第54話 作られた怪物「給料上げろ‼‼‼飯をもっとだせ‼‼‼‼労働に見合った賃金を払え‼‼‼‼」
翌日 昼
ナイトクラブLAXE。
前の看板に「本日定休日。また明日の夜にどうぞ」と書かれている。
「俺がギターです」
「俺はベースっす」
「私がドラムで」
「俺がボーカルってな具合です」
楽器の前でゴブリン4人がそんなことをオーナーに言っている。
「バンド名は」
「GoBでいきやす」
「なんか似たようなバンド名聞いたことあるが大丈夫か」
「コピバンですから。むしろ似せてかないと」
4人は今度
「飛び入り歓迎!アマチュアバンド大会inヘルファイヤー」
に参加するので店長とオーナーに一つ見てもらったというところ。
「まぁ、良いんじゃないか」
吸血鬼の店長は昼間からカウンターに座り、手酌で店のウィスキーを飲みながら、適当な返事。
「ちゃんと聞いてくだせぇよ」
「いや、いいと思うぞ。うちの舞台に出すほどではないが、素人の趣味の大会ならまぁまぁいいところいけるんじゃないか」
実際悪くはなかった。
「でも、バリバリのメタルはどこまでいけるかはなぁ?」
GoBの曲はデスボイスだらけのゴリゴリのメタル。ちょっと人を選ぶ。
「しかしマニアックな曲選ぶなお前ら」
「ゴブリン業界では大人気なんですよコレ」
「ほぉん」
「面白そうなことやってますね」
そこにふらりと現れたN。
「定休日だ。でなおせ」
「そういわないでくださいよ。ちょっと聞きたいことがあるんです」
「碌でもないことか?」
「いやまぁそうなんですけど、モンスターの生態とかそういうのに詳しい人しりませんか」
「なんでここに来るんだ。その要件で」
少なくとも酒場で聞くような話ではない。
「メッサーさんはこの町の半分については詳しそうですから」
それに対してほろ酔いの吸血鬼は聞く。
「半分?」
「女です」
それを聞いた吸血鬼とゴブリン達は笑いだす。
「女を知ってりゃ街の半分をしってるか。そりゃ言いえて妙だ」
「人を何だと思ってるんだ。帰れ」
「面白い事をいう人だ。私が代わりに聞きますよ」
追い返そうとするメッサーを無視して店長はNをカウンターに呼んだ。
「モンスターを捕まえて品種改良ができるかってなぜそんなことを聞くんです?」
店長の吸血鬼の隣に座ったNは要件、つまり
「モンスターの品種改良ができるか」
という話を切り出した。
「色々あるんですが、まぁその、今関わってることに関連した話です。どっかでこう、モンスター捕まえて、連れて帰ってきてペットにするとか、飼育するとか、そんな感じのことをできるかなと」
「モンスターなんか可愛げがないものペットにする暇人がいるのか?」
結局カウンターに座ったNに呆れながら、店長が飲んでいたウィスキーを横から奪い自分のグラスに注ぎ始めたメッサーの疑問。
「さぁ、見世物とか?」
「芸をする犬や猫なら客も付くだろうが、そんなものに芸をおしえて誰が見るんだ」
「そうでやんす」
「モンスターなんぞに見学料払うくらいなら私らにチップ渡せば満足できましょう」
楽器を片付け終わってカウンターに集まって来たゴブリンたちもオーナーに賛同。
「君らがいうのか」
店長はそういって笑う。
ゴブリンである。肌は緑色で髪はなく耳がとんがっている。まぁ見た目のカテゴライズで言えばモンスターが近い。
「自虐ネタは笑いに困るから人を選べ」
反応に困るNと笑いながらゴブリンをたしなめるメッサー。
ゴブリンも合わせて笑う。
「しかしね、旦那。旦那の疑問の答えってのはまさしく私達だと思いますよ」
一通り笑った所でゴブリンの一人、バンドで言えばドラム担当、が答える。
「なぜです」
「私らゴブリンの遠い先祖はダンジョンに住みついてる小鬼だって話です。それを大昔の偉い王様が飼いならして兵隊用に改良したのが私らゴブリンの始まりだって」
「実家のばあ様が同じことを言ってやしたね」
