第3話ゆかりの真意

 自宅に帰ると、手洗いをして、リビングに行くともう妹が夕食を作っていた。


「あ、おかえり、兄さん。早かったね」


「ああ、今日は早くに帰れた。なんか手伝おうか?」


「玉ねぎの櫛切りお願い。今日はシチューだから」


「了解」

 俺はキッチンへ向かった。


 俺たちはマンションに住んでいるのだが。玄関から左右に分かれる通路がロの字につながっており、囲うようにある部屋が風呂場と脱衣所とトイレ(仕切りがある)左側の二つの部屋が俺たちの部屋、右側の部屋が今は物置。まあ、結婚したらどっちかの子供部屋になるかもだけど。


そして、奥に扉開けて左奥にキッチン、それを隣接するようにダイニングテーブル、そしてリビングとテレビがり、まあ向こうにベランダがある。

 

結構高価なマンションだけど、どっちかが結婚を前提に考えるとこう言う間取りも悪くないかな?と思って買うのを即断した。


 それは別に後悔(こうかい)はしていない。


 それで俺はカバンとコートを上着をリビングにかけて手洗いをして、ゆかりの隣に立った。


「玉ねぎはこれか?」

 ゆかりはクリーム色の笑みをこぼす。


「うん」

「じゃあ、さっさと終わらすか。ゆかりに聞きたいこともあるし」


「OKよ、兄さん」

 それから程なくシチューは完成し、俺はテーブルに向かい合わせで座って、ゆかりに話しかけた。


「で、あれはどう言うことなんだ?」

 ゆかりはとろけそうなじゃがいもを頬張る。


「私たちが結婚しようと言うこと?」

「ああ」


「そうだね。説明が必要だね」

 ゆかりはスプーンをさらに置くと、俯いた(うつむいた)。長いまつ毛が光る。


「ねえ、兄さん。結婚、と聞くとどんなことを想像する?」

「そりゃあ、お前。愛する男女がお互いのことを思って、二人の時間を積み重ねていくことだろ?」

 それに、ゆかりは顎を刻々(こくこく)頷いた(うなずいた)。


「うん。そうだね。でさ、ぶっちゃけ、私たちの関係ってそうなっていない?」

「え?」

 俺は驚く。そうなっていない?と言われても………


「正直言ってわからないな?」

「そうかな?兄さんは私のことをどう思っている」


「妹。最愛の家族の一人だ」


「私のこと、妹として好き?」


「好きだ」


「私も、兄さんのことが好き。兄さんと一緒の時間を積みかさねたいと思っている」

「え、ええ!?」

 俺は当惑する。いや、ゆかりが俺のことを好いてくれているのはなんとなくわかった。だが、それは兄としてであって。決して異性関係のような好かれ方ではなかったはずだ。


 しかし、その前に確認することがあった。

「なあ、ゆかり」


「何?兄さん」

「お前は俺と一緒に時間を積み重ねたいと言ったが、それは当然キスとかセックスはなしの方向で?」

 それにゆかりはちょっとしどろもどろになって答える。


「いや、ちょっと違うかな?」


「でも、普通の異性関係の夫婦だとキスとかセックスできるよ?そんなのをない方を選ぶの?俺との結婚生活、と言うか同居生活を選ぶと言うことは」

 ゆかりは眉(まゆ)を顰め(しかめ)た。


「ゆかり」

 ゆかりは今まで食べていたシチューを食べやめ、スプーンを皿の中においた。


「実は今まで、そのことで悩んでいて」

「うん」


「普通の夫婦ならさ、キスとかセックスとかできるわけじゃない?でも、兄弟はできないわけじゃない?」


「まあな。気持ち悪いしな」

「うん。そうだよね。でもさ、私、実はキスとかセックス苦手なんだよね」


「ほう。そう言うのに憧れはないと?」

「いや、あるんだけどね。理想のシチュが。でもさ、それってお互いの心が感じ合った時にするものでしょう?でも、リアルの男性はそうなっていないじゃん?何かとキスとかセックスとか強要してさ。正直言って、そんな関係なら、ない方がよっぽどいい。だから、兄さんに白羽の矢が立ったわけなのよ」


「あー、なるほどねぇ」

 つまりはそう言う事情か。男が女心を読むのは難しそうだし。男は女性の容姿しかみていない人が95%だからな。


「だから、兄さんに白羽の矢が立ったわけだけど、兄さんは嫌?」

 そう、よくラノベや漫画とかで潤んだ上目遣いで見てくるふうじゃなくて、普通にシチューを食べながら何気ない世間話のように妹は話した。


「まあ」

「まあ?」


「考えさせてください」

「はい」

 それに妹が頷いた(うなずいた)後、こうも付け加えた。


「兄さんが、普通の夫婦関係に憧れるなら別に私は構わないよ。この話はなかったことでいい」


「ああ、それはない」

 ゆかりの大きな瞳が俺を捉える。


「俺は実のところモテないんだ。だから、その心配はしなくていい」

 それにゆかりは噛み(かみ)締めるように頷いた(うなずいた)。


「兄さんが、モテないねぇ。なんとなくわかるわ。兄さん優しいから、モテないんでしょ?私はそう言うところが好きで兄さんと一緒になりたがっているのにねぇ。でも………」

「でも?」


 ゆかりは苦虫を噛み(かみ)締めた表情をした。

「今の若い女性。優しい男性嫌いだもんね」

 全くその通り。


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