第5話由依姉さんのところへ

 それから俺は小説の執筆をして、ゆかりは本を読み。昼食は俺がトマトとバジルのパスタを作り食べ終えた頃、俺はゆかりに言った。


「ちょっと出かけてくるわ」

「出かけるってどこへ?」


「由衣(ゆい)姉さんのところ。今回の件を相談してみる」


「由衣姉さん。あの私たちの従兄弟(いとこ)の?」

「ああ」

俺は頷く。それにゆかりは苦い表情をした。


「兄さん、結婚のこと」


「ああ、お前が嫌いなわけじゃないよ。でもさ、実の妹と養子をもらって家庭生活を送るのはさ、何というか個人的に違和感があるんだよ」

 それにやはり苦い表情をしてゆかりは頷いた(うなずいた)。


「分かる」

「ゆかり?」


「私も兄さんの考えていることわかるよ」

 それに俺も頷いて、ゆかりが座っているソファに腰掛けた。


「やっぱりさ」

「うん」


「実の妹との結婚は違和感があるよ」

「うん」


「これまでさ、俺たくさんゆかりに親切にしてきた。でもさ、それは仲良くなるために親切にしてきたわけじゃないよ」


「うん」


「単純に、妹だから、赤の他人、というのはおかしいけど、でもさ、実の妹はさ、赤の他人以上に遠い存在だからさ、だから親切にしてきたわけで、特段妹と仲良くしようなんて考えもしなかった。いや結婚しようなんて考えもしなかった」


「当たり前だよ。兄さんがそんなふうに考えていたら、私兄さんから逃げてた」

 そう言って前歯を見せてゆかりは笑った。

 俺も頬が緩む(ゆるむ)。


「そうだよな。普通、そうだよな?」

「うん、そう」

「でも、由衣姉さんのところには行ってくるよ。ちょっと整理つけたい感じ」

 ゆかりはにっこり笑う。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 そして、俺は出かけた。





 今年の秋は異常だった。10月まで暑かったと思ったら、一気に冷え込むし、また秋のような気候になるしで、ちょっと変な気候だった。11月になって冬らしさは出てきたものの、なんとなく精神的にしっくり来なかったのだ、今年の秋は。


それで冬になったわけだが、まだ変な秋の空気を感じて、冬の冷気を感じながらなんとなくしっくりこない気分だ。ともかく、俺は自転車で由衣姉さんのところに向かった。


 俺たちが住んでいる団地とはまたちょっと距離があるところで、由衣姉さんの住んでいる場所は一軒家が連なるベッドタウンで、由衣姉さんの亭主は大企業の係長クラスの人でこういう大都市のベッドタウンで一軒家を買えるほど稼げているのだ。


