第2話情けは人の為ならず

一部 妹と結婚!?



 妹の爆弾発言によって興奮冷めやらぬ(さめやらぬ)今朝。結局日課の小説を書き上げることはできなかった。


 妹曰く、後で詳しく説明するらしいとのことだが、なら、今朝いきなりこんな爆弾発言しないでいただきたい。


 いや、兄としての意見というより、一般社会人としての常識だ。


 それに今日は特別な日なのだ。


 2年前、産休プラス育休を取った、南透子(みなみとうこ)さんが職場復帰してくる日なのだ。


 それに俺が何が関係があるかというと、俺はこの南さんの業務を肩代わりして、ここ2年間結構忙しかったのだ。


 なので、趣味の小説と、そして、スキルを獲得しようとしている英会話が結構滞っ(とどこおっ)たのだが、しかし、建前上としては男女平等の今の時代、同僚(どうりょう)の女性が育休と産休を取ったら力を貸してあげるのが今の男としての礼儀というものだろう。だが………


『次、新宿、新宿ぅ。お降りになれるお客様はおられませんか?もし降りられるお客様がいましたら中より詰めて、道を開けてください』


 新宿か。そういえば、新宿を舞台にした小説が新人賞で大賞を受賞していたな、ナハハ。


 はぁー。


 そうくだらないことで現実逃避するほどに、俺の心境をすしずめ状態の満員電車の如く(実際にその通りなのだが)、憂鬱(ゆううつ)という固まりで心がいっぱいだった。


 あんまり、会いたくないな。


 正直言って、南さんとはあまり仲が良くなかった。せいぜい南さんが俺を馬鹿にするぐらいの間柄(あいだがら)だった。


 というか、それをいうなら、職場の女子とは仲が良くないけど…………。

 俺は嘆息を一つして、スマホを取り出した。

 ゲームはせずに、bookを開いて今読んでいる小説を読む。

 小説は昔のライトノベルで。『白銀お嬢様との甘々生活』というそのまんまのタイトル通りのラノベだった。


 このラノベ、最初に知ったのは僕が高校生の時、ムービーワークスという動画サイトで違法アップロードをされていたやつを見たのが最初で、その時は全話見たのだが、正直言ってつまらなかった、のを機に永久(えいきゅう)に時の狭間(はざま)へ追放していたのだが、スマホを買って、昔のラノベが合本版ということで結構出ていることに気づいた俺は、昔好きだったラノベ『魔法ラブ』を買ったのだが、これがあまりにスマホ向けではないということに気がついた。


 いや、いいんだよ?話は面白すぎるんだよ。しかし、大爆笑のネタ満載で電車で読むのはちょっと堪える(こたえる)、というところでこのラノベ、『白銀お嬢様の甘々生活』いやこれを原作としたアニメを知って、あのアニメの出来なら、まあまあだよなぁ、と思いとりあえず一巻だけを無料サンプルした結果、これがドストライクだった。

それから一巻を買い、ついで合本版を買い、ということで個人的にメチャクチャあたりを引けた作品なのだ。


 なんか、無料の10連召喚チケットを配られて引いたら、人権キャラを引けたようなそんな最高の当たりだった。


で今は6巻で、初詣(はつもうで)に行く会なのだが、そういえばと思う。

 

今月は11月だよな。やっぱ、今年もゆかりと初詣(はつもうで)に行くことになるかな?

 そうふと思ってしまう。今朝の結婚してください発言はこの際横に置くとして、今の生活に満足しているかと言われたら、俺は満足している、と答える。


 これまで人生イコール彼女いない歴の30歳だが、しかし、俺から言わせてもらえれば、結婚しているという人が不思議でしょうがなかった。



 そもそも、いい異性がいないということよりもさ、女性って男性と友達になりたがらないじゃん?それなのに、それなのに、どうやってその次のステップに進むんだよという話だよ。


