第7話今度は本屋

 昼食を食べ終えた俺たちは、近くの本屋に移動した。


 近くの本屋といっても300坪ぐらいある主観的になんでも揃って(そろって)いると感じている本屋だが、これでも東京の中では中ぐらいだというのだからただただ東京の大きさに呆れる。


 まあ、そうだよな。東京は各地方から人を集めての大都市だもんな。むしろ、そのせいで地方が困っているんだから、東京から地方へ、という流れをこれから作らないといけないよな。


 まあともかく、本屋の中身は普通に白色傾向がこれでもかと置かれた普通の本屋だ。白の内装を基調としており、かなり無機質な印象を与える。


まあでも、本棚は木造にしており、ポップとかもちゃんと置かれてあって、その点では一応試行錯誤(いちおうしこうさくご)はしているらしいが、なんか、なんでも置いてあるんだから売れるでしょ?東京なんだから?感が拭えない(ぬぐえない)。かくいう俺は今電子書籍にハマっているのでそこまで本屋の内装には拘らない(こだわらない)性質なのだ。


 人のこと言えんな。

 それはともかく、なぜ電子書籍にハマっているといえば、スペースが取られないから、興味のある本は電子書籍で買って、面白かったら紙の本を買っているのだ。


 正直言って電子書籍は最初は好きではなかったが、いつしか紙よりも愛着が湧いて(あいちゃくがわいて)きたし、ゆかりは断然紙派だから、彼女のスペースを提供するためにも俺はあんまり紙の本を買わないことにしているのだ。一部の専門書を除いて。


 そういうゆかりは紙の本は好きだが、そんなに本屋に対して愛着は持っていないらしい。

「兄さん一緒に回ろう」

「おう」


 普通、恋人同士でもないから、こう言う時は別々に回るのが普通だが、実際に10代の時はそうしていたのだが、俺たちが仲良くなり始めて一緒に回ることが多くなった。


 理由はよくわからない。ゆかりの方から誘ってきたので、俺としては断るつもりはなかったのだが、しかし、俺が見るものは………


「兄さん、買うものを決めているの?」

 ゆかりは俺の顔を覗き(のぞき)込むようにいう。俺は首は傾げた(かしげた)。


「まあ、だいたい」

「へー、何?」

「『サピエンス全史』」

「あ、聞いたことある。ちょっと前有名だった本だよね?」


「それと哲学書か歴史書を買う予定」

「ふんふん」

 ゆかりはニコニコ顔だ。そのゆかりに尋ねた。


「お前は何か買うものは決めているのか?」

「私!?私は〜波平亮平の新刊が出たからそれを買おうかなーって」

「なるほどな」

 俺は頷いた(うなずいた)。そういえば新聞で広告が売ってあったな波平さんの新刊。


「しかし、いまいちわからないな」

「何が?」

 ゆかりが不思議そうな顔をする。


「いや、お前、俺の本をやたら褒めて(ほめて)いたじゃないか。俺も波平さんの本は読んだことがあるけどな、俺とは真逆な小説を書くタイプだから、ちょっとよくわからなくて」

 それにゆかりは首を傾げた(かしげた)。


「そうかな?」

「そうだよ」

 ゆかりはわからないように這う(はう)サザムシの表情をした。


「う〜ん、私にはどっちもあったかい文体だと思うけどな〜」

「まあ、俺ならああ言う安易(あんい)な文体は書かないよ」

 まだ、困惑のサザムシは這っていた。


「でも、兄さんの小説もテーマは愛でしょう?」

「まあ、そうかもな」

 それにゆかりの表情は早朝の若草の露(つゆ)のようにきらりと輝いた。


「波平さんの小説のテーマも愛なんですよ。だから、私が二人を好きになっても問題なし」

「まあ、そう言うんなら別に言うことないが」

 俺も高尚(こうしょう)な純文学を読んでいる傍ら、女の子の胸をモロに出してくる青年漫画とか読んでいるしな。

 