 俺は由衣姉さんの自宅に到着して、自転車を降りた。もう時刻は3時を回ったところだった。


 由衣姉さんの自宅の庭には息子の勝(まさる)と娘の結女(ゆめ)がいて、俺が停車すると近くに寄ってきた。


「あ!おじさんだ!」

 俺はにっこり笑う。


「こんにちは、勝さんに結女さん」

それに二人はお辞儀をする。


「こんにちは、おじさん」

「ちょっと自転車止めてくる。お母さんいるかい?」

「うん」

 その時由衣姉さんが家から出てきた。


 昔は美人だったが、今は顔に明るさはなく普通のおばさんだった。ただ、あんまり太ってはいない。むしろ痩せている。

 由衣姉さんはキャンディーを咥え(くわえ)ながら言った。


「おお、命か。悪い。今から買い出しに行くから、子供達の面倒を見てくれるか?」

「はい。いいですよ」

 由衣姉さんはガレージに行く。口に咥え(くわえ)ているキャンディーはタバコがわりにキャンディーを代わりにして、今ではそれが癖になっているらしい。


 これでも結婚前は重度のヘビースモーカーだったが、結婚をきっかけにすぱりやめたのだが、何か口が寂しくらしくベロベロキャンディーをいつも咥え(くわえ)ているのだ。


 そのせいで、ちょっと虫歯が増えたと本人は言ってた。

 俺は適当に自転車を止めて、しゃがんで勝さんと結女さんに言った。


 ちなみに俺が子供にさん付けをするのは、何となくそれがしっくり来るからだ。別に甥と姪とそんなに仲良くないから、さん付けさせてもらっている。


「じゃあ、勝さん、結女さんなにしてあそぼうか?」

「かけっこ!」

「おままごと!」


「じゃあ、両方ともやろうか。あ、車が来るから危ないよこっちに来て。じゃあね、まずはかけっこからしようかな?」

 それから俺たちはずっと遊んでいた。




「いただきます」

「はい、いただきます」


 俺は結局由衣姉さんの家で夕食を取ることとなった。もうそのことはゆかりには伝えてある。


 由衣姉さんの料理はシチューだった。

 定番ものではあるが子供たちには評判が高く。すぐに平らげてしまった。


「そういやぁ、お前たち兄妹は元気よくやっているかい?」

由衣姉さんは優しい瞳をして聞いてくる。


「はい、仲良くやっています」

 それにうんうんと由衣姉さんは頷いた(うなずいた)。


「兄妹仲良くが一番だ」

 俺たちが普通の大人の世間話をしているときに、しかし、こういう場合でも得てして事件は起きるもので、今晩の献立はご飯にシチューと唐揚げ(からあげ)とサラダだった。


 その結女さんの分の唐揚げ(からあげ)をさっと勝さんは食べてしまったのだ。

 それには結女さんの泣き声で気づいた。

 僕は結女さんにどうかしたかと尋ねると、結女さんは涙を流しながら言った。


「お兄ちゃんが私の唐揚げ(からあげ)取ったー!」

 俺は勝さんをきっと睨んだ(にらんだ)。

「これ、勝さん」

 しかし、それに勝さんが歯を向いて反抗する。


「何だよー?俺は悪いことやってないぞー!」

 やれやれ、まあ仕方ないよなこれぐらいの男の子は………

 俺は由衣姉さんにアイコンタクトで俺に任してくれと伝えた。由衣姉さんも頷いた(うなずいた)。


「勝さん。どんなことがあっても女の子を泣かせてはいけません」

「何でぇ。俺が悪者の言い方じゃねえかよ」


「そういうことではなく、男子は女の子を守らないといけないのです。だから、女の子に変わってそんな役割を引き受けるのが男子としてのあり方です。まして女の子を泣かせるにはあってはならないことですよ」