 だから、声優の不倫騒動で、あ、本当に声優って結婚しているんだ、とようやく、声優の偽装結婚疑惑が抜け出せれた今日この頃なのだった(自分一人しかいなかったが)。


「次ぃ、高田馬場、高田馬場。降りられるお客様がいましたら道をお譲りください」

 そのアナウンスで俺はハッとした。降りる駅だ。

「すみません。通してください」


 また、濁流(だくりゅう)のような人並みに逆らわず、スマホを落とさないように注意しながら流されていった。




「おはようございます」


 高田馬場近くの某ビル4階。そこは中曽根ネジ事務所のオフィスだった。


 俺は同僚(どうりょう)に挨拶(あいさつ)していく。


 しかし、同僚(どうりょう)のほとんどは無視するか俯き(うつむき)加減に会釈(えしゃく)するだけで、とても陰気な職場と言っても差し支え(さしつかえ)がなかった。


 俺は自分のテーブルに行くと、ハンガーにコートをかけ、上着を椅子にかけた。

 何せ社内は暑いのだ。

 エアコンをガンガンにかけて、冬とは言ってもコートや上着を着ていたら暑くて叶わな(かなわな)い。


 正直言って勘弁してくれ、って感じだ。その電力は火力発電から来ているのだから、電力を使えば使うほど、二酸化炭素を出し、気候変動が激しくなる。


 若い俺からしたらマジやめて、という感じで、一応、課長に直弾番(じかだんばん)もしたのだが鼻で笑われた。


 その時の気持ちを思い返してブルーになったのだが、そんな俺に肩を叩かれた感触が伝わった。


「よ、葛木(かつらぎ)」


「渡部(わたべ)。おはよう」


 肩を叩いてきたのは髪を茶髪に染めたどこか軽薄(けいはく)そうな男性、渡部(わたべ)健三郎(けんざぶろう)だった。


 健三郎という名前に似合わず、考えているのは女の子ばかりという、同性からしたら正直言って気持ち悪いのだが、これでも異性からは人気がある。


 よくもまあ、こんな女性の胸しか考えていない奴をイケメンだからという理由で好きになる女子はほんとにくだらないと思いつつ、そういうのが現実としてある。


 さっき、気持ち悪い、と言ったが、しかし、挨拶(あいさつ)ができる分だけ渡部(わたべ)はまだマシな方で、世の中には、二股をかけるような人を社会人として失格、というが、それは違うんじゃないかな?と俺は思う。


 確かに、彼らのやったことは道徳的に批判するようなことだろう。


 しかし、そういう人は世の中にたくさんいるし、腐る(くさる)ほど、男は不倫しまくっている。

 批判されるのは当然だが、しかし、社会人失格というのは言い過ぎというか、不倫はプライベートなことだし、社会人は、社会や会社にとっての常識が結びついている人であって、不倫だからと言って社会人失格というのはおかしいと思う。


 かくいう、この渡部(わたべ)も妻子持ちだが、新人社員と懇ろ(ねんごろ)な関係を結んでいる、世の中によくいる社会人の典型的な人物だ。


 だが、別に彼を社会を批判したいわけじゃない。むしろ彼は気さくだし、話す分には気持ちのいいやつだ。


 むしろ、彼以上に最悪、というか許せない奴がいて、さっきの俯いた(うつむいた)まま頷いた(うなずいた)奴、笹原だが、小太りでかなりパッとしない、モテない男子の典型的な奴だが、彼は全く  自分からコミュニケーションを取ろうとしない。挨拶(あいさつ)もしない。


 彼みたいな人物を俺は蛇蝎(だかつ)の如く毛嫌いしている。しかも、俺が買いている小説の主人公と名字が一緒なのがもうちょう〜いや!!!


  おっほん、結論を言わせてもらえれば、仕事はチームワークでやるものだし、最低限挨拶(あいさつ)をして当然だろ?


 社会人として不倫が許されないのは、まあ、芸能人は例外的だとしても、社会人として社会人失格とは言えないと思う。


 前にも言ったように社会人はチームワークで仕事をしているのだ。不倫とかは当事者のプライベートな問題であり、それで嫌になってもらうのも結構だが、まずチームとして仕事している以上、笹原のような挨拶(あいさつ)をできない社会人が一番に批判されて然るべきだろう。


 まあ、でも、セクハラは別だけどな。セクハラは上司が権力を使って力の弱い女性社員に性的関係(ここでは体に触れる、下ネタを言うも含む)するものであって、それは許してはいけない。


 なんか、今の日本を見ていると、セクハラと不倫が同列的に扱われているようだけど、その二つは全く別物だ。


 不倫は、両者に合意があるため、当事者でどうにかすればいいものだが、セクハラは、上司の、上の権力を持っているものが、権力を持っていない社員に対して性的関係性を迫るもので、個人的にレイプに近いものだと思っている。


