第11話初めてのお見合い
そして、カレンダーの日付が変わって、12月の最初の日曜日。
今日はゆかりとの最初のお見合い相手だ。
俺は白のポロシャツに黒のロングパンツとか他にも重ね着したあと、赤のセーターを一番上に来た。
俺までめかしこむ理由はないが、これでも妹の最初の見合い相手との婚活だ。一応正装してみる。
ちなみに、それでももこもこしているのは省エネのためだ。今、原子力発電が止まってほとんど火力発電だからな。電力を使うのもCO2が出るし、それでもこもこしてみた。
朝食を食べた俺は、自分の部屋で着替えて、リビングに行ってみた。
「ゆかり、いるか?」
「うん」
ゆかりは黒のネルシャツにブラウンのセーターに白のロングパンツを着ていた。いや、まあ、初めての相手だからな。本人的に正装をしているつもりだろう。
「大丈夫か?」
それにゆかりは笑って首を横に振る。
「うん。最初のお見合いだもんね。覚悟決めなきゃ」
うむ。我が妹ながらよくできた妹だ。なんで今まで結婚できなかったんだろうな?あと、なんで今恋人がいないんだ?
まあ、そう言う栓のない(せんのない)、質問しても仕方ないことだろう。独身の経験を持つ俺としては、今の状況はこうなったんだから仕方がない、としか言いようがない。
「緊張してないか?」
俺は彼女にドリップコーヒーを作って、それを彼女に渡した。
「若干(じゃっかん)」
ゆかりは小さく笑った。
「そうか。まあ、気張らず(きばらず)にな」
「うん」
ゆかりはホットコーヒーを啜る(すする)。
ゆかりの初の婚活か。まあ、そうだな。なれないことをやろうとしたら誰だって緊張するよな。
「ゆかり」
「何、兄さん?」
「今晩はハンバーグだ。腕によりをかけて作ってやる」
それにクスリとゆかりは笑う。
「もう進歩がないですね、兄さん。何かあるとすぐ料理に頼るんですから」
「そ、そうか」
考えてみたらそうかもしれないな。いつも、料理に頼ってばかりかもしれない。もうちょっと話題の幅(わだいのはば)を広げないとな。
ゆかりはそんな俺に慈しむ(いつくしむ)ような視線を送ったあと、こう言った。
「コーンポタージュつけてください」
「コーンポタージュ?」
「はい。林家(はやしや)のコーンポタージュ」
林家(はやしや)というのはもう何年もコンビニやスーパーに卸して(おろして)いるコーンポタージュ専門の業者だ。
特にインスタントが人気で、コーンポタージュといえば林家(はやしや)というほどシェアがある。
そして、俺たちにも思い入れがある商品だ。
俺は頷いた(うなずいた)。
「わかった。買っておくよ」
ゆかりは清純(せいじゅん)な瑠璃色(るりいろ)の笑みを見せた。
「うん。お願い」
ゆかりは10時に出ていった。
約束の時間は11時だから、出るには良い時刻だった。
俺は掃除をして、出かけるついでハンバーグの材料とコーンポタージュと今日の昼食の焼きそば、他諸々(ほかもろもろ)を買って、家に戻った。
時刻は12時。もう相手方と会って食事しているところか。
最初は何を話すんだろ?緊張はしていないんだろうか?ゆかりは?
あと、相手の方がいい人だといいな。
俺はそう思いながら10分ほどまんじり過ごし、そして、小説を推敲するために自室へ向かった。
結局4時ぐらいにゆかりは帰ってきた。
「ただいまー」
明らかに疲れている様子のゆかりに俺はにっこり微笑む(ほほえむ)。
「おかえり」
「うん。ただいま」
顔色は明らかに疲れ気味なのに、ゆかりは無理して笑顔を見せた。
「ドーナツ買ってきてるよ。食べる?」
「うーん。それは明日の朝かなぁ。相手型からクッキーもらったし」
「ご、ごめん。いらないお世話だったね」
それに今度は真珠(しんじゅ)のような明るく丸い笑顔を見せた。
「ううん。だいじょうぶ・・・・・・ちょっと疲れたから横になるね。お気遣い(きづかい)ありがとう」
「うん。お疲れ様」
それに会釈(えしゃく)して自分の部屋に行くゆかり。
「腹、減ったな」
一緒にドーナツ食べる予定だったから昼食は焼きそばだったんだよな。それにしても、腹へった。
「ドーナツ食べるか」
俺はインスタントコーヒーの準備をし始めた。
それでドーナツを食べたあと。俺はすぐにデミグラスソースを作り始め。牛肉をこねてからハンバーグを作り出した。
その時だった。ゆかりがリビングに現れたのは。
「おや?ネズミがいるようだ。ハンバーグの匂いに釣られて出てきたのかな?」
ゆかりはクスクスと笑う。
「私はネズミですか?」
「鼠小僧(ねずみこぞう)だよ」
「一体何を盗むんです?」
「コンビニの募金箱(ぼきんばこ)の入っている小銭(こぜに)」
「私は小物ですねー!」
それに二人とも爆笑した。
一転して俺は優しい目でゆかりを見た。
「疲れは取れたか?」
それにコクリと頷くゆかり。
ゆかりはリビングの席に座る。
「やっぱり、あれだったのかなー。初対面だから結構緊張しちゃってさ、上手い通りに話せなかったよ」
「相手はどんな感じだった?」
「いい人、だと思う。でも初対面で私たち緊張は拭え(ぬぐえ)なかったから、これからだね」
それに俺は頷く。
「そうだな。でも、今日一日お疲れさん」
「あい」
それから俺たちは夕食を食べた。
「ん、おいしー!このハンバーグ美味しいね!」
そう、ニコニコ顔で言ってくれるゆかりに俺の心は和んだ(なごんだ)。そして、夕食を食べ終えた時に。
「ふー、ごちそうさま。満腹」
「皿洗いは俺がやっておくよ。ゆかりは先にお風呂入れば?」
「えー!皿洗いぐらいやらせてよ!」
「ダメだ。今日は疲れたんだし、特別な日だから、ゆっくり休んでいなさい」
それにゆかりは遠い目をする。
「特別な日、か」
コーンポタージュを一口飲む。
「ねえ、兄さん。あの日のことは覚えてる?」
「ああ」
ゆかりは蓮華(れんげ)のような清純(せいじゅん)な笑い方をした。
「婚約が決まった時もハンバーグとコーンポタージュ作ってね」
「まあ、母さんの腕には及ばないけど、もちろん作るよ」
ゆかりはパッとひまわりのような明るい笑みを見せた。
「うん。待ってるよ」
「ところで」
俺は話を変えた。
「小説の推敲お願いできるか。今は寝かせているんだけど。時間があれば読んでほしいんだが………」
今度はモルモットのような明るさでゆかりは頷いた(うなずいた)。
「うん。読むよむ!兄さんの新作かー。しばらく読めなかったけど、何年ぶりだっけ?」
「まあ、5年ぶりぐらいか?」
それに刻々(こくこく)と頷くゆかり。
「ああ、そのくらいだね。いや、楽しみー」
「結構チャレンジした作品だから気に入られるかわからないけど」
「大丈夫だよ。兄さんがどんなものを描いているのか楽しみだしね。あー、でも、今すぐは無理かも。もうちょっと待ってて」
「わかった、いつでもいいよ」
ゆかりは明るいオレンジのガーベラの笑みをした。
「うん。兄さんの本、楽しみだなー」
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