俺は、ちらっと歴史書を見ると一冊の本をカゴに入れた。

 ゆかりはその本を手に取る。

「『ヨーロッパ全史』?」

「ああ。最近、古代地中海ばかり勉強していたからな、こう言うのを買ってみようかな?って思ったんだ」

 それにこくこくとゆかりは頷いた(うなずいた)。


「なるほどね。でも、もうちょっとゆっくり回ったら?」

 そうなのだ。俺はパッと見て、それでこの本を選んだのだ。


「いいのか?」

「ん?」

 ゆかりが不思議そうな顔をする。


「俺が選んでいる間退屈じゃない?」

「別に?」

「そうなのか?」


「うん、兄さんが何を見るのか興味があるしね☆」

「うーん。ならちょっと見るか」

 それからちょいちょい本を物色していたが、結局歴史書で買うのは『サピエンス全史』と『ヨーロッパ全史』に決まった。


「これだけ?」

「まあ、たくさん本があっても読む時間が限られるし」

「大丈夫だって。その分私が家事をするから」

「いや、ダメだ」

 それに頬を膨らま(ほおをふくらま)せるゆかり。


「ちょ!なんでー!」

「ゆかりにばかり家事を押し付けることができないからだ。ゆかりだって見たい番組や本があるだろう?」

 ゆかりは苦味も甘みも混ぜ合わさったカフェオレの表情をした。


「いや、そう言ってくれるのは嬉しい(うれしい)んだけどね。私だって兄さんの小説を読みたいのよ」

「うん。そう言ってくれて本当に感謝してるよ。でも、ゆかりばかりに家事を押し付けるのは……………」


「なら」

 剣で相手の兜を割るように、パッカリゆかりの口から言葉が飛び出した。

「私がヘルプを要求した時に手伝って欲しい」

 それに俺も了承した。


「わかった。だが、料理の腕が鈍らないように最低でも週一で手伝わせて欲しい」

「うん、わかった」

 最後は満面の笑みでゆかりは笑った。

 それから文庫のコーナーに行く。

 ゆかりはすぐに波平さんの新刊をカゴに入れた。


「一冊でいいのか?」

「うん。家事も忙しからなかなか読む暇なくて。あ、でも、無理に手伝ってくれとは言っていないからね」


「わかってる」

 ある文庫本を探しに光文社古典新訳文庫のコーナーに行った。

 それを興味深く見つめるゆかり。


「何、探してるの?兄さん?」

「いや、確か、カントの『純粋理性批判』が出ていたはずなんだが、お、あった、あった。おや?実践(じっせん)理性批判もあるのか?これも買っておこう。あとは『アンナ・カレーニナ』の一巻も買っとくか」

 それを興味深そうにゆかりは見ていた。

 ふと不思議に思ったので聞いてみる。


「見ていて面白いか?」

「うん」

 そして、レモンのようなさわかな笑みを見せてゆかりは言った。

「ねえ、その本、私も読んでいいかな?」


「うん?いいよ?でも、難しいよ?大丈夫?」

 きらりとゆかりの歯が輝いた。

「うん。兄さんのこともっとよく知りたいし」


「なら、ちょっと後で、コンビニに寄ろう」

「あ、うん」

 ゆかりはわけもわからずに頷いた(うなずいた)。

 ともかく、俺は次の場所に向かった。


「じゃあ、次は少女漫画を買おうか?」

 それにゆかりは歯を見せて頷いた(うなずいた)。

 俺は少女漫画も読んでいる。

 まあ、そこまでたくさん読むわけじゃないけど、昔、俺とゆかりは別々に少女漫画を買っていたのだ。なぜなら、ゆかりは少女漫画を読む俺のことを非常に馬鹿にしていたからだ。


 それがここ数年で仲良くなって、一緒に少女漫画を買おうか?と言う流れになったのだ。

 いやー、時の流れは不思議なものだ。

 もう買うものは決まっている。アプリのコミックの無料版を読んで、それで面白かったやつを買おうと言う流れが、ここ2、3年の流れだ。

 それでその漫画を買うために探しているのだが……………


「あ、これ面白そう」

「うわー、これ表紙がめっちゃエモい。買おー」

 結構その場の表紙とかで買うのを決めている妹君だったりする。


「お、あった。『アルガー王子』」

 お目当ての漫画を見つけカゴに入れる僕。それにゆかりがホットコーヒーのような香ばしい香りで微笑んだ。


「まさか、兄さんがこう言う俺様系の男性が好きだなんて知らなかったな」

「いや、こう言うキャラ好きだよ?アルガーって、俺様だけど根は優しいし、それを素直に出さないところが可愛らしいじゃないか」

 それに丸くて甘い大福の笑みをするゆかり。


「兄さん、わかってるー!」

 そうじゃれ会いながらレジに向かって会計を済ませて、そして、コンビニへ。そこでichageカードを買う。


「うん?何それ?」

「電子書籍だよ。俺が今でも好きなラノベが電子書籍として売れているんだ。それをお前にプレゼントだ」

「あ、うん」


「電子書籍が格別苦手ってわけじゃないよな?普段、紙を買うのは紙の方が手触りがいいってだけで?」

「うん。格別、嫌いってわけじゃないから」


「欧米の古典はなかなか一般教養がないと理解するのが難しいから、俺が好きなラノベの方なら、ゆかりにも理解しやすいと思ってな」

 それに小さく自信なさげなうさぎの頷き方をした。


「うん。ありがとう、兄さん」

 ん、後半何か言ったか?

「なんか言った?」

 それにゆかりは淡い(あわい)白雪の笑みでいった。


「ありがとう、って言ったのよ、兄さん」

「うん、こちらこそ」

 ゆかりの笑みが深くなる。


「会計はこっちで払うわ。お前のプレゼントだ」

 それにゆかりは慌てた(あわてた)。


「いいよ〜、そんなの、私が払うよ」

「じゃあさっきの少女漫画分の代金払ってくれ」

 それにゆかりは頷いた(うなずいた)。


「うん!」

 そしてギフトカードの会計も済ませて、俺は手を出した。

「何?兄さん?」


「俺のお気に入りの本をダウンロードをするから出してよ。ロックは外してね」

「ならさっきの一万円は払うよ。兄さんの方こそそんなに無理はしなくていいよ」


「いやさ、これは俺のおすすめの持論なんだけど、人に本をすすめる時に買ってあげた方がいいと思うんだよね。結構人によっては本が合う、合わないがあると思うし。大丈夫だと思うと念のために。それとこれは今までよくしてもらっているゆかりに対する俺からのプレゼントだ。家事もほとんど良くしていないのに、同居生活してくれている俺からのお礼ということで。だから、お願いします!」

 頭を上げる俺にゆかりは慈愛(じあい)の瞳をよこしてくれた。


「そう言ってくれたありがとう兄さん。私とっても嬉しい(うれしい)」

「うん」

「わかった、払ってね。兄さん。今晩私が夕食頑張るから」

「期待している」

 それで、俺は妹のスマホに俺が面白かったラノベをダウンロードさせたのだった。



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