 勝さんの視線が俯いた(うつむいた)。


「勝さん」

「………」

「結女さんに謝ってください」

「……………」

「それが紳士としての真のあり方ですよ」


 勝さんは黙ったままだ。ここで紳士になりたくないんですか?というのはタブーだ。

 こういうお年の男の子は紳士という言葉に、いい感情を持ち合わせていないケースもあるし、勝さんはそういうタイプだと思った。

 それに女の子にモテなくなるよ、というのも絶対タブーだ。


 これは本当に真摯に男の子が渇望(しんしにおとこのこがかつぼう)しているもので、そういうことを言うのは逆に逆撫で(さかなで)する危険性がある。


 なので、俺は慌てず(あわてず)にことに対して静観(せいかん)した。

 しかし、あんまり謝る気は無いので、俺は由衣姉さんに言った。


「すみません、勝さんを貸してくれませんか?」

「おう、何する気だ?」


「謝るまで、家の外へ放り出します、俺が一緒についていきます」

「うーん、そうだなぁ」


 それに由衣姉さんが悩んでいる素振りを見せると、勝さんは慌てた(あわてた)。


「ご、ごめん!結女!ね?おじさん、お母さんこれでいいでしょう?」

 それに由衣姉さんが勝さんの顔を抱きしめていった。

「よし、偉いぞ。ちゃんと謝られたね」

「うん」

「結女さんもこれでいいでしょう?」

 それにちっこい頭を動かして結女さんは頷いた(うなずいた)。


「うん」

 ばんばんと由衣姉さんは手を叩いて言った。


「ハイハイ、食事が終わったら洗い場に皿を持ってきてね」

「はーい」

 俺たちは洗い場に皿を持っていき、その途中で由衣姉さんに尋ねた。


「俺はどうしたらいいんでしょう?先にお風呂に入らせましょうか?」

「ううん、お風呂はまだできていないから、子供たちでゲームで遊んどいて。確か、家庭用の『スーパータッパ』があったはず」


「ああ、子供たちに教わります。じゃあ、仕掛けておいてください。僕たちは遊びますんで」

「うん。ありがとう。今日来てくれて本当に助かったわ。ありがとう」


「いえいえ、どういたしまして」

 それから、俺と子供たちはゲームをして、お風呂に入らせて、そして、子供達に絵本を聞かせながら寝かしつかせた。




「ご苦労様」

「いえいえ」

 子供を寝かせた後、俺たちはダイニングテーブルで祝杯をあげていた。


「で、話って何?」

 由衣姉さんはビール。俺はウィスキーだった。

「いや、大したことじゃあないんですけど」

「うん」


「妹のゆかりが俺と結婚したがってるらしくて」

 それにビールを一口飲み終えた由衣姉さんが興味深くこちらを見た。

「ほぉ」


 由衣姉さんは元からこう言う人だった。胆力(たんりょく)があると言うか、こんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話でも、とりあえず聞いてみよう、と言う胆力(たんりょく)と知性が備わっている女性が、由衣姉さんだった。


「いや、結婚と言っても大したことじゃあないですよ?キスもセックスもなしで、ただ単に一緒に暮らすだけの、今までと変わらない生活なんですが、彼女、養子をもらいたがっているらしくて、それで一緒に育てよう、と言ってきているのです」

「ふん」

 由衣姉さんはまた、ビールを一口飲んで言った。


「それで君はどう考えているんだ?妹にそんなこと言われて嬉しい(うれしい)のか?」

 そういたずらっぽく笑ってきた。

「別にそれはないです。世の兄たちは妹と結婚しようと言われたら気味悪がります」

で、君は気味が悪がったのか?」

「いや、普通ですね。どうもない。普通ですよ。妹とこれまで通り暮らしていく。それだけですよ」

 そう言ったら至極冷静(しごくれいせい)に由衣姉さんが言った。


「なら、ゆかりちゃんの提案を飲めばいいんじゃないか?別に考える必要性はないだろう?」

「そのことなんですけどね」

 俺は渋い(しぶい)表情をする。


「たとえそうだとしても、俺は心の心残りがあるんですよ」

「何がだね?」

「もし、養子を貰え(もらえ)ば、ゆかりにいい人が現れた場合その人と結婚できなくなるんじゃないかって。子供はペットとかとは違うわけだし、それでゆかりの選択肢が狭まる(せばまる)ことはできるだけしたくないなって思って」


「お前の方はどうなんだ?」

「え?俺?」

「お前にいい人はできないのか?」

 それに俺は首を横に振った。


「もう、この歳で彼女が一人もできないと、正直言って諦め(あきらめ)ています。昔から、俺は女性に毛嫌いされてきた性分なので」

 それに由衣姉さんはビールをくいっと飲んだ。


「ほら、お前も酒を飲め。こう言う時の酒だ」

「そうですね………」

 俺はウィスキーを一口飲んだ。

 

一口飲んだだけでアルコールのきつい香りが、喉と腹に響いてくる。

 この香りときつい感じが堪らない(たまらない)。


 それからしばらく俺たちは無言で酒を飲んでいた。

 そして、由衣姉さんははたと何かに気づいた。


「ああ、そういえば、お前は育休の子を助けたんだってな?何でも、その子が産休、育休を取ろうとしたときにその子の仕事を肩代わりしたって?」


「はい。そうですね。今までそれで忙しかったんですが、その人は昨日で無事復職できました」

「いい話じゃないか?お前の頑張りで一人の女性を助けたんじゃないか?そのことで縁はなかったのか?まあ、結婚した後で今更だが」


「ないですよ。よくその人にいじめを受けました」

「おや?その子はお前の後輩だと聞いたが?」

「そうなんですが、よく女子からいじめを受けているんですよ、俺は。原因はいまだに持って不明ですよ」


「ちょっと待て。そのいじめはその子が結婚する前のことだよな?」

「ええ、そうです。それで妊娠した後、課でその人の産休に対する討議をしていたのですが、周り全員が反対。その人がクビになりそうなときに、俺がその人の仕事の肩代わりをするって言ったのです」