 セクハラだけは許してはならない。

 コホン。話を戻そう。


 俺は渡部(わたべ)に問うた。


「なんのようだ?渡部(わたべ)?」

 渡部(わたべ)はいつものようににヘラと笑った。


「そのことなんだけどね。クリスマスに合コンしね?お前、独身だろ?女は俺が集めるからさ、お前はゆかりさん誘ってきて?」


「それか・・・・・・」

 俺はうんざりとした口調で言った。


 こいつとは以前合コンに行ったことがある。そのときまだ、渡部(わたべ)は独身で彼女はいるという噂(うわさ)は聞いたことはあったが本当かどうかは分からなかった。本人はいないって言ってたっけ。


 だから、渡部(わたべ)に合コンをしよう!と誘われたときに、俺は二つ返事で了承したかったが、しかし、こいつは参加条件に女を一人紹介することを条件につけた。


 そのとき、いや、今もだが、俺には女友達がいなかった。だから妹のゆかりを紹介してやったところ、彼がゆかりに下手惚れして、そのときしつこくSNSの連絡先を聞いてきたので、その時はゆかりと一緒に途中で帰ることにしたのだ。


 当時は俺も、あんまりイケメンがどういうものかを知らずに、気のいい奴だ、ぐらいの感想しか持ち合わせていなかったが、後でゆかりに散々いびられて、あの時は本当にすまなかったな、との一言に尽きる。


 それ以来、俺はこいつを警戒するようになったのだ。


「すまない、渡部(わたべ)。それはできない。妹が君のことを毛嫌いしているんだ」


「ええ〜。いいじゃんかよ〜。もしかして、月日が経った大人の俺にメロメロになるかもしれないし」


「君に妻子があるということは伝えてある」


「げ!」


「しかも、君が若い女子社員と不倫関係にもあるということも伝えた」


「ぐえ!」

 俺の二つの言葉にヒキガエルが潰れた。

 しかし、ヒキガエルがガバッと起き上がって俺に反撃のジャンプをした。


「なんでそんなこと言うんだよ!俺になんか恨みでもあるわけ!」


「あるに決まってんだろ!大体、最初の合コンの時後で散々ゆかりから嫌味を言われたんだからな!それに妹を妻子持ちアンド、不倫関係にある男に紹介できるかって話だよ!」

 しかし、渡部(わたべ)はニタリと笑った。


「でも、いいのかな〜」


「何がだ?」


「君、結婚していないそうじゃないか?他にも彼女がいないとか?そんな独身のうら寂しい(さびしい)生活を食っていいのかな〜?俺なら女ならいくらでも紹介するけど?君がゆかりちゃんを紹介してくれればの話だけど?」

 それに俺はため息をついた。


「なあ、渡部(わたべ)よ。あの最初の合コンから今日まで何回その話を振ってきた?」


「1083回だよん♪」


「それで何回俺が否定の返事をしてきた?」


「1082回だワン♪」



「じゃあ、1083回目もノーだ。覚えとけ。じゃあ、俺はやることがあるから、先に行く」


「ちょ!」

 俺はツカツカと給仕口に行くと、渡部(わたべ)がついてきた。


「なんで、お前がついてくるんだ?」

 渡部(わたべ)は俺の背中を叩いた。


「へへ、お前、愛ちゃん見に行くんだろ?」


「見に行かねえよ。俺が今まで何をしているかお前ならわかっているだろう?」



「そう言ったって。ドリップコーヒーをセットして、コーヒーを配って、女性社員のハートをゲットするんだろう?いい作戦だ」

 そう、深く、頷く渡部(わたべ)に俺はため息を出した。


「あのな……………」

 俺は振り返る。


「別に女性に好意を持たれようと給仕するわけじゃない」

「じゃあなんでするんだろう?そうやって女性社員と好感度稼いで、付き合うために親切にするんだろう?」

 俺はため息をついた。


「お前は『情け人の為ならず』を実践(じっせん)しているようだな」


「おうよ。俺は年増やブスにかける情けはねえ!」


 だめだ、コイツ。まあ、今の現代人でも誤解しやすい諺(ことわざ)だからな。ただ単に渡部(わたべ)がバカだと言い切るには、ちょっと、不公平感がある。はぁ、学校では一体何を教えてるんだか。

