第10話 映画

 撮影を終えた後は落書きブースとやらで、撮った写真に色々とデザインを加えた。


 そして最後に印刷ブースとやらで、完成したシールがプリントアウトされるのを待つ。

 約一分くらいで、プリントされたシールがでてきた。


「はいこれ。吉田君の」


「ああ」


 そう言って白川から二枚のうちの片方を受け取る。


「楽しかったぁ。また機会があったら撮ろうね!」


「分かった。それと理解してると思うが、これは人目のつくものには貼らないでもらえると助かる」


「うん。そこは心得てるから心配しないで!」


「ありがとう」


 そして俺たちは持っていたシールを財布にしまった。


「お、もう一時半過ぎてるじゃん!」


 スマホで時間を確認した白川が言った。


「ラーメン食べに行こっか」


「そうだな」


 白川はラーメン屋目指して歩き始める。

 俺もそれについて行った。


 程なくして俺たちはラーメン共同国という場所に着いた。


「やっぱ札駅でラーメン食べるならここだよね」


「間違いないな」


 ラーメン共同国……というのは、いわば北海道ラーメンのフードテーマパークである。道内有数のラーメン店が一同に集結させられている。


「よし行こう」


 俺たちは中へと入る。


 ここには約10店舗くらいのラーメン屋がある。

 しかし流石は休日だ。

 どこの店も行列が出来ている。


「吉田君なんのラーメン食べたいとかある?」


 隣を歩いていた白川が聞いてきた。


「強いて言うなら醤油かな」


「お、奇遇だねえ。私も今醤油の気分なんだ」


「そうか」


 本当に奇遇なのかは不明だが、まあいいか。

 問題はどこの店にするかという点だ。


「ていうかどこのお店にする?」


「醤油味があるならどこでも」


「多分どこにでもあると思うけど……そうだなあ。あ、あそことかどう?」


 白川が指さしたのは、入り口横の看板で、うちは醬油ラーメンが売りですといわんばかりに醤油ラーメンがピックアップされたラーメン屋だった。


「そうするか」


 俺たちは列に並ぶ。

 割と長蛇の列ではあるが、店内の席の数もそこそこ多いこともあり回転ははやそうだ。


 10分くらいが経過して、俺たちは席へと案内された。


 白川はメニュー表を取る。


「どれにしようかなぁ」


「俺はこれだな」


 俺が指さしたのは先ほど看板でみたものだ。


「お、美味しそうだね。じゃあ私もこれにしよっと」


 そう言って白川は近くの店員を呼び、醬油ラーメン二つを注文した。


 数分後。

 俺たちの前に同じラーメンが並んだ。


 醬油にしてはスープの色が薄めだな。

 あと具材が多く、麺が一部しか見えない。ちなみに細麺だ。


「わぁ、美味しそう。写真撮っておこっと」


 白川はスマホで写真を撮っていた。

 俺は特に何もないので割り箸を取り、心の中でいただけますをしてから麺を啜った。

 その後一口スープを飲む。


 ――美味いな。


 魚介の風味が強くパンチが効いている。


 数分で食べ終わってしまった。

 ちなみに俺は全つゆはしない。寿命を縮めるからな。


「あ、ごめんね。待たせちゃって」


「構わない。ゆっくり食べてくれ」


 白川はまだ麺が三分の一ほど残っていた。

 男の方が食べる速度が速いのは当然か。


 そんなことを考えていると、ポケットのスマホが振動した。

 取り出して内容を確認する。

 どうやらLIMEからの通知らしい。


 ――!?。

 思わず一瞬目を見開いてしまった。


『どういうこと?』


 この言葉と共に一枚の写真も送られてきていた。

 写真にはプリクラに並ぶ俺たち二人の姿がはっきりと写っている。


 送り主は梨花だった。

 

 どうしてばれてしまったのかは分からないが、今は考えても仕方がないのでこう返信した。


『そういうこと』


 そしてスマホの通知を切る。


「どうかした?」


「あ、いや。なんでもない」


「そう? ならいいけど……」


 白川は再び残っていたラーメンを食べ始めた。

 どうかしたと聞かれるということは、表情に動揺が出てしまったということか。もっとポーカーフェイスを貫かないとな。


 俺は謎の反省を行った。

 

