第62話 お似合いな二人

 二人が参加した班が捜索を受け持ったのは庭にあった馬屋。

 ペドロファミリー含め冒険者数名と監査の新人一人。

「馬が二頭」

「馬屋なら馬がいるのがあたりまえでしょう」

 建物の中を見たアニーの言葉にNは答える。

「10頭は入るのに二頭しか居ない。他のは売ってしまったってことでしょう」

「あぁ」

 馬を維持するのは金がかかる。それでも冒険者ファミリーが馬を持つのはギルドへの移動や物資の運搬でそれ以上の利益があるからだ。 

 だから荷物も移動も少なく徒歩か街角の馬車を借りればいい少人数のファミリーなら馬は必要ない。むしろ金食い虫となる。

「落ちぶれてるってことなんでしょうか」

 その辺の事情に疎いNの疑問。

 このファミリーは一定数以上の人間はいた。

 ここからだとダンジョンまで行くのにも時間がかかる。そのための足だろう。

 二頭しか居ないのは、馬車を動かす必要がある回数が減ったからだろう。

 それでもここから徒歩で行くにはダンジョンは遠い。冒険者はダンジョンで稼ぐしかない。


 アニーは答えず、ただ首を振って捜索に戻った。


「ここにはいないようですね。一旦戻りましょう」

 捜索の上で報告を受けた監査の新人はメンバーにそう指示。

「了解」

 そういってぞろぞろと馬屋から出ていくメンバー。

 最後尾をついていくアニーだが、Nが居ないことに気づく。


「Nさん」

一人Nを探しに戻ったアニーは、馬の足を睨んでいるNを見つける。

「捜索は終了です。もどりますよ」

「あ、はい。でもその前に、これ持ってってください」

 そういって担いで居たライフルをアニーに渡す。

「ちょっと」

「よしよし」

 アニーの勧告も聞かずNは近くに転がっていた手綱を馬につけ、馬を動かす。

 馬の部屋は余っているのだ。

「よしよし」

 Nの動物の扱いはなかなかのもので馬はぐずったり暴れることなく移動する。

「すいませんね。」

「どうしたんですか」

「あの床下」

 Nはアニーからライフルを受け取りながら、今まで馬が居た部屋の足元をさす。

 糞尿を掃除するためにおが屑や食べ残したわらなどが敷き詰められているが

「板」

「確認して損はないでしょう」

 そういってライフルの先端に同じく借りてき銃剣差して馬屋の中に入る。


 ライフルのストックで床の板を数か所叩いてみる。


 空洞。何かが響く音。

「地下がありますね」

 Nがそんな感想を漏らした所、アニーがどこかから掃除道具を持ってきた。

 二人で床の藁やおが屑を掻き出す。

 そこにあったの戸板ではない、扉だ。

「あけます」

「汚れますから私がやりましょう」

 先に動こうするアニーを止めて、Nは跪いて扉の取っ手を探す。

 魔法か何かがかかっているのだろうか、頑丈で重たそうな扉だが簡単に開いた。

 あったのは地下に続く階段。

「行きましょう。あなたがライフルなら私が前衛を務めます」

「わかりました。気を付けてください」

 アニーは腰にさしていた剣。前のとは違う。を抜いて、二人で地下に降りて行った。



 戦闘派冒険者(バトルジャンキー)の悪癖、というよりもペドロファミリーの悪癖として独断専行がある。

 それぞれが強いからってどんどん先に進んでしまう。実力重視しすぎて協調性や組織人としての意識がない。パーティー以上の集団行動は苦手。

 戦鬼なんてあだ名があり、単独で10階層まで乗り込み、そこで仲間に助けられたアニーはそれが顕著。さすがにあの一件で怒られたり泣かれたり泣かされたりで懲りたとはいえ、機会があるとその悪癖がでてくる。


 一方同時に単騎の冒険者がギルドや関係組織の命令を聞かない問題は昔から定期的にギルドや東西の幹部で議題になる問題の一つ。

 ファミリーやパーティー単位の命令違反であればであれば懲罰、罰金であったりダンジョン探索禁止、ギルドや連帯責任でのヘルファイヤーでの社会奉仕、解散命令etcが揃っている。

 これがどこにも所属していない単独の冒険者となると扱いが面倒。

 そもそも命令を下すにも所在の確認が面倒くさい。下せる命令は罰金やダンジョン探索禁止令くらいだが、罰金を踏み倒したりあの手この手でダンジョンに乗り込んだりする。

 そもそも命令する根拠も怪しい。指導はできるが。

 つまりNみたいな人間が命令を無視したり独断専行するのは珍しくないのだ。

といっても彼の場合、無鉄砲というかなんというか、協調性のなさというものが原因だろう。


 そういったわけで非常にお似合いな二人。仲良くピクニックでも行けばいいのに、地下に進む階段を下りていくことになる。

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