 そして、俺たちは給仕口にきた。その途端(とたん)、渡部(わたべ)は後ずさった。


「悪い。さっきの『情けは人の為ならず』だ。俺は遠慮させてもらうぜ」


「わかった。コーヒーはいるか?」


「おう、ブラックで頼むぜ」


「わかったよ」


 給仕口にいた、新人女性社員は、最近美人友っぽらの噂(うわさ)の、加賀美愛(かがみあい)ではなく。芋っこい顔で太っている、漆原恵(うるしばらめぐみ)だった。

「漆原さん」


 俺は漆原さんに声をかけた。彼女はビクッと体を震わせ、恐る恐る俺の方を向いた。いつもながら、いつも通り、俺は女性に警戒されていた。

 俺はにっこり笑って言った。


「ドリップコーヒーしてくれてたんだね。ありがとう。運ぶの手伝うよ」

 それに漆原さんはぶんぶんと首を横に降る。


「い、いえ!これは新人のやることなので、別に結構です」

 後半になるに舌が立ってしどろもどろになる彼女は俺は憐れみ(あわれみ)の情を抱いた。


「手伝わせて、欲しいな。もちろん、君が嫌ならいいんだが。いつも、こういうのを女性社員がやるのはおかしいと前々から俺は思っているんだ。だめ、かな?」

 それに、漆原さんは顔を俯かせた(うつむかせた)。返事はない。


「わかった。給仕は漆原さんに任せるよ。俺はミルクだけ、渡部(わたべ)はブラックが所望(しょもう)のようだ。任せたよ」


 それに漆原さんはペコペコ頭を下げた。

 そして、自分の席に戻る。

 戻る最中、南透子さんの姿を発見した。彼女に近づく。


「南さん、出産おめでとう。無事職場復帰できて何よりだ」

 それに南さんはにっこり笑った。


「はい。ありがとうございます」


 南さんはなかなかの美人だ。ゆかりに比べるとおっとりとした印象があるが、彼女もまたかなりのアイドル顔だ。

 伸ばした前髪。透き通る黒い髪、白い肌。そして、三つ編みなのが、何かしっかりした印象を周りにもたらす。

 本当に、出産後も変わらない美人だった。


「君の担当は全部俺がやっておいたから、ちょっとパソコン、貸して。クラウドにファイルを入れているんだ」


「あ、はい。どうぞ」


 パソコンは立ち上がっていた。そこから会社のクラウドを立ち上げて、連結。そこから、彼女に必要な書類をダウンロードしていった。


「はい。済んだ。1から説明していくよ」

 南さんは大きな目を瞬かせて頷いた(うなずいた)。


「まず、2年前、南さんが担当していたオリンピックの土木関連のネジ業者だけど、一部は中国の企業、一部は東南アジアの企業、そして国内の老朽化した建物の公共事業に移された。トンネルのネジ類はいつも通り。それで、この安田ネジが中国の広州の企業に……………」

 そして、俺は南さんに、彼女から引き継がれた仕事をまた、彼女に説明した。




 そして、仕事が終わり。今日は残業(ざんぎょう)が無しだった。


「よし、みんな。南の復帰祝いをするぞ」

 課長の言葉に歓声をあげる渡部(わたべ)。しかし歓声をあげたのは渡部(わたべ)だけだった。他のみんなは様子を伺う(うかがう)ような目つきをする。


「あの」

 俺が手をあげる。

 森脇課長が目を細める。


「なんだ?葛木(かつらぎ)。怒らないからなんでも言ってみろ」

 森脇課長はアラフォーの課長だった。昔は美人らしいのだが、きつい性格が災いしてか、いまだ独身、しかも、もう若い頃の美貌はなく、容姿は醜かった。

 何よりも、目つきが人間的ではないと言うか、人の温かさがない、猜疑心(さいぎしん)に溢れた(あふれた)目つきをしていた。当然さっきのセリフも冷え冷えとしたものだった。


「俺は遠慮しておきます。小説を書きたいんで、飲み会はキャンセルです」

 当然、怒りが降ってくる。


「全く、お前と言うやつは!最近の若いやつは!飲み会に行くことも知らんのか!だからお前はだめなやつなんだよ!だから、お前の小説は売れないんだよ!この人間のクズが!」


