第8話 地獄の炎にて
こういうろくでもない生活をしていてもこの町では出会いがあるものだ。
「あ、お久しぶりです」
「一週間くらいか?く」
二人はこの町の大通りでばったりと再開する。
「今日はどうしたんだ。冒険者はダンジョン潜りが仕事だろう」
「ダンジョンで集めたものを換金しに来たんです」
そういって大きく重そうなリュックサックを指す。
「稼いでるようだな。どこかのファミリーに入ったのか」
「いえ、全然縁がなくて」
一人でこれだけ稼げるのかというメッサーの疑問は以前見た彼の実力で打ち消された。
「やることもないからダンジョン行ってばっかりで。換金しないと部屋で荷物になるだけなんで引っ張り出してきたんです」
「なんとも雑な扱いだな」
実際適当にばらまいているのでこれでも結構目減りしている。
家賃として現物を家主に渡したり、ご近所の息子が病気だというので見舞いに渡したり、病院や教会に寄付したり。
ため込んでも仕方ない。食うに困らなければ今のところはいい。そういう発想。
「ルイズ通りの奥に店があるって話ですが、ご存じですか」
「ここは通りが違うぞ。店の名前は」
メッサーの疑問にNは答える。
「その店は知らんが、その住所ならわかる。連れて行ってやるよ」
「あなたも用事があるでしょう」
「ツケの回収を依頼しただけさ。まぁ終わったところだからちょうどいい」
それに宝物をリュックサックに放り込んで歩き回るのはさすがに不用心すぎる。心配だよ、とはメッサーもさすがに言わなかった。
冒険者相手に宝物を買い取る商人はまぁ大抵胡散臭い。
ギルドの指定や加盟店という制度はあるが、むしろそういう店は元冒険者がやってる店が多いのだ。
故買商ならまだましなほう。正当な値付けがされるかも怪しい。
ルイズ通りの古物商も似たようなものだった。
「それはこの値段だよ」
ガラクタなのか商品なのかわからないものが並べられた怪しい店内。
そこにいたのは一人の少女。
「あれはブレンダンの酒場のお仕着せだな。見たことはある」
「もう少し高くなりませんか」
「無理だねぇ。安ものだろう。売れるかもわからないし。その値段になっちゃうねぇ」
彼女が持ち込んでいたのは短剣だ。
店主の言い値はかなり安い。
「じゃぁ」
「あの」
「お客さんですか?横入りは困りますよ」
商談の邪魔にならないよう二人の会話を聞いていたメッサーの隣にいたはずのNが二人の会話に割り込む。
「さすがに安すぎでしょう」
「なんだ。値付けに文句があるのか」
これまでは愛想がいいケチンボの店主の顔だったがいきなり変わる。
「その鞘の石はマジックアイテムですよね。それだけ外しても今の値の10倍で売れるでしょう。せめて今の値の3倍はつけないと」
「新人のくせに知ったような口を利くな。十年もこの道で食ってきてるんだぞ」
「女をだます技術を覚えるにはいい年月だな。命かけて集めたもんを安く買いたたかれる筋合いもねぇんだから、ほかの店にしろ」
止めようかと思ったがそういうことならとメッサーも参戦。
「あんたはあんたでなんだ。出ていけ!出ていかねぇなら」
そういってテーブルの下に手を伸ばす店主。
次何をするかは誰にも分らない。
なぜって、店主が次の行動に移る前にNが短剣を引き抜きテーブルに突き刺したためだ。
「御託は抜いてから並べるものですよ」
元冒険者で胡散臭い商人をやってる店主にはその行動だけで分かった。
こいつにはかなわねぇ。下手なことする前に追い出したほうがいい。
「わかったよ。よその店に行きな。うちじゃかわねぇ。それでいいな」
それはそれで困ると思ったが
「おい、行くぞ。迷惑かけてんのはこっちも同じなんだ。ねぇちゃんも来な」
骨とう品の剣を売りにきたら横入りした珍客と店主が喧嘩しだして短剣を抜いての啖呵になった。
普通の少女なら、というか普通の人はいきなりこういうことに巻き込まれると反応に困る。
まぁただ、この胡散臭い店の店主と、かっこいい少年と印象が薄い男のどちらを信じるかというと。
正直迷うところだ。しかし選択するしかない
「わ、わかりました」
こっちにしよう。
というわけでそそくさとメッサーについて店から出て行った。最後尾はN。当然その手には短剣がある。
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