「一匹で飛びつくしか能がねぇ小鬼と違ってかしこく、口が利けて集団で物事をやるようにかしこく鍛えたんだって」
「それは神話だろう」
店長はそう突っ込む。
「随分と変わった神話ですね。自分たちの祖先が怪物だってのはまだわかりますが、人のために改良されたものだって」
「でも私らはそれを信じてますし、人間だってもしかすると遠い祖先は猿かなんかで、その猿をどっかのお偉い神様が見世物の芸を教え込むために改良したかもしれませんぜ」
「こんな愚かな生き物を作った神様は猿のままにしとけばよかったと後悔してるだろうよ」
メッサーはそういいながらゴブリンたちに水をだしてやる。
「ありがとうございやす。でもそれを抜きにしても、犬を猟犬にしたて上げることができるってならモンスターを兵隊にしたてることができねぇ理由はないでしょう」
「確かに理屈で言えばそうだな」
吸血鬼の店長はそう答える。
「そもそもモンスターって、私らみたいな言葉を理解する人外でも獣でもない、その他の狂暴で怪しい物って扱いです。みんな何となく「そういうもの」って思ってますから明確な定義なんてありませんけどね。ですから、モンスターを飼いならして使いこなそう、って話はたまに出てくるんです」
「そうなんですか」
「えぇ。それこそ野犬を猟犬にしたて上げるような物で。強いモンスターを一匹飼いならせればそれだけで戦局を覆せるかもしれない。なにか新しい発見をして稼げるかもしれない。ただ成功することはほとんどない。神意に反するとか、そもそも神が人間に反するために作られたのがモンスターだ、とか、色々言われますがね。狂暴に凶悪仕立てることができても、それを従わせる事ができない。結局すべてが崩壊する。でもまぁ、一発当てれば大ヒットですからね。大当たりを狙う愚か者はどうしてもいますよ」
「宝くじ買うやつは外れると思ってないからな」
メッサーは店長に酒をついでやり、自分のコップにも注ぐ。
「まぁそういうことですな、ですからまぁ、モンスターの品種改良をできるかどうかって話ならできるでしょう。成功するかは別ですがね」
「成功するかは別」
「狂暴に凶悪にすることはできますが、そんな目的でモンスターを改良する奴なんか居ないでしょう。だからみんな、最後は結局失敗して、自分が生み出した怪物に頭を食われて死ぬことになる」
店長はそういって黙った。というより酔いが回ってきたようだ。
「店長。寝るんなら控室のほうがいいっすよ」
「そうです。ここよりは寝やすい」
ゴブリンたちは店長に声をかける。
「そうさせて貰いますわ」
「おう」
店長は一応オーナーに声をかけて、控室の方に。足元がふらふらしているのを見て心配になったゴブリン二人がついていく。
「じゃぁぼくも。ありがとうございます。参考になりました」
「次は酒を飲みに来い」
席を立ち上がろうとしたNにメッサーは飲み屋として当然な一言。
それでふと関係ないことがきになったNは残ったゴブリンに話しかける。
「一つ聞いていいですか」
「なんですかい」
「さっきの神話の話で、ゴブリンを作った王様は結局どうなったんですか」
「私らの祖先に殺されました」
「生み出したが飼いならせない怪物に頭を食われたわけだな。神話らしい終わり方だ」
ゴブリンの返事にメッサーは店長の言葉を思い出す。
「いんや、小鬼よりかしこくなったのに扱いが小鬼と同じで給料つうもんをまともに払わないし待遇も悪いってんで、俺らの先祖様は人間との格差が嫌になったんですな。それで武器を持って王様と一族をぶっ殺してから、捕まりたくないってんで世界の方々に逃げたって話です。なので世界中にゴブリンがいるって話になるわけで」
「ブラック企業かよ」
「あなたも気を付けたほうがいいですよ」
Nはそう笑いながらメッサーに言ってLAXEから去っていった。
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