平行世界30日目その3にゃ~


 ネパールから飛び立ったUFOは、予告通り欧州の国々の上空に現れ、ランチも中で済ませたら、フランスでは凱旋門前に着陸。わしたちがUFOから下りたら、国民からスマホを向けられている。

 ちなみに天皇陛下は不法入国になるからって、中国以降UFOから一歩も下りてくれない。ムリヤリ出そうとしたら、タライを落とすから諦めた。


 フランスでは警察の人に相談して、ちょっと観光。わしのバスに乗り込み、町並みを見ながらエッフェル塔まで向かう。UFOは、しばし観賞用。天皇陛下にはスマホを貸してあるから、暇潰ししてると思われる。


「なんだか東の国の街並みに似てるわね」


 さっちゃんは一番前に座っているので、運転手のわしが相手してあげる。


「確かににゃ。ひょっとしたら、さっちゃんの先祖はフランス人なのかもしれないにゃ~」

「そっか……私たちの世界でも黒い森がなかったら、ここと同じような大きな町を作っていたんだ」

「かもにゃ~。ところでさっちゃんは、にゃん百年も家を残すことをどう思うにゃ?」

「私は古いのより、タワーマンションに住みたいな~」

「にゃはは。さっちゃんらしいにゃ~」


 その後、エッフェル塔を見て近くの古いアパートメントを見学し、「使い勝手悪っ!?」って言う皆に「法律で壊せない」と説明しながらUFOに戻るわしたちであった。


「にゃあにゃあ? ノルンちゃん。人間が空中に張り付いてるんにゃけど~??」

「いちおう結界を張っておいたんだよ」

「フランス人って怖い物知らずだにゃ……」


 ノルンが防犯対策をしていたおかげで、UFOからおよそ2メートル離れた場所に人間が浮かんで写真撮影しているのであったとさ。



 フランス人をUFOから引っぺがし、次の目的地に向かう。そしてやって来たのはスイスのジュネーブにある国連事務局。今日はここで会議をしていると聞いていたので、ムリヤリ参加させてもらう。

 リータとメイバイが威嚇するだけで一発だけど「キシャーーー!」はやめてほしいわ~。


「んじゃ、常任理事国は廃止にゃ。各国の多数決で、地球の問題に対処していこうにゃ」

「「「「「いやいやいやいや……」」」」」


 勝手に始めて勝手に締めたら、国連大使の全員から待ったが掛かってしまった。


「にゃに~? 常任理事国のくせに戦争始めたり、人権侵害やりまくり。にゃにも止めることもできない制度にゃんて必要にゃの? じゃあ、決を取るにゃ。常任理事国を残すことに賛成の人は、起立にゃ~」


 国連大使は周りを見回し、何か頷き合って、約7割が起立。たぶん、大国の指示に従ったのだろう。


「リータ、メイバイ……」

「「キシャーーー!」」


 でも、2人に威嚇されて着席。立ってられないともいう。


「全会一致で、常任理事国の廃止にゃ~。にゃはははは。ちにゃみに、次回わしたちが来た時に、これまで議題に上がった問題が一つでも片付いていにゃかったら、わしが世界を征服してやるにゃ~。にゃ~はっはっはっはっ」


 わしが高笑いすると、全員諦めモード。ロシアと中国をたった1人であしらったわしが怖いのだろう。無理矢理だが、これで核兵器廃絶も領土問題も紛争も人権侵害も食料問題も貧困問題も軍備削減も、本気で取り組んでくれるはずだ。

 わしはそう信じてUFOに乗り込み、ダメ押しで空からわしの脅威を染み込ませるのであった……


「シラタマ王からこの地球を守る部隊が必要だと思う人は起立を……全会一致で、地球防衛軍を新設します」


 そのせいで、わし1人だけが国連の敵と明記される。世界は一致団結して、猫の脅威と戦うのであったとさ。



 そんなこととは露知らず。やって来たのはイギリス。国王が出迎えてくれたから何事かと思ったら、天皇陛下が日本に連絡を取って行くと伝えていた模様。なので、ようやく天皇陛下はUFOから降りてくれた。

 残念ながら2人も代替わりしていてわしの会いたい人とは会えなかったが、国王とお喋り。何故、わしの前に現れたのかと聞くと、脅されるよりはまだマシだから。脅してまで会うつもりはなかったのに……