 白川がラーメンを食べ終わり、俺たちはラーメン共同国を後にした。

 驚いたのは白川がスープを飲み切ったということだった。


「あー美味しかったぁ」


「そうだな」


「お、もう二時過ぎてるじゃん。ちょっと早いけど映画館行こっか」


「わかった」


 映画までまだ少し時間があったが、特にすることも無かったので、俺たちは映画館を目指して歩き始める。


「あ、ちょっとお花摘んできてもいいかな」


「ああ。特に問題ない」


 道中、白川が聞いてきた。

 特に止める必要もないのでそう言った。


 そして白川は近くにあったトイレへと入っていった。


 やはり俺たちは同じ人間なんだということを感じさせられる。

 どんなに美少年な白川でさえも、生理現象には抗えない。


 俺は近くの壁に背中を預け、待っていた。


「お!? 悠じゃん! ここで何してんの?」


 声の主は翔太だった。

 隣には似た顔つきの男の子もいた。


「ちょっと服を見に来たんだ」


「なるほど、人混みを好まずパーカーしか着ない悠が、わざわざ札駅に来るなんて……大丈夫か? なんかあるなら言えよ」


「大丈夫だ」


「そ、そうか。ならよかった。てか今着てるのも今日買ったものか? 似合ってんじゃん」


「ありがとう」


「じゃ、買い物楽しんでなぁ」


 そう言うと翔太はどこかへ行ってしまった。


「なあ、ばか兄貴。あいつだれ?」


「俺の親友……みたいなかんじかな。てかばかはいらんだろ!」


 二人の会話が聞こえてきた。

 なるほど、隣にいたのは翔太の弟か……にしても兄貴をばか呼ばわりとはな。

 特に違和感は感じなかった。


 ――それよりも……。


 長い付き合いなのに弟の存在を知らなかったのはなんか申し訳ないな。


「ごめんー。待たせちゃって。行こっか」


 程なくして白川が出てきた。


 再び俺たちは映画館目指して歩き始める。


 映画館は午前とは比べものにならないほど人で溢れていた。


「わぁ。流石はゴールデンウィークって感じだね」


「そうだな」


「吉田君は映画観るときなんか食べる?」


「基本的には何も食べないな。特に今日は昼食の直後だし何もいらないかな」


「そ、そうなんだぁ……」


 何か言いたげそうな表情をする白川。


「別に俺に遠慮する必要はないぞ。何か買いたいなら付き合うしな」


「ほ、本当? じゃあ列並ぼう!」


「ああ」


 そうして俺たちはフード売り場の列に並んだ。

 レジは数か所あるが、どれも長蛇の列が完成していた。

 上映時間までまだ30分以上あるが、これを買い終わるころには丁度いい時間になりそうだ。


 案の定、俺たちがレジに辿り着いたころには時刻は午後3時に差し掛かっていた。


「えっと、ポップコーンの塩味、Mサイズ一つと……コーラのMサイズ一つお願いします」


 白川は注文を終える。


「以上でよろしいでしょうか」


 店員が確認してきた。


 傍からみたら俺たちは完全にカップルだよな。

 なのに彼女だけが食べ物を注文するというのもなんかあれだよな。


「はぃ――」


「同じのをもう一つずつお願いします」


 はいと言おうとしたであろう白川の言葉を遮り、俺も同じものを注文した。


「かしこまりました。合計で――」


「え、食べてくれるの?」


「ああ。お前だけ食べるというのもなんかな」


 白川は笑っていた。


 俺が会計を済ませ、お目当ての映画の入場が開始されていたので……俺たちも向かう。


 場内に入ると、既に半分以上の席が埋まっていた。


 俺たちはとっておいたど真ん中の席に座る。


「楽しみだね」


「そうだな」


 確かに楽しみだ。

 この映画のテレビアニメ版の2期が終了してから、約2年も経っているわけだからな。


 一応原作はラノベだが、映画化が発表されてからは読まないようにしておいた。


 様々な映画の予告が終了し、場内の明かりが消える。


 しかし一つだけ問題があった。

 それは目の前にあるポップコーンとコーラである。

 

 勢いで買ったのはよかったが、正直食べれる自信がない。

 ましてや俺は普段水ばっかり飲んでいるのに、コーラなんていう炭酸を飲み切るなんて考えられなかった。


 まあ、なるようになるか。


 そんなことを考えていると映画が始まった。


 


 




 

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