第17話助けてお兄ちゃん!

 助けて、お兄ちゃん!



 

 俺の名は葛木命(かつらぎみこと)、さがないサラリーマンだ。

 世間では東京オリンピック株のコロナウィルスの第6波が来て病院が圧迫(あっぱく)。悲惨(ひさん)な状況下にある今日この頃だ。


 政府が非常事態宣言(ひじょうじたいせんげん)を出してから、早2ヶ月。コロナ患者の死者が後を立たず、東京オリンピック株にはワクチンも有効に効かず、事態はとても逼迫(ひっぱく)している。


 だが葛木家では、春の3月の陽気にあって、それらしい嬉しい(うれしい)出来事が届いた。

 妹が婚活を続けた結果、いい人が現れ、彼と同棲することになったのだ。


 ただ、彼は年収300万円の低年収なために、一応俺も同居という形をとった。俺は一応正社員だから、年収400万はあるから、彼らの手助けにはなれると思う。

 で、今日は休日の午前で、彼が使う部屋の片付けをしているのだ。


「ゆかり」

 俺は一緒に部屋の片付けをしていたゆかりに話しかけた。


 ゆかりは俺の妹で、普段はセミロングのおさげをしたスレンダー型の美女だ。黙って立っているだけで涼しげな印象を持つ美人だが、今はジャージに、ポニテでお色気はあんましない状態だったりする。


「このgs3はどうしようか?」

「捨てれば?」


「いや、でも、過去の名作が………」

「やる時間がないでしょう?兄さん?」

「しかし、2度とやれないというのは………」


「今は、ムーワーでゲーム実況配信もあるしさ。無理に固執する必要性はないと思うんだよね」


「ま、そうだな。小説の執筆活動に忙しいし、捨てるか」

「そうして」

 ビシって敬礼をする俺。


「ラジャ」

 そして、gs3は素材ゴミに出されることとなった。


「ねえ、兄さん」

「ん?」

 俺はゲーム機を素材ゴミの袋に入れて戻ってくると、ゆかりがこたつを持ってたずねてきた。


「この、コタツ、どうしよっか?」

「んー。もう一つの部屋に置いておけばいいだろう。あの、啓治くん、だっけ?彼がコタツ好むかもしれないし」

 今年の冬は出番がなかったコタツだが、家族が増えると出番があるかもしれない。


「でもさ………」

 ゆかりは苦笑いをした。

「洗濯物畳むときにコタツ、温めないんだよね」

「あ………」

 俺は少し沈黙した後言った。


「なら捨てようか」

「え?でも、啓治くんが………」

「いいの、いいの。奥さんを大事にできない人と結婚することはないよ」

「兄さん」


 ゆかりの瞳に瑞々しい(みずみずしい)綺麗(きれい)な水溜まり(みずたまり)が湛え(たたえ)ていた。

「うん!捨てましょう!」

「ああ」

 その後いくらか滞り(とどこおり)があったが本日の作業は終わった。




「いただきます」

 夜。俺たちは食卓に囲って、夕食を食べ始めた。ちなみにきょうの料理は肉じゃがだ。

 今日は珍しく、俺が作った精魂込めた逸品(せいこんこめたいっぴん)だ。

 一口じゃがいもを頬張って(ほおばって)みる。


「うん。美味しい。我ながらよくできたものだ」

 それにクスクスとゆかりは笑った。

「何、兄さん。自画自賛(じがじさん)?」


「馬鹿言え、事実を言ったまでのことだ」

「ま、確かに美味しいけどね☆」

 そう言いつつ妹の箸(はし)もよく運ぶ。


 うむうむ、我ながら恐ろしいものを作ったものだ。これに惚れ込んだ妹が食べすぎて太るかもしれん。

 ま、冗談だが。

 そんなくだらないことを考えていると。


 ゴホッ。

 妹が咳をした。

「どうした?ゆかり?コロナか?」

 妹がニパっと笑う


「ううん。違うと思う。ちょっと、ここ数日寒暖差が酷かった(ひどかった)から、ちょっと体が疲れているだけだと思うよ」

「そうか。でも、コロナも初期症状(しょうじょう)がないのがほとんどだというし、注意したほうがいいぞ」


「うん。今日は早めに寝ることにするよ」

「ああ、それがいい。片付けは俺がやっておくから」

 それにゆかりは素直に頷いた。


「うん」

 そのまま、黙々と食べていた俺ら、そのとき、ふとゆかりが口を開いた。

「そう言えばさ、兄さん、表参道で新しいクレープ店ができたんだって」

「ゆかりは食欲のことばかりだな。なんか芸術関係の趣味を見つけたらどうなんだ?」


 それにゆかりはむすっとした態度をとった。

「私は家事で忙しいんです!何よ、趣味立ってそんなに見つけれるわけないじゃない。それに小説を読んでいるし私は!別にいいじゃない。食べ物の話をしたってもさ。そういう兄さんこそ、芸術関係の趣味を見つけたんですか!?」

 そう犬歯(けんし)をむいてゆかりは噛みついてきた。


「あるよ」

「何!?」

「最近ベートーベンのピアノ全集買おうと思って」

 それにゆかりの表情はびっくりした。


「本当!」

「ああ、他にもモーツァルト全集買おうと思うんだ」

「はぁ」


 ゆかりはポカンと口を開いた。

「うう」

「どうした?ゆかり?」


「なんか、兄さんに女子力(じょしりょく)に差がつけられた」

「いや、それはないと思うが。お前の方が女子力(じょしりょく)満開(まんかい)じゃないか?」

「でも………」


「でも?」

「クラシックを聞く人ってとてもエレガントな気がする」

「ハハハ」

 それにぷくーっとゆかりの頬が膨らんだ(ほおがふくらんだ)。


「あ、笑ったなー!」

「すまんすまん。まあ、そう思えるのは不思議じゃないと思うけど、でも、俺の場合単純に好きで聞いているわけだから。エレガントかどうかなんて考えもしなかった」


 それにぷくーっとまたゆかりの頬が膨らんだ(ほおがふくらんだ)。

「もう、兄さん!」

「ははは、ごめん、ごめん」

 そうやってつつがなく夕食は終えて行った。

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