「天皇陛下……拉致されてお労しや……」

「そうなんです。あの猫、私が乗っているというのにやりたい放題で……」

「天皇陛下がついて来るって言ったんにゃろ~」


 国王と天皇陛下は仲良し。抱き合って愚痴ったり慰めあったりしている。わしのことも無視して話込んでいるので、そろそろ割って入ろう。


「王様には頼み事があるんにゃけど~?」

「ヒッ!?」

「シラタマ王、もう充分慈善活動はしたでしょ? 彼を怖がらせないでください」

「たいしたことじゃないにゃ~。イスラエルとパレスチナを仲直りさせるだけにゃ~」

「「大問題じゃないですか!?」」

「イギリスのせいでこうなってるんにゃから、解決しろにゃ~」


 国王はわしに怯えまくっているので、議会を説得すると言ってくれたから許してあげる。でも、「説得できなかったらわかっているな?」と脅しておいた。

 天皇陛下も協力を惜しまないと言ってくださったが、そもそも国連をすでに脅しているから、わりとすんなり話は進むはずだ。



 30分ほどイギリスに滞在したら、大西洋を越える。そしてやって来たのは、ビックアップル……ニューヨークだ。


「「「「「にゃ~~~……」」」」」


 大東京より発展した都市は、平行世界人に大好評。しばらく北から南にゆっくりと移動し、UFOが来てると宣伝する。そして海まで移動したら、さっちゃんたちが降りろとうるさいので……てか、ベティが勝手に着陸しやがった。


「「「「「ネコゴン??」」」」」

「自由の女神像にゃ~~~!!」


 そう。デッカイ石像があったから、皆はネコゴンの敵にしようと言い出したのだ。


「戦わないからにゃ? これは、アメリカの象徴にゃから、壊したら怒られるにゃ~」

「散々イロイロ壊してるのに、いまさら怒られる心配なんだ……」


 ベティが言う通り、この世界の人から見たら、わしは破壊の権化に見えるかもしれないが、壊した物に文化遺産はない。だからその目をやめてくれ。

 なんか「破壊のゴンニャー」とか「名無しの権兵衛」みたいにわしを呼ぶ皆をUFOに積み込んだら、今回はスピードを出して北上。セントラルパークに着陸した。


「ようこそ。お待ちしておりました!」


 この無地のTシャツを着た無精ヒゲのオッサンは、そんなふうに見えないだろうが、世界一の大富豪。欲しい技術があったから、前もってアメリカの記者から電話番号を手に入れて待ち合わせしていたのだ。

 ただし、アメリカ到着早々セントラルパークにUFOを着陸させると人が集まりすぎて身動きが取れなくなると思って、南に行くフェイントを入れたのだ。


「そんじゃあ、裏取り引きといきにゃすか」

「ブツはこちらでげす」

「にゃしゃしゃしゃしゃ」

「げへへへへ」


 大富豪は意外とノリがよく、わしと一緒に悪い顔で笑ってくれた。ベティたちからは「またやってるよ」と、冷めた目で見られたけど……

 とりあえずそのままの顔で、ノートパソコンにハードディスクを繋いで商品の確認。大富豪にはわしが渡せる物のリストを見せて、5個まで選ばせる。


「すんごい量だにゃ……」

「5個も貰えるのですから、奮発しました!」

「もうそのリストの物、全部あげるにゃ~」

「狙い通り! 間違えた……よっしゃ~!!」

「言い直したにゃ!?」


 どうやら大量の技術を見せたのは、わしの譲歩を引き出すため。わしがしてやられたって顔をしたら、大富豪はいいオッサンなのに「言質げんち取りました~!」って子供みたい。

 てか、いい物はほとんど日本にあげたから、わしに取ってはゴミみたいなもんじゃけど……喜んでくれてるから、まぁいっか。

 ちなみに今回の一番いい物は、月に行った時に真空パックした石とか砂。けっこう深く掘った物を詰めて来たのに、大富豪は魔鉱や魔道具、あとは高級肉に興味津々。月の石にも、もっと興味持ってほしいわ~。


 トレードが終わり、握手をして記念写真を撮っていたら、ニューヨーク市民がダッシュで押し寄せて来たので、大富豪はSPに守られて退避。

 わしたちは大富豪が安全に逃げ切れるように、ちょっと相手してあげる。


「魔法も見せてやるから座れにゃ~」

「「「「「ヒュー!」」」」」


 あまりにも「U・F・O! U・F・O!」「c・a・t! c・a・t!」とうるさいので、皆で魔法の披露。わしと玉藻の演武も見せてあげたら「サムライ」と「オイラン」に変わった。


「そんじゃあ忙しいから、次に移動するにゃ~。バイバイにゃ~ん」

「「「「「バイバイにゃ~ん」」」」」


 玉藻が「公家じゃ!」と反論していたが、うるさすぎるのでUFOに逃げ込んで素早く離陸し、「U・F・O! U・F・O!」連呼しているニューヨーク市民を置き去りにするわしたちであった。



