「そうだな」
「じゃあゲーセン行こう!」
そう言って白川の歩く速度が少し上がった。
俺もそれに合わせてついて行く。
ゲーセンに到着。
札幌駅にはゲーセンが一つしかないためとても混んでいた。
「よし。最初はどうしよっか」
「ついて行くぞ」
「では最初はあれだな。ついてきたまえ吉田君よ」
謎にノリが良い白川。
そうして向かったのはクレーンゲームコーナーだった。
白川はあるクレーンゲームの前で立ち止まる。
景品は現在流行っているバトルアニメの男主人公のフィギュアだった。
「よしこれ取ろう!」
そう言って白川はお金を入れる。
ボタンを押すと同時に、アームが動き始める。
アームは景品の上をしっかりと捉えた。
そして下降し始める。
狙い通り、アームは箱の中心をしっかりと掴んだ。
しかしバランスが崩れてしまい、持ち上げる途中で景品は落下してしまった。
「くそぉ。駄目かぁ……もう一回っ!」
白川は再度お金を投入しようとする。
「俺に貸してみろ」
「う、うん」
俺は代わりに機械の前に立ち、自らのお金を入れた。
「頑張れ吉田君!」
横で白川に応援されながら、俺はボタンを押す。
偉そうに変わったものの、特に作戦があるわけではなかったので、白川と同じように景品の真上でアームを止める。
再びアームは景品の中心を捉えた。
今度も落下した……しかしそれは獲得口の上での話だ。
「凄い吉田君!」
ゲットした景品を俺は手に取る。
「やるよ」
「え、いいの?」
「ああ。俺は既に持ってるからな」
「あ、ありがとう!」
そう言って俺は白川に景品を渡す。
ちなみに俺がこのフィギュアを本当に持っているかどうかは察してくれ。
白川は近くにあった景品用の袋を取り、そこに景品を入れた。
「大事にするね!」
「ああ」
それから俺たちは音ゲーやゾンビもののシューティングゲームなど、二人でできるものを色々やった。
一時間くらいが経過しただろうか。
「いやぁ楽しかったねぇ……お、一時過ぎてる! そろそろラーメン食べに行く?」
「そうだな」
そうして俺たちはゲーセンを後にしようとした。
「あ、吉田君。最後にあれやってかない?」
白川が指さす先にあったのは、プリント俱楽部……通称プリクラだった。
「あ、ああ。わかった」
少し動揺してしまった。
まさかプリクラを撮ることになるとは思わなかった……あんなのキラキラした高校生とかが使う物だろう。それか自分を可愛く見せたい女子が……あまり言いすぎるのも酷か。
「お、いいの? てっきり断られるかと思ったよ」
「いや、大丈夫だ」
ちなみに札駅のゲーセンには数十ものプリクラがある。今日みたいな休日にはどれにも行列ができている。
その中でも比較的列が短ったところに俺たちは並んだ。
すぐに後ろにも男女が並んできた。
無論前に並んでいるのも男女である。
おそらく本物と思われるカップルにサンドイッチにされてしまった。
「プリクラ久しぶりだなぁ。吉田君は撮ったことある?」
「聞かなくても分かると思うが」
「そ、そんな寂しいこと言わないでよぉ。じゃあ今回は吉田君の初めてを貰えるってことだね」
「言い方にやや意味深なものを感じるが、まあそういうことだな」
にこっと白川は笑った。
俺が早く終わってくれと願っているのは言うまでもない。
アニメ一話分くらいの時間が経過して、俺たちの番になった。
まず事前受付ブースとやらでお金を入れるらしい。
「俺が出すよ」
「ありがとう」
もちろん俺が支払う。
次に撮影ブースとやらに移動する。
中に入ると、人数や背景などを選択させられた。
白川が全てやってくれた。
そして撮影が始まるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
最後にコースを選択してくださいという画面がでてきた。
どうやら選択したコースによって指定されるポーズが変わるらしい。
友達コースなどと色々あるが、ある一つのコースが目に留まった。
――カップルコース。
「ど、どうする?」
ここで初めて白川が問うてきた。
「任せる」
そう返しつつも、カップルコースだけはと願っていた。
しかし白川が選択したのはカップルコースだった。
――いよいよ撮影が始まった。
二人で手を合わせてハートを作ったり、色々なポージングをさせられた。
そして迎えた最後の撮影。
指示されたポーズは……なんとキスだった。
「!?」
思わず俺たちは驚いてしまった。
まずいと思った。
緊張で手に汗が滲むのが分かる。
いくら主人公とヒロインとはいえ、これはできない。
白川からすればしたいに決まっているかもしれない。
しかし俺はこいつに好意を抱いてはいない。
「駄目だよね?」
「流石にな」
落胆した様子の白川。
――ならこうするしか……。
「ここになら……いいぞ」
そう言いながら俺は自分の左の頬を指さす。
「えっ?」
「早くしないと終わってしまうぞ」
「う、うん」
そう言って白川は、少し足りない身長をつま先立ちでカバーし、俺の肩に手を当ててバランスを取りながら、俺の左の頬に唇を添えた。
この状況をどう打破しようかと考えていた時はドキドキした。
でも今はそれが無い。
俺はこいつを異性として好きではない。改めてそれを実感した。
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