 課長はいつもながら喧嘩腰だった。

 これで、デレがあればツンデレかもしれないが、残念ながら彼女にそう言う可愛い要素は微塵もない。ただの、ムカつくヤローだ。

 知らずとして言葉が飛び出してくる。


「訂正してください」


「何?」


「俺の人格を貶めるようなことを言うのは明白なパワハラですよ?さっきのを取り消さないのなら、弁護士に相談しますよ?」

 それに課長は舌打ちをした。

 それを取りなすように南さんが言う。


「まあまあ、私は行きますから。みんなが私のために歓迎会か。わー、嬉しい(うれしい)なー」


「でも、大丈夫ですか?南さん小さな赤ちゃんがいるんじゃあ?早く帰ってあげないと…………」

 その時、右足に激痛が走った。

 社内きっての大女の杜崎(もりさき)さんがにらめつけてきた。

なんですか?杜崎(もりさき)さん?」

 それに杜崎(もりさき)さんがイライラするような顔つきをする。


「口があるんなら、言葉で喋ったら(しゃべったら)どうですか?」

 あくまで睨み(にらみ)付ける杜崎(もりさき)さんに、また南さんが割って入ってきた。


「大丈夫よ、葛木(かつらぎ)さん。今日から夫が育休取って面倒見てくれているから、大丈夫。ごめんね?心配かけちゃって」


「いや、それなら、いいんですが……」

 本人が納得しているのならそれで、いいのか?日本人の特性上、本人は赤ちゃんの様子を見たいけど、場の空気に合わせてあえて帰らない、と言う空気の束縛に縛られている可能性があった。


 ま、でも、こう言うのは他人がとやかく言えないわな。当人の問題だし。当人が嫌だと言わない限りはどうすることもできないわな。


「じゃ、お先失礼しまーす」

 みんなが無視する中、南さんがにっこり笑いかけてくる。


「はい。お疲れ様でした」

 それで職場の人と別れて、帰路についた。

 いまの時刻は午後6時。この調子だと7時には帰れるな。


  今の時刻、そんなに人がいない。

  大体は学生が帰路についている最中なもので、大方の社会人はもっと遅くまで仕事をする。


 コロナの後、テレワークや時間外出勤など言い始めても、まだまだそれを実践(じっせん)する企業は少なく。やはりフルタイム形式の企業が多い。


 ぱっと見多く感じる。それでも高田馬場は都会だから、結構な人混みはあるが、本当に混みだすのは7時から9時あたりだ。


 鉄道も、コロナの関係上、遅くの駅は打ち切り、そんなに電車も出さないので。本当にあの時間帯の電車は地獄だ。


 コロナは若い世代には致死的な病気ではないにしろ、東京オリンピック、パラリンピックの後、東京初の新たな変異種が発生し(フォルチュナ株)、今猛威を振るっている。


 必ずしも50歳ぐらいはおよそ死なないとは言えなくなった。


 と言うか電車の本数を増やして、せめて人の分散を行なってほしい。

 そう言えば、小池都知事が間抜けなことを言っていたよな。


 若い人も人の混雑している場所を避けてください、と。なら、問い返すが、仕事で電車を使っている人はどうするんだ?最も混雑している場所に行きたくて行っているわけじゃないんだぞ。


 そして、ふと思い出す。若い頃を。

 俺は自動車の教習所には通わなかった。なぜなら、あの時は東京に移動する分は鉄道と地下鉄があれば十分だ、と思っていたからだ。それに自動車は好きじゃなかったし。


 ちなみに妹のゆかりはとった。彼女は自動車が好きで、何度かドライブに連れてってくれたことがある。


 俺はどっちかと言うと自動車よりも、自転車派だ。風を受けて走りだす、自転車の方がとても気持ちいい。


 それならバイクを取ろうとしなかったのか?と思う人もいるかもしれないが、俺はこれでもエコを意識している。なるべく二酸化炭素を出すものは遠慮したかったのだ。しかし…………


 ふと、俺は自嘲(じちょう)する。


 まさかこう言う形でしっぺ返しを喰らうとは。本当に『情けは人の為ならず』と言うふうにできてないなこの社会は。

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