 ニューヨークから南下し、やって来たのはワシントンDC。この広大なアメリカを束ねるホワイトハウスだ。


『にゃ~はっはっはっ。我が輩は猫であるにゃ。名前はシラタマにゃ。UFOがホワイトハウスを破壊する映画をこにゃいだ見たにゃ~。にゃ~はっはっはっ』


 ちょっとしたサービスでこんな大音量の放送をして着陸したら、老齢の大統領が土下座でお出迎え。


「壊さないでください!」

「にゃ? ただのジョークにゃ~」


 なんか行き違いがあったので、わしは謝罪してから大統領をVIP対応。テーブル席に高級肉のハンバーガーも出して食べさせる。


「てか、にゃんでそんにゃに怯えていたにゃ?」

「また何か無理難題を突き付けに来たと思いまして……」

「自由の国アメリカさんに、そんにゃこと言うわけないにゃ~」

「そうなんですか! やはり世界を守り続けた我々の活動を評価してくれているのですね!!」

「うんにゃ。その調子で、今まで中途半端にやって投げ出したことを全て解決してくれにゃ。頼んだからにゃ」

「え……ええぇぇ~……」


 わしがちょっと褒めたら大統領は鼻高々となったので、すぐさま切断。めっちゃ嫌そうな顔に変わった。


「嫌にゃらいいにゃ。いまからホワイトハウスと自由の女神を粉々にして、次回はアメリカ無双にゃ~」

「結局脅し!?」

「にゃ~はっはっはっ」


 大統領の言う通りきっちり脅して、UFOは飛び立つのであったとさ。



 ホワイトハウスをあとにして、ここからはしばらく空からの観光。南に飛び、たまに町の上空でUFOの姿を見せてあげる。

 ブラジルやアマゾン、マチュピチュやナスカの地上絵。うちの世界との違いを皆でキャッキャッと話をしていたら、天皇陛下も楽しそうにわしたちの会話に入っていた。今までが酷すぎたから、ようやく安心できたみたいだ。


 それからパナマ運河を皆に見せて昔話で盛り上がり、クリフパレスまで移動したらギリギリまで高度を下げて見学。

 天皇陛下には、企業に渡したまだ未発表のクリフパレスの研究資料を、わしから地底人が作ったと教えてあげる。地底人はアリ人間とも言ったら、なんか興奮してた。昆虫大好きなんだって。


 クリフパレス観光を終えると、西に飛んでアメリカ人にUFOを見せるサービス。海に入ったらキャプテンベティにスピードを上げさせ、ハワイ上空でもサービスだ。

 また西に飛べば、世界一周完了。その軌跡上にある国を脅しまくったのに、日本時間の夜には無事、皇居外苑にUFOは到着したのであった。


 UFOは着陸せずに、わしとさっちゃんと玉藻、それと天皇陛下は光に送られて地上に姿を現す。

 

「陛下。長旅ご苦労様にゃ。変にゃことに巻き込んですまなかったにゃ」


 さすがにやりすぎてしまった自覚かあるので、わしは天皇陛下に深々と頭を下げた。


「まったくです……しかし、シラタマ王がしたことは、我々は咎めることができません。よくぞ、この地球に住む民が思っていることを代弁してくれました。人権侵害、紛争、差別、飢餓に苦しむ全ての人に成り代わり、私が感謝の言葉を述べさせていただきます。ありがとうございました」


 天皇陛下は優しい顔に変わり、わしの肩を持って顔を上げると右手を握る。その瞬間、辺りから温かい拍手がわしたちに送られた。


「にゃははは。こちらこそありがとにゃ。あんにゃにやらかしたのに、どこに行っても優しくしてもらえたにゃ。そのことをわしは……わしたちは一生忘れないにゃ。どうかみにゃさんも、わしたちのことを忘れないでくださいにゃ。そして、世界には苦しんでいる人がいるということを忘れないでくださいにゃ。1人の力は小さくとも、1人1人が力を合わせれば、苦しんでいる人を笑顔にできるんにゃ~」


 わしは天皇陛下の手を離すと、さっちゃんと玉藻の間に立つ。


「では、名残惜しいけどさよならにゃ。次回、わしたちが来た時には、世界中が笑顔であふれていると信じているにゃ。最後に……」


 わしはさっちゃんと玉藻の手を握ると、一度上に手を上げてから3人で頭を下げる。


「1ヶ月間、お世話ににゃりました。並びに、騒ぎを起こしたことをここにお詫びしにゃす。世界中のみにゃさん……」

「「「ありがとうございにゃした~~~!!」」」


 感謝の言葉の後、UFOから放たれた光にわしたちは吸い込まれ、その数秒後には、UFOは第三世界から跡形もなく消え去るのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る