 由衣姉さんはまじまじと俺の顔を見た。

「いじめられたのにか?」


「ええ。と言うかこう言うことってよくあるでしょ?女子は気弱そうな男子をいじめるのってよくあることだし、ゆかりにも散々いじめられましたよ」


「それでも、そのことゆかりちゃんには手を差し伸べたと?」


「ええ、さっきも勝さんにも言ったように、男子は女子を守るためにそんな役割を引き受けるのが、男子として当然なあり方ですよ」

 それにゆい姉さんは大きく鼻息をついた。


「わかったよ。お前はゆかりちゃんと結婚しとけ」

 俺の頭に疑問符が浮かんでくる。

「何でそうなるんです?」


「お前ほどのいい男はそうはいないからだ。これでゆかりちゃんも安泰(あんたい)だな」

 俺はため息をついた。


「そういえば、俺は由衣姉さんに聞きたいことがあるんですけど」

 それに、由衣姉さんは鷹揚(おうよう)に構えた。

「ん?何だい?」


「由衣姉さんは、主人と結婚した理由って何ですか?俺はどうしても結婚についてわからないんですよね。女性ってみんな俺のことをいじめるし、いじめない人でもコミュニケーションを取ろうとしない人が圧倒的に多いじゃないですか?そんなんで、友達にもなれないのに、結婚するなんて正直言って宇宙人の話を聞いているように現実感がないんですけど?」


 由衣姉さんは小さく首を動かすといった。

「ま、妥協かな?」

「妥協………」


「主人は取り立てて特徴がないけど、真面目で優しいから結婚したんだよ。家事もしてくれるしね。今日は残業(ざんぎょう)で帰りが遅いけど。いつもはこんなに帰りは遅くないし。大体、こう言う残業(ざんぎょう)が終わったら、有給取って目一杯家族サービス取ってくれるから、本当にあの人を選んでよかったよ」


「さっきは妥協って言った」

「まあ、それは私は、いや私たち女性はかっこいい男性と結婚したいと思っているんだけどね。それを捨てたってこと。でも、妥協した結果、幸せになれてないかといえば、必ずしもそうではない、ってのが私の答え」


 その返答に俺は沈黙(ちんもく)をする。

 そして、由衣姉さんは言葉を続ける。


「ゆかりちゃんも、本当はお兄ちゃん以外の人と結婚したいんだと思うんだ。女の子はみんな王子様を望んでいるからね。キスやセックスが苦手だと言っているけど、普通好きな人とのキスやセックスは女の子にとっては嬉しい(うれしい)ものだし、それだけであなたと結婚したいとは言わないと思う。多分、ゆかりちゃんは気づいたんだと思う。この世に白馬の王子様がいないと言うことに。だから妥協してあなたを選んだんじゃないのかな?多分そうだと思うよ。イケメンで仕事もできて、キスもsexも上手な男性でも肝心の生活力がダメなら、結婚者としてはノーだし。そう、生活力。あなたにはそれが備わっていると思うよ。命は家事ができたっけ?」


「ええ。普段は俺の趣味、小説を書くことに使わせてもらっていますが、料理ぐらいなら手伝うことがあります」

「そうそう、家事できる男子は結婚の必須(ひっす)条件よ。今日だって、子供の面倒を見てもらったし、そう言う男性は素敵よ」


「はぁ」

 そう言われても、肝心のことを聞き出せていない。


「そう言う由衣姉さんはどう思うのですか?」

 由衣姉さんは賢く表情を表に出さないヒョウの目をして聞き返してくる。

「何が?」


「兄と妹が結婚することです」

「………………」


「なるほど、俺が結婚に向いている男性だとしましょう。そしてゆかりはそう言う俺に惚れて結婚を申し込みました。ゆかりと俺が赤の他人なら俺もゆかりと結婚します。でも俺たちは実の兄弟です。それは倫理的に許されるものでしょうか?いくらキスやsexがないにしても実の兄妹同士は結婚をしてはいけないんじゃないでしょうか?」

 由衣姉さんはビールを一口飲んだ。


「お前はどう思っているんだ?」

「………」


「実の兄妹が結婚することを」

「わからないからここにきました」

「………………」

 由衣姉さんは椅子にもたれかかって、口をフーッとアルコール臭がする息を吐き出した。


「命」

「はい」

「お前の意見に私も賛成だ」

「……………」


「確かにお前はよくやったよ。ゆかりちゃんの話を無碍(むげ)にせずに私のところに来た。うん、こう言う繊細(せんさい)な問題は第三者の意見が絶対的に必要だ」

「……………」


「それを踏まえて意見をするとだな。お前が望めばゆかりちゃんと結婚してもいいよ。もちろん、ゆかりちゃんが望む条件で」


「はい、それはもちろん」

「こう言う問題はな、第三者の意見を聞くことが大事だと思う。当事者同士で判断してはいけないんだ」

「…………………」

それを踏まえて改めて私の考えを言うけど、君はゆかりちゃんと結婚すべきだと思うな。確かに兄妹同士でそう言うことをするのはよくないけど、でも、実質的に同居だろ?普通の兄妹の関係性と変わらないじゃないかんじゃないか?」


「……………そう、かもしれませんね」

「私が思うに結婚という言葉に振り回されている気がする。要は同居だろ?なら、同居をすればいいじゃないのか?まさか、その発言を受けてゆかりちゃんにドキドキしている、ということはないよな?」

 俺は憮然(ぶぜん)と答えた。


「ありません」

「なら、いいじゃないか、何も恥ずかしがることはない。普通に同居しちゃいな」

「そう、かもしれませんね。でも……………」


「でも?」

 由衣姉さんが訝しむような顔つきになった。

 俺は顔に火照りを感じながら、言の葉を紡ぐ。


「俺、思うんですけど、結婚てお互いがドキドキして特別な時間を作り出しながら時間と空間を重ねていくものだと思っていたんですけど、俺たちの間にはそのドキドキがないんです。それって、何というか、俺が思う結婚生活じゃない気がして。あ、もちろん、ゆかりとの結婚は同居ですけど、お互いがそれで最終地点に到着していいのかって思います。もっと、健全な結婚相手の可能性を閉じてこういう同居していいのかな?って思うんです」

 それにゆいお姉さんは頷いた(うなずいた)。


「お前の言いたいこともわかる」

「それなら!」


「でも、待て、私の話を聞いてくれ、私は妥協して結婚をしたって言っただろ?正直言って夫にはあんましドキドキはしなかった」

「由衣姉さん・・・・・・」

 由衣姉さんは遠い目をした。


「でも、彼と一緒にいると気持ちが落ち着いたよ。そんな安心できる間柄(あいだがら)のパートナーと、二人だけの時間を築くことは十分特別な時間と空間を二人で重ねられることなんじゃないのかな?」

「由衣姉さん・・・・」

 俺は黙りこくった。それに由衣姉さんは慈しむ(いつくしむ)目で俺を見ていた。


「今日は酒飲んだから帰れないだろう?ゆかりちゃんには伝えたのか?」

「ええ」

 そうしたら由衣姉さんは満面の笑みをして僕に言った。

なら、うちで寝な。布団は用意しておくから、お前はお風呂に入りなよ」

「はい」

 俺は風呂に入り、由衣姉さんはリビングに布団を敷いてくれた。

 そして出た後もすぐには風呂に入らずちびちびとウィスキーを飲んでいた。

 11月の夜の冷気でも、ウィスキーのおかげで身体中に火照